「じゃあ日向さん、コレで終わりです。どーもお疲れ様でした」
反町が、最後の背中を見送って隣に立つ日向に声を掛けた。
おう、と日向は低い声で唸るような返事を返した。
「早く帰ってやって下さいよ。ほんとに別に途中で帰ってもよかったのに」
「そういうわけにはいかねえだろ。それにアイツが大馬鹿なんだからよ」
「また〜まだそんなこといってるんですか?」
「・・・反町!」
「はい」
「―――今日はいろいろありがとな。お前がいてくれて助かった」
「もー何言ってるんですか。俺こういうの得意だし♪飲み会の仕切りなら任せておいてくださいってば。それよりも若島津に連絡した方がいいんじゃないですか?俺も気になるし―――」
そこに、まるで二人の会話を聞いていたかのようにタイミングよく、反町の携帯に若島津からの着信があった。
「あ、若島津?今話してたんだよ。うん。へーそうなんだー。それで?うんうん。あーそうかぁ。そうだよねえ。いやいや大丈夫でしょ。うん、うん。あ、お開きになったよー。じゃあ日向さんに代わるね」
無言で立っている日向が、聞こえない反町と若島津の会話にイライラしはじめている。それを感じた反町が、ようやく携帯を日向に差し出す。
それを日向はひったくるように受け取る。そして、すぐに耳に当て、もしもしと言うのに、反町は思わず吹き出した。
なんだかんだいって、凄い気になってるくせにさぁと日向に心の中で突っ込んだ。
『あ、俺ですけど。コッチようやく寝てくれましたよ。あんたの方はどーですか?』
「ああ、もう終わった。これから帰る」
『んじゃ、ココで待ってます』
電話を切りながら、日向はようやく安心し大きな溜め息をついた。
そして反町に携帯を返し、二人も別れた。
今の今まで溜め息をつくのもままならず、ただ時間が経つのをイライラと待つしかなかった。
何度見ても進まぬ時計の針。
しかし、自分がこの場所を離れることはできなかった。次期キャプテンとして、先輩達を送りだすこの飲み会には必要な存在だったからだ。
その飲み会もやっとお開きになり、タイミングよくかかってきた若島津からの電話にも、落ち着いてでることができた。
我ながら取り乱してしまった―――と、2時間前のことを振り返る日向だった。
がらっと扉の開かれる音に、宴席の視線が集まった。
「松山!」
「遅れてスイマセン〜。俺の席、ありますか?」
「こっちこっち」
東邦学園大学部サッカー部、次期キャプテンには日向小次郎が決まっている。
先日の試合を最後に現キャプテンを含む先輩達が引退することになり、その追い出し会も兼ねた飲み会が開かれていた。
日向は現キャプテンの横に座り、向い側でたいこ持ちに徹し自分が何も言わなくても場を盛り上げてくれている反町に感謝しながら、黙々と注がれる酒を飲んでいた所だった。
日向の視線が、頭を掻きながら周りが称するところの「お日さまのような笑顔」を振りまきながら、空いた席に座る松山に鋭く注がれる。
今日のこの会には、今ようやくやってきた松山も当然ながら必要な面子である。高等部より東邦に属し、大学部まで一緒に進級してきた仲間であり、サッカー部にはなくてはならない人物だ。
日向とは大学より一緒のマンションを借り、同居している間柄でもある。
先ほどまで顔を突き合わしていた男だ。
一応、名前だけの幹事長になっていた日向は、飲み会開始の2時間前に家を出る予定になっていた。その時松山は珍しくまだ布団の中だった。
前日の晩より少し風邪ぎみらしく、だるそうに横になっている。
「おい松山、俺もう行くからお前は寝てろ」
「え?もう・・・そんな時間かよ。俺も用意しなくちゃ・・・」
「あのなぁ・・・。この馬鹿は何いってんだ?そんな辛気くさい顔してるヤツ来たって皆喜ばねえよ」
「でも今日は先輩達の為の会だろ。絶対行かなくちゃなんねえ」
「別に形式的なもんじゃねえか?これからもまだ顔見れるんだし。お前一人来なかったくらいでどうこうなるもんじゃねえんだよ。兎に角他の皆には『松山は死にました』っていっておいてやるから安心しろ」
「うるせえな。これだけ寝たからもう平気なんだよ!もー日向は先行ってていいぞ。俺も後から行くから『死んだ』なんて余計なこと言うんじゃねえぞ!!」
カラダを半身起こした松山本人は大丈夫といっているものの、日向の目には今だ具合が悪そうに映る。
日向はずかずかと松山に近付き、乱暴に額に手を当てた。手のひらに伝わってくる熱はやはり少し高いような気がする。
「やっぱ熱―――あんじゃねえか」
「これくらいなんともねえよ!!早くいけったら!!!」
一度、行くと決めた松山には自分が何をいってもダメだということは、長い付き合いでわかっていたものの、心配でしょうがない。
とはいえ、自分も「心配だからたのむから今日は欠席して寝ててくれ」との一言を言ってやれない。
「ちっ!ぶっ倒れるような事になっても知らねえからな」
「わかってるよ、ばーか!」
「―――遅れず来ることだな!」
そんなやりとりがあったにも関わらず、約束の時間に松山の姿はなかった。
まわりの先輩達や、部員達が「松山は?」と口々に尋ねてくる。それに対して反町が、連絡ははいっていないから遅れてくるでしょう、と日向の代わりに答えてくれている。
内心日向はほっとしていた。
時間をきっちり守る松山が、この場所に現われていないということは、家にいることにしてくれたのに違いないと、そう思ったからだ。
松山を待つ部員達や、今日の仕切りをしてくれている反町には悪いが、松山は遅れてもこないのだ。このことを伝えようか迷ったが、そうこうするうちに宴会は始まってしまった。
そして今。
松山がやってきた。日向の座った場所とは反対側のテーブルに座り、駆けつけ三杯だとかなんとか言われて、注がれるビールを困ったような笑顔で口に運んでいるのが視界の隅に入る。
顔が紅潮して見えるのは、決してアルコールのせいではない。扉を開いた時からそうだったからだ。つまり熱のため。どうやら遅れてきたのはあの後、熱があがってしまって、すぐに部屋をでられなかったのではないか―――
「あのバカ」
日向は小さく唸ると、席を立ち松山の方へ向おうとした。
それに先に気付いた松山は、自分も席をたつと逆に日向の方に向ってくる。
そんな松山を日向は訝しげに、人の間に立ったまま松山を見つめた。
「日向こっちくんなら席代われよ。俺遅れちまったからまだキャプテンに挨拶もしてねえし」
その松山の言葉に、もともと日向の座っていたテーブルから拍手が鳴る。
にこにこと松山は日向の脇を通り、そこに座った。
「まっちゃん、いらっしゃい!」
「先輩!お待たせしましたっ。さあ飲んで下さい」
松山はビール瓶を手に、周りに注いで回る。
なにかを言っては大きな声で笑い、なにかを言われては楽しそうに笑う。
そんな松山に一層周りは盛り上がる。どっと歓声が何度もおこる。
その姿は周りからは特に異変があるようには見えないだろう。しかしどうみたって松山は無理をしている。毎日一緒にいる日向には手に取るようにわかる。
大体、酒好きの松山のコップはあまり減っていない。はじめは少し飲んでいたようだが、今は自分が注がれるより先に回りに注いで回っている。
飲んでいないことを悟られないように、いつもよりも饒舌になりリアクションも大きいのだ。
日向は、舌打ちをしてしぶしぶ松山がはじめに座っていた席へと腰を下ろした。
向いに座っていた若島津がビールを日向に注ぎながら、松山の方を見遣る。
「相変わらずこーゆー席の松山は元気ですね」
「ああ」
「でもなんかいつもよりみょーにテンション高いなぁ」
「・・・わかるか?」
「え?」
「・・・いや、なんでもない」
若島津に言ったところで、今さら松山をどうにもできない。
自分が「帰れ」といったところで、周りには何を言っているんだという顔をされるだけだろう。
ただ、この時間、松山がこのままの状態で過ごし終えてくれることを、自分は少し離れた所から見守ることしかできないのだ。
若島津に注がれたビールを一気にあおる。自分も飲んでいないとどうにかなってしまいそうだ。
直接松山の方を見ないようにしても、どうしたって笑い声が耳にはいってくる。無意識に視界の隅に松山の姿を捕らえてしまう。
ちくしょう、こっちがこんなに心配してんのあいつはわかってのんか?
無茶なことばっかりしやがって!
なんで松山一人に俺がこんなにイライラしなくちゃなんねえんだよ。冗談じゃねえ!!
だけど―――。
耐えきれず、目の前にあったビール瓶を掴むと乱暴にグラスに注ぎ、また一気に煽った。
「あー、日向さん!手酌だなんてそんな〜〜〜」
横にいた後輩が、慌てて空いたグラスにすかさず注ぐ。
それを日向はまた口に運ぶ。
「・・・あんたも変ですよ?松山もだけど・・・」
あまりに飲むペースの早い日向に目ざとく気付いた若島津が、訝しげに日向の顔を覗き込んだ。
「別にいつもどおりだろ。喉がかわいてんだよ」
「まあ、いいですけど。あっ!」
「わーっ!松山!?」
若島津が小さく叫ぶと同時に、反町の大きな叫び声が響き渡った。
松山が座敷に仰向けにぶっ倒れていた。
間髪いれずに日向が席を立ち、ずんずんと松山の傍らに駆け寄った。じろりと松山を取り囲んでいた者たちを睨み付け、松山の横に屈みこんだ。
なんだなんだと他の者たちもそのまわりに集まった。
若島津が反町にたずねた。
「どうしたんだ?」
「急に松山が・・・」
「おい、反町、松山に飲ませ過ぎたんじゃないの?」
「いやそれが松山、今日はあんまり飲んでなかったみたいなんだけど―――」
日向は二人の会話を聞きながら、眉間に皺をよせ目を閉じ倒れている松山の額にそっと手を当てる。
思わずあまりの熱さに手を引いた。
アルコールが少しはいっているせいかもしれないが、家を出るときの熱とは比べ物にならない程の熱さ。
きつく閉じられた目がぴくぴくと震えている。小さくあけられた唇から漏れる呼吸も短くせわしないものだった。
なんでこんなになるまで―――。義理がなんだっていうんだよ!!
日向は突然松山の胸ぐらをぐっと掴むと、その半身を起こさせた。
「松山!!なにやってんだ!!!」
「あ・・・、日向・・っ」
「こんなとこでなに寝っ転がってるんだよ、あ?これも座興か?」
薄く開かれた松山の瞳は、熱の為か潤んで見えた。
そんな姿に、日向の心は激しく取り乱す。松山を心配し過ぎて、もはや冷静になっていられない。
周りの松山を気づかう視線が余計に日向の神経を逆なでしていく。こんな会のせいでこの馬鹿は無理をして。すぐにでも松山を担いで釣れて帰りたいのに、行動は逆に粗雑になってしまう。
掴んでいた手を離すと、松山のカラダはまたぐらりと座敷きへ倒れこんだ。
頭を右手で押さえながら、左手を支えにしてゆっくりと松山は起き上がった。
「ちょっと・・・くらっとしただけだ・・・もう大丈夫」
「大丈夫じゃねえだろう!!こんな熱でるまでなにやってんだ!このド阿呆が!!なんで家で大人しく出来ねえんだよ!俺の言うことはきけねえのか?」
「耳もとで叫ぶな・・・」
「お前が馬鹿じゃなければ叫ばねえよ。ったくどうするつもりなんだよ?え?」
日向は鬼のような形相で、松山を怒鳴っている。
松山が本調子でないのが、その受け答えのしどろもどろさからもよく分かる。
松山が気になる他の者も、あまりの日向の怒り様に口を挟むタイミングを逸してしまって、ただやりとりを見守るだけだった。
反町が若島津の袖をつんつんと引いた。
「ねえ、松山ってもしかしてもともと具合悪かったの?」
「そう・・・みたいだな。なんかおかしいとは思ったんだけど。松山も日向さんも。それにしても、このままじゃちょっとヤバいよな」
若島津はそう言うと、日向とは反対側から松山の横に屈むと、ちょっといいか?と言いながら松山の額に手を当てた。
「うわ、すごい熱。ほんと松山、日向さんの言う通り大丈夫じゃねーよ。これ。お前もう帰った方がいいって」
「・・・でも・・・」
「でもじゃねえ、おまえがいると邪魔だっつってんだよ!!!」
「日向さん、そこまで言わなくても。兎に角松山、もう帰ろう、な」
じゃあ、日向さんも一緒に、と若島津が呼ぶのを無視して、日向は立ち上がると空いた席にどっかりと座り込んだ。
周りの視線をよそに、松山のグラスだろうか。殆ど減っていないビールをごくりと飲みはじめた。
沈黙が走る。先輩のひとりが、それを破るようにようやく口を開いた。
「おい・・・日向?」
「若島津、ソレどーにかしろ。こっちはまだお開きじゃねえ。皆も早く座れよ!先輩方もどうぞ―――」
ざわざわと周りがし始める。それはないんじゃないか、といいかけた皆の口を若島津が制する。
日向が一番松山を心配していたのは、はじめの行動を見ていればわかることだった。その日向がこれだけ取り乱している。冷静になれないほどに心配しているのだ。
若島津はそれが分かった。
「松山、俺が送って行くから」
「ごめ・・若島津・・・」
どうやら松山の方も限界らしかった。
もう、口をきくのもやっとらしい。
若島津は肩を貸して、松山を立ち上がらせるとぐにゃりと体が崩れそうになる。慌てて腰を支えながら反町を呼んだ。
「ねえ、日向さんと一緒に帰った方がいいんじゃないの?」
「いや、無理だろう。日向さん頼んだぞ。あの人、一応次期キャプテンだからな。そーゆーとこ変に義理堅いから帰れないんだよ。松山もだから来たんだろ。コイツもあの人も不器用なくらい義理堅すぎるんだよなぁ全く」
「なるほどねえ」
「そういうこと。じゃあこの寒い雰囲気をお前が盛り上げろよ」
「うわ〜荷が重い〜〜」
「落ち着いたら電話いれるから。日向さんにもいっといて」
「了解〜、じゃ、松山気を付けてね。もう無理しちゃダメだよ?」
反町がぐんにゃりした松山に声を掛けたが、返事は微かに頭が揺れただけだった。
若島津に抱えられた松山がそっと座敷を出ていく。日向はちらりとそれを見ると、不味そうにグラスを開けた。
マンションに戻ると、ダイニングの椅子に腰掛けていた若島津が顔をあげた。
「おかえりなさい」
「おう」
「うつらうつらしてたんですけどね、今さっきようやく寝てくれて」
「ほんと面倒掛けてすまなかったな・・・」
日向は若島津に頭を下げた。
慌てて若島津はそれを上げさせる。
「ちょっとやめてくださいよ!別にこれくらい当たり前でしょうが」
「いや、ほんと俺もどうかしてた―――。やっぱりすぐに無理矢理帰せば良かったんだよな」
「松山も反省してましたよ。だからもう怒らないでやってくださいね」
「・・・わかってる」
「じゃあ俺、もう帰りますわ。あ、解熱剤飲ませるの忘れちゃって。起こすの可哀想なんでまだやってないんですけど。起きたら飲ませてやってください」
「若島津」
「はい?」
「ありがとな」
軽く片手をあげて、若島津が出ていくのを見送りドアを締めた。
洗面器に氷水を張り、タオルを持つと松山の寝ている寝室へようやく入った。
若島津がやってくれたのか、枕の下には氷枕がしいてあったが、どうやら寝にくいのか松山の頭を振ったらしく外れてしまっていた。
少しまだ呼吸が荒いようだ。眉が少し顰められている。
寝汗で額に張り付いた束になった前髪をかきあげてやる。
これまた若島津がダイニングより持ち込んだらしい椅子の上に洗面器を置くと、冷しタオルを作り松山の額にそっとのせてやる。
「ったく心配かけやがって」
ぼそりとつぶやくと日向は中腰になったまま、何度もかいがいしくタオルを取り替えてやる。
冷たいものに取り替えると、松山も気持がいいのか少し表情が和らいでみえる。
「んっ・・・・」
松山が身じろいだ。松山も強がっていたんだよな。ぶっ倒れるまで普通いるか?しょうがねえな全くコイツらしいってことか。日向の顔からもようやく険がとれた。
俺も大人げなかったよな。怒ったぶんだけ、朝までつきあってやるとするか―――。
またタオルを取り替え、額に置いてやると、ゆっくりと松山の目が開いた。ぼうっと見上げてくる。
自分を覗き込んでいる顔を認識した松山が、安心したように口を開く。
「ひゅうがだ・・・」
「俺だ」
「ごめん・・・俺、みんなに迷惑かけちまった・・・。まだ・・・怒ってるか?」
「もう怒ってねえよ。俺も怒鳴って悪かったな」
「俺のせいだもん・・・。若島津なあ」
「ん?」
「若島津にもすげえ迷惑かけちまった。ほんとイイやつだよな・・・」
「そうだな」
ふと、若島津の言っていた言葉を思い出した日向は、立ち上がろうとした。
その上着の裾を、松山の手がとっさに掴んできた。
「ひゅうが?」
「お前、薬飲んでねえんだって?今持ってくるからよ」
「いらねえ・・・」
「若島津も心配してたぞ。起きたら飲ませろって言われててんだ」
ぎゅうと掴んでいる松山の指を優しくほぐすと、しぶしぶ松山は手を引っ込めた。
日向はすぐに水と薬を持ってくると、松山に差し出した。
しかし松山は起き上がらない。
「おい、コレ飲めよ」
「・・・・・せて」
「なに?きこえねえ」
「・・のま・・・せて」
消え入りそうな声で、天井を睨み付けるようにした松山が呟く。
心無しか顔もまっかだ。
しかし、今は兎に角松山の熱を下げることに頭が一杯の日向には、松山の必死の甘えがすぐには伝わらない。
ペットボトルからグラスに水を注ぎ、解熱剤のタブレットを無理に松山の口元に運ぼうとする。
松山が日向の態度に、むくれたように言う。
「いつもは嫌がってもしてくんのに、なんで今日はしねえんだよ」
「なにいってんだ松山?」
「〜〜〜〜〜〜!俺はぁ・・・お前が飲ませてっていってんだよ!!!こういうときぐらいいいだろ!!」
ようやく日向も合点がいく。
あまりにも今日は動揺し過ぎて、そんな気すら起きなかった。逆に松山はこういう状態だからこそ珍しく日向に甘えてきているらしい。
ふっと日向は笑った。そしてタブレットを自分の口に放り込むと松山の顎をそっと持ち上げた。
松山は怒った顔のまま目をつぶっている。
ゆっくりと唇を重ね、松山の舌の上にタブレットを置いた。いつもよりも口腔内も熱く感じた。
自由になった舌で優しく松山の唇を舐めてやると、松山の赤い唇はふるふると震えた。
また、上着の裾をしっかりと松山の手が掴んでいる。
一度唇を離し、今度はグラスの水を口に含みそのまま松山の口腔に流し込む。
松山の喉がなり、先ほどのせたタブレットと共に飲み込まれる。
「いいこだ」
「ん・・・んっ」
飲み干したのを確認すると、松山の方から絡めてくる舌をやんわりとほどき、日向唇を離した。
名残惜しそうに松山が見上げてくるのに、軽くまぶたにキスを落とす。
積極的な松山も可愛いが、いまはとにかく熱を下げてほしい。こんな心配をしょっちゅうさせられては体がもたない。
「今日はずっとこうしててやるから、もう寝ろ」
「日向も一緒に・・・横で寝る?」
「タオル代えてやんなきゃなんねえから、気にすんな」
「・・・ちぇ」
「おまえなー、元気になったらこの分返してもらうから、後悔すんなよ」
「・・・今だけだもん・・・」
「おやすみ松山」
「・・・おやすみ日向」
もう一度、軽く唇を重ねるだけのキスをすると、ようやく松山も目を閉じた。
日向はタオルを絞ると、再びそっと松山の額にのせた。
おわり
去年の4月に書いた、ウチのサイト作品でも初期の「微熱」の日向さん視点版です。
いまさら〜って感じなのですが、前から書いてみたかったんです;;ぐるぐる日向さん。
ラブラブ松小次に、自分もおなかいっぱいです(笑)。(02.10.20)
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