イチバンホシイモノ
なんだかヒトが沢山集まっているところを上から眺めていた。
しかも映画みたいっつーか、ココドコなんだ?金銀きらびやかな壁に、たかそーな装飾が施されて。大広間みたいな場所だった。
ああ、そうだ。いわゆる王様かなんかに謁見するような場所。宴会でもしているのか、酒や食べ物も沢山供されていて、音楽なんかを奏でている一角もある。
皆、不思議な衣装をきていた。なんとなくオリエンタル風な、布を皆纏っていて。
もっとよく見たいなと思ったとたん、俺の視点はそちらへ移る。なんか変なの。空飛んでるみたいな。俺の姿は誰にも見えないみたいで、近付いてみても誰も振り返らない。
正面中央が少し高いところになっていて、周囲とは比べ物にならないくらい立派な絨毯が敷き詰められていた。そこに白い布を纏った少年がいた。年の頃16〜7の。つまらなそうにあぐらをかいて座っている。皆の方を向いている所をみると、コイツが偉いヤツなのかな?
着ている服はなんだか中近東みたいな感じなのに、そこに入る人々の顔はなんだかしってるような。みんな日本人の顔なんだもん。
一人の男がその少年の前に、進み出る。あ、三杉だ。
やはり豪華そうな布を纏った彼は、家来のような男達に顎をついっとあげて合図をすると、少年の前に大きな箱を持って来させる。なんていうんだっけ、コレ。そうそう、螺鈿。
黒っぽい箱の周りには虹色に輝く貝が綺麗に鏤められている。
「お誕生日おめでとうございます。これをお祝にお持ちしました」
三杉が喋ると、箱が開けられる。
開けるとソコにはいわゆる金銀財宝。すっげー!!!ココでどれくらいの価値が有るのかわかんねえけど、こりゃ相当だぜ?さすが三杉。っつーか三杉?ま、いいや。
周りの人々からも、おおっ、といった歓声があがる。そらそうだよなー。
「ありがとう」
少年が淡々と応える。あんまり感動もしていねえようだ・・・。
貰い慣れてるのか?にしてもちょっとあんまりじゃねえ?一体どんなやつかと思って、少年の顔が見えるように近付いてみる。
「口付けをさせて頂いてもよろしいですか?」
「ああ」
三杉が恭しく少年の前に近付き跪く。
「おみ足を・・・」
少年がついっと右足を三杉の前に差し出した。うわ〜!なにコイツ!!!
それでも三杉は嬉しそうに、差し出された白い脚を壊れ物でも扱うように両手で掲げると、そうっとその足の甲接吻した。また、周りからため息のような声が漏れる。
皆羨ましいみたいな感じで。おいおいおい。
で、その少年の顔を覗き込んだら―――。
信じらんねえ・・・。俺、俺の顔じゃねえか・・・。イヤ、数年前の俺だけど。
なんでだよ〜〜〜?
三杉が、広間の脇に設えられた席に下がる。
すると次々と捧げものをする人々が俺の、イヤ、俺の顔した少年の前に進み出てくる。
そんでもって、その人々の顔がみんな見知った顔なんだ。
早田がやっぱり大阪弁で祝いの言葉を言った後、凄い量の食べ物を捧げていた。そして顔を紅潮させ上ずった声で感動の言葉を呟きながら、少年の足に接吻していた。むむむ?
あ、岬だ。岬は少年の顔を描いた絵画を直に手渡ししていた。
少年も今までとは変わって嬉しそうに微笑むと、両手を広げる。
岬と軽くハグまでしていた。岬は少年の俺の頬にちゅっとキスした。なんだか照れくさい。思わず俺も頬を撫でてしまう。
そうだよなー。やっぱり岬にお祝してもらえるのって嬉しいよな。
岬が描いてくれたらしい絵の中の少年も、とても明るく笑っていた。でも、ソコに座っている少年の表情はあまり冴えない。岬が脇へ下がるとまた、つまらなそうな憮然とした表情に戻ってしまった。
俺の顔してるんだから、そんな辛気くさい顔しないで欲しい。しかもどうやら誕生日祝ってもらってるようなのによー。俺はそんなに失礼なヤツじゃないんだぞ!
少年の俺の頬をぐにーっとひっぱるが、全然効果はないようで相変わらずの顔だった。
若島津が、新田が、翼が、若林が―――俺の知ってる皆が口々にお祝をしてくれて、いろんなプレゼントをくれている。その品々はホントに高価そうな価値のありそうなものばかりなのだけれど、見ているウチに俺の欲しいものはこういうものじゃあないんだよなと思い始めた。
そりゃあ貰えるものはうれしいけれど。これらに心が篭って無いとは言わないけれど。こういうんじゃなくてさ・・・。
黙っている少年は、それで威厳もかもし出していて、皆の尊敬と敬愛の対象になっているのかもしんねえけど。もし、もしも俺の顔と同じように、心の中も俺と同じだったら?
急に大広間が騒然とし始めた。
数十メートルはあろうかという広間の一番向こう。大きな入り口が開け放たれていた。
埋め尽くされていた人の波が左右に開き、一本の道を正面に作り出した。そこを大きな男がずかずかと進んでくる。
今までの人々とは異なり、黒っぽいシンプルな布は半身に纏い屈強そうな体の筋肉を露出させていた。
引き締まった肌は、常に外にいるからだろうか。真っ黒に日焼けして輝いていた。
男は、少年の前に立つ。
少年は、一瞬びっくりしたような顔をしながらも、黙って座っていた。
「祝いにきた」
「お前なんかがくるところではない」
「そうだ!身分を考えろ!」
男の低い声に、人々の罵声の声が重なる。
どうやら、男はこの席には参列を許されていなかった者らしい。しかし、男は淡々と続けた。
「本当に欲しいものを俺はやれる」
「光様の欲しいものだと?」
「そうだ」
ざわざわと人々の間に驚きの声が広がる。コイツは一体何をくれるっていうんだろう・・・?
少年の口がゆっくりと開かれた。
「俺の欲しいもの・・・?」
男は、黙って頷くと左脇に抱えていたボールのようなものをぽんっと少年に投げた。
しっかりと少年がそれを受け取り、まじまじと男の顔を見つめる。
「一緒に蹴ろう」
少年の顔がぱあっと輝いたかと思うと、すっと立ち上がった。
そして、肩から体に巻き付けてあった白い布をばっと脱ぎさり、男のように簡単に布を巻き付けただけの格好になる。
「光様!」
慌てて侍従のような者達が少年を引き止めようとするが、しなやかな動きで台座を飛び下り、男の前へ立つ。
男が無言で差し出した手に自分の手を置いた。
少年は、今までみたことなかった輝いた顔で嬉しそうに男を見上げた。
日向の顔した男は、これまた優しい微笑みで少年を引き寄せると、ボールをしっかり抱えた体をふわりと持ち上げた―――。
―――夢か。
なんちゅー夢だ。ぼうっと目に入ってきた天井の染みに、ようやく現実に引き戻された。
ああ、でもよかったな少年の俺。サッカーしたかったんだな。なんだか嬉しくなった。
起き上がろうとして、右手をしっかりと日向に握られているのに気付いた。
隣の日向はまだぐーぐーと寝息を立てている。
「お前が迎えにきてくれたんだな」
起きる気配のない日向の頬にキスをする。
そうだ、今日は俺の誕生日。
日向が起きたら、サッカーしよう。きっとコイツもそうしてくれるはず。日向の目が覚めるまで、もう少し暫くこのままでいよう・・・。
俺は、再び日向の胸に顔を埋めた。