俺の誕生日ということで、いつものメンバーが会を開いてくれた。
お誕生日会。
こういっちまうとすげえ恥ずかしいんですけど・・・。しかし実際渡された招待状には『日向小次郎お誕生日会』と銘打たれていた。
普段なら居酒屋。なのに今年は某ホテルのパーティルーム。わざわざこんなトコでやらなくても・・・と頭をかしげるくらいの豪華セッティング。
「明日はお祝しますから!迎えに行くんで待ってて下さいね♪」
そんな電話が反町から前夜掛かってきた。
まー、なんだかんだと毎年やってもらってるし。誰かの誕生祝いにかこつけて飲み会するのは、俺だけのコトに限ったわけじゃねえから。
で、さっき。若島津が車で迎えにきてくれて、手渡された立派な招待状。それをみてやっといつもと違うということがわかりはじめた俺。
「なんだよコレ」
「みんなに配ったやつですよ。いちおー主賓のあんたにも渡しておきますよ」
「主賓?」
「そーでしょう。あんたの為にみんな集まってくれるんですから」
「はぁ?」
都心のホテルで下ろされて。玄関で待ち構えていた岬と三杉に連行されて、ホテルの一室で着替えさせられた。
すこし光沢のあるスーツ。そういや二人も割とフォーマルな感じの服を着ていた。
「日向、一応このスーツは僕からのプレゼントってことで」
「へ?ああ、どうも・・・悪いな」
三杉の言葉に条件反射で礼を言う。
でもなんでだ?こんなことしてくれたことあったっけか?それよりみんなって他に誰がいるんだよ・・・。何企んでやがるんだ?
疑心暗鬼になりはじめた俺の心中を見すかしたように岬が笑う。
「小次郎、そんな顔しないの!みんなおもしろがってるだけなんだから。ホラ、最近暗い話題ばっかりじゃない?みんな小次郎をダシにして単に盛り上がりたいだけなんだよ」
「そうか・・・?」
「うん、悪いようにはしないから!だって小次郎の誕生日祝いなんだもん」
にっこりと天使の微笑み。
「さあ、用意はこれでいいかな?行こうか」
「ほらほら小次郎、さあ立って!」
両脇に岬と三杉がぴったりと立つ。まるで俺を逃がさないとでもいうように。
俺が逃げると思ってんのか?・・・・・確かにちょっと逃げたいかも・・・・・。
キラキラひかるシャンデリアの下、集まっているのは東邦時代のメンバーはもちろん、全日本での顔やら、サッカー関係のちょっと偉いさんやら。当然、歴代俺の世話になってる監督とかまでいやがる。
つーか、なぜ呼ぶ?オヤジ達を・・・。あんまりプライベートでは会いたくねえんだが。
立食パーティ形式で、なぜか俺は金屏風の前に座らされた。
ほんとにみんなおもしろがってるだけなのか?そこまでされる俺っていったい・・・。
司会の反町に促されるままお礼の言葉とか言わされて。
「本日はお忙しい中、お越しいただいてありがとうございます」
「よっ!日向誕生日おめでとう!!」
俺が口を開けば大歓声。わけわかんねえ・・・。
ちょうど反町の横に立っていた若島津に助けを求めるように視線を送っても、満面の笑顔が帰ってくるだけ。いや笑顔に見えるけど、目が笑ってねえ。恐い・・・。
ドイツにいるはずの若林までが来ていて、乾杯の音頭を取る。
「それでは日向の誕生日を祝って、乾杯!」
おかしい。ありえないだろ絶対。
頭では疑問符が渦巻くのに、流されてる俺。みんなが口々に祝いをいいに来てくれる。やっぱそれには応えなきゃなんねえし。
「よっ日向、おめでとさん」
「・・・・・何なんだコレ?」
「何ってお前の誕生日会だろ?すげーだろ!感動してるか?」
松山が、ニコニコとビール瓶を片手に俺の前に来た。
もう何杯目かわかんねえくらいに、注がれまくっている俺のグラスに更になみなみとビールを足す。
「一体だれの企画なんだ?お前、知ってて黙ってたな?どーりで会えねえとかいいやがったんだな」
「企画?みんなにきまってるじゃん。みんなお前のこと祝いたいんだよ」
「・・・うそくせえな・・・」
「あのなあ!みんな忙しい中ココきてんだぜ?そーゆーこと言うなよな!!」
「だけどよ・・・」
「もっと素直になんなきゃいけねえよ!人間素直が大事だぜ?わかるか日向?」
松山の手がばしばしと俺の肩を叩く。
勝手が違っていつになく神妙な俺に松山が絡んでくる。
はぁ、と俺は大きなため息を一つこぼすと、仕方ないと腹を括ることにした。このまま時間が過ぎるのを待っていても虚しいだけだし。
改めて松山をしげしげと眺めると、ヤツも綺麗な光沢のスーツをラフに着崩していた。第2ボタンまであけられたシャツの胸元から、白い素肌が覗いている。
結構既に飲んでいるらしく、ほんのりと赤くなっていた。酒に弱いわけではないが、松山の白い皮膚はカラダの熱のもち具合を如実に表すのだ。
「松山、今晩どうすんだ?」
一緒には住んではいないが、俺達は肌を重ね合わせる仲なわけで。
いつもは誰かの誕生日と言う名の飲み会後、お互いの部屋に泊まってしかるべきことをしたりするのだ。
ましてや今日は俺の誕生日。みんなと一緒に祝ってくれるのとは別に、きっと何かあるよな特別に。
「ん?」
わかってるだろうに、松山は俺を覗き込んでくる。
わざとなのか?誘ってるのか俺を。そんな事しなくても、後でいただきますって。
「ココ、部屋とれんのかな」
「しらねえ。三杉にでも聞いてみれば」
わざと松山の耳もとに口をよせ囁くと、一瞬ぱあっと頬が赤くなった。可愛いやつめ。
慌てて俺の側から離れる。
「松山!日向さんのひとりじめは後にしろ!今は後がつかえてる」
「あ、わりぃ」
いつのまにか、周りにはビール瓶を手に手にみんなが集まっていた。にやにやと笑っている。
先程の会話は多分聞こえていたんだろう。まあいい。此処にいるメンバーには周知の事実だ。むしろ俺の事を祝ってくれる気持ちがあるなら、俺の要求くらい飲み込んでくれるだろう。
「そうだ、日向」
「なんだ?」
お酌の順を翼に譲りかけた松山が、振り向く。
「お前、なんでも大きい方がいいんだよな?」
「ああ、そりゃな。男だし」
「あのなぁ・・・。まあ、いいや」
それだけ聞くと、松山は若林のいる輪に呼ばれて行ってしまった。
質問の意味がよくわかんねえけど、大きい方がいいだろやっぱり。
えっちの時の「ヤだっ・・・・ひゅうが・・・おっきい」とか無意識に口にしてる松山を不意に思い出して、俺はニヤニヤと笑ってしまった。
「おめでとう、日向くん、・・・今、やらしーこと考えてるね、もうそんなに松山がイイのかい?」
「まあな」
翼がくすくすと笑いながら、ビールを注ごうとするので、俺は一気にグラスを空けた。
「いい飲みっぷり!男前だねー」
「じゃあ、コレも飲みたまえ」
「お、わるいな」
わらわらと周りからいくつもの瓶が差し出される。なんだかこの後が楽しみになってきた。
俺ってそればっかりか?まあ事実だからしょうがねえな。
その勢いも手伝って、かなりのペースでビールが胃に入っていく。
「日向さん、そんなに飲んで大丈夫?」
「そういいながら、お前も注いでるじゃねえか」
「そうなんですけど♪」
流石に反町のビールは一気に飲めなくなってきていた。ちょっとペース早すぎかもしれねえ。
少し、酔い冷ましてきた方がいいかもしれねえな。
「おい、この後段取りどーなってんだよ」
「あと10分くらいで、プレゼントコーナーですよん♪」
「そんなのまでしてくれるんだ」
「当たり前じゃ無いですかぁ〜〜。ま、お楽しみはこれからだってことで♪」
「楽しそうだな」
「メインイベントですから」
「・・・じゃ、ちょっとトイレ行ってくる」
「早く戻ってきて下さいねー」
プレゼントか。何もらえるんだろう。もらえりゃなんでもいいけどな。
一番俺の欲しいものは、これから松山に貰うつもりだし。
そういえば、さっきから松山の姿が見えないな。どうしたんだろう?会場をきょろきょろしながら、俺は洗面所へと向かった。
俺が戻ると、急に照明が落とされドラムロールが響き渡る。あ、さっき反町が言ってたやつか。
「それでは、みんなより日向さんへプレゼントコーナー!!」
盛大な拍手とともに、反町の横にスポットライトが当たる。
そこには大きなつづらと小さなつづら・・・ではなくて、大きな箱と小さな箱が二つ並んでいた。
大きい箱はバカみたいにでかいし、小さな方はティッシュの箱くらいしかねえ。
「じゃあ、日向さんにどちらか選んで頂きましょう!!!」
選ぶのかよ?まじで?
その反町の声とともに、俺にスポットライトが当てられる。
俺は貧乏性だから、でっかい方をとると思うだろ?でも、だいたいこういうのって、昔から大きいモノの方にちゃらいものが入ってたりするんだよな。舌きり雀の時代からそうなんだ。
あー、でも集まってくれた人達がみんなそれぞれ何かくれるんだったら、おっきい箱にいっぱいはいってるとか・・・。イヤ、金だけ集めて高価なもの贈ってくれるとかだったら小さい箱・・・。
ぐるぐると頭のなかを駆け巡る計算。
何真剣になってんだか俺なぁ・・・。でもやっぱり―――。
「決まりました?」
「ああ」
「じゃあ、決めた方を開けて下さい」
俺は二つの箱の前に進む。
大きい方に手をかけようとして、皆の息を飲む声が背中に伝わる。その異様なまでの緊張感にちらっと反町を見ると、一瞬ヤバいというような顔をした。
おい・・・。やっぱり中になんかしこんであるんじゃねえんだろうな?
だったら―――。
俺は小さい箱をつかむと、その蓋をとった。
「はい!日向さんの選んだそちらには、本日の豪華宿泊券です〜〜!」
「やった!」
みんなわかってるじゃないか〜。コレで松山と・・・。
思わず笑みがこぼれ落ちる俺に、反町が続ける。
「飲み過ぎ日向さん、今日はひとりゆっくりカラダを休めてね♪」
「へ?ひとり?」
「そーですよ。誰と泊まるつもりですか?」
「え?だって松山と・・・」
慌てて会場を見回しても松山がやっぱり見当たらない。先に帰っちまったとか?
そーえいば、みんななんだか嬉しそうなのは気のせいか?してやったりみたいな・・・。
「あーあー。せっかく僕達、小次郎に一番のプレゼント用意してたのにな」
「そうそう。みんな泣く泣くこのプレゼントにしたのになあ。残念だったな日向」
「選んだのは日向やもんな」
「勿体無いですよねー。でもしょうがないですよね」
なんだかすげーイヤな予感。
「こっちのでっけえ方ってなんだったんだ?」
「みたいですか?」
「見たい」
「どーするみんな?」
「本人に聞いてみたら?」
本人?まさか・・・。
反町が箱になにか囁くと、うなづいた。
「じゃあ、みんな手伝って」
「せーの!」
4人かかりで箱の蓋をとると―――。
「おまえなー、大きい方だっていったろうが!」
ぶすっとした表情の松山が、箱の中であぐらをかいて俺を睨み付けた。
「で、でも、宿泊券・・・。お前が部屋にくればいいわけで・・・」
「俺も持ってるモン。ホラ」
思わず、状況が飲み込めなくてどもってしまう俺に、松山は胸元からカードキーを取り出すと、ひらひらと目の前で振った。
「俺の部屋にはお前ははいれないから。じゃあ約束通り、今日はみんなで朝まで飲むからよろしく」
「やった〜〜〜〜〜!!!!」
呆然としてる俺に、若島津が耳打ちする。
「あんたが見事、松山を引き当てたらそのまま一晩御自由に、ダメだったら、松山はみんなと過ごす、そういう決まりだったんですよ。俺達だって松山のこと好きなんで、スイマセンね」
「ちょっと待てよ!松山、お前はそれでいいのかよ?」
「えー。だって・・・」
「だってなんだよ。お前だって―――」
「日向がそんなに気が小せえ男だと思わなかった。あーあ。ほんとちいせえな日向!」
松山が箱から立ち上がり、会場を出ていくと反町が高らかに宣言した。
「それでは皆さんコレでお開きということで!お疲れ様でした〜〜〜vvvじゃあ、みんなは松山のスイートルームへどうぞ。あ、日向さん、その宿泊券千葉のホテルのなんで、早くチェックインしないと間に合いませんから。おやすみなさい〜」
あぜんとする俺はひとり取り残されて。
耳には松山の「ちいせえな日向」が何度も何度もリフレインするのだった。アレをいわれたわけじゃないけど、なんだかしばらくたたなくなりそうで、涙が出てきた。
「・・・・オイ、お前は何ないてんだよ;;気持ち悪いな」
松山の声がした。戻ってきてくれたのか?
涙の薄い膜のむこうに、訝し気な松山の顔がうつる。
「はやく起きねえと間に合わねえぞ?今日、お前仕事あるんだろ?」
夢だったらしい・・・。最悪な夢だ。
誕生日にコレってあんまりだ。
でも、現実に松山は此処にいる。よかった。昨日から、松山んちに泊まりにきてるんだった。
たしか昨日は二人で誕生日前夜祭だとかいって飲んでそのまま寝ちまったんだっけ。
今日はこれから松山の言う通り、俺は取材の仕事。その後はいつものようにみんなで飲み会の予定・・・。
「なんか食ってく?バナナしかねえけど。どっちにする?」
「大きい方。ぜったい大きい方!」
「わ、わかったよ。ホラ」
俺の勢いに困惑しながら松山がバナナと牛乳を手渡してくれた。
おそるおそる松山に聞いてみる。
「なあ、今日の飲み会ってドコでやんの?」
「鶴八亭。おまえアソコのジャンボシュウマイすきだろ?反町が座敷とってくれてるって」
「変な企画とかないよな?」
「はあ?お前期待してんの?」
「してねえ!!してねえ!!」
「日向、なんかへん」
あの夢が現実になったらたまんねえからな・・・。
そうしたら、出かける時に松山が少し照れながらキスをくれた。
「俺、今年なんも用意できなかったから先に渡しとく、誕生日おめでとう」
もう満足。大満足。だって俺へのプレゼントは松山が一番なんだって。
つくづく、俺も単純にできている。