「電波塔」
宝町にはネコが住む。誰にも媚びずに生きている。ふつうのネコと違うのは羽も無いのに空を飛ぶコト。ふつうの
ネコは空を跳ぶダケ。
ネコはみんなに呼ばれる通称、クロのネコ、シロのネコと呼び分けされる。そう2匹。2匹をまとめてネコと呼ぶ。
彼らにもちゃんとした名前がある。クロのネコは日向、シロのネコは松山と言う。親兄弟を持たない子供。暴力で
生きている。
そんなネコ2匹、今は電波塔にいる。電波塔の展望台の中。松山はじいーっと景色を眺めている。日向は微妙な距
離を取って後ろにいる。複雑そうな顔をして。
=2時間前
物が壊れる音が2つ。
小さく呻く声はエンドレス。
そして、何かの倒れる音が4つ。
終了予定時間は10秒、それを7秒過ぎてしまった。
「……時計してないじゃん。」
ポタリと地面に赤い液体が落ちる。松山は殴られた鼻を手のこうで何度もぬぐう。手にはたくさんの血がついた。
遊んでいる途中で松山は転んでしまった。右の靴紐がほどけてしまい左の靴でそれを踏んだ。ちょうど遊び相手の
足元へ転んでしまったから、遊び相手に顔を蹴られてしまった。
「ホラ。」
日向は手にしていた物を地面に投げる。これで何かの倒れる音が5つ。黒い制服姿の倒れた人間が5人。
日向はゴーグルを顔から首に下ろすと、ポケットからハンカチを取り出した。松山の鼻を押さえて顔を上に向けさ
せる。
「おっ、これって若島津のと同じじゃん。」
「そーなんだ。」
若島津とはちょっとクールな刑事で、前に松山を保護した時に世話係だった男。松山とはけっこう仲良しである。
松山は日向から時計を受け取って上機嫌。でも日向はふつう。イヤ、少しばかりムカついてるかも。
「そうそう、でも若島津のは緑色でスゲー汚ねーの。パチンコの景品って言ってた。」
「ふーん。」
「……。」
松山は新しく手に入れた黄色い腕時計を腕に巻きながら、じっと日向を見た。日向はどこか違うところを見ている。
日向の返事はいつもそっけない事が多いが、今日は特にそっけない。松山は考えている。
「何?」
「日向、変。」
「ん?」
日向は学生達のお金を数えている。ふつうそうに見えて、どこかが変なのは松山にはちゃんと分かる。しっかり分
かる。だからふつうを装うのでムカムカする。
「ここンとこ、ずぅーとやな感じな。」
「……そんな事ないぞ。」
「どうして、俺にウソつくかなー?」
「嘘なんかついてないよ。」
しばし沈黙と睨み合い(見つめ合い?)。
「もういい、バッカッ、」
松山はくるりと日向に背中を向けた。そしてどこかへ歩き出す。
「チョコバナナもらっても、もー日向にはやんない。」
「おい、どこ行くんだ?まだ鼻血止まってないぞ、」
そして松山と日向は別行動。
=1時間半前
警察署の前。ぼうっと歩いている若島津は松山を発見した。
「あれ、松山ァー、また来たのか?」
「オッス、若島津、なにしてるかー?」
松山は電柱のてっぺんにしゃがんでいる。若島津の手にあるビニール袋をじっと見つめる。
「俺?昼飯買って来たんだよ。松山も食べる?」
「オウッ、食べる食べるるぅ〜〜。」
とうっ、と松山は若島津の前に飛び降りた。ビニール袋の中を覗いている。
「あいかわらず高い所好きだね。なんでいっつもあの電柱の上にいんの?」
「若島津はあいかわらず低いトコ好きな。なんで下ばっかいんだ?」
「……公園行こっか。」
「イェ〜ィッ、チョコバナナッ!!」
「はいはい。」
松山が大喜びしている横で若島津はため息をついた。彼はこの所チョコバナナを買わされている。
2人は公園に向かう。松山の鼻血は止まったらしい。
=1時間前
ご飯を食べ終えると若島津はチョコバナナを買って来た。松山は得意の新曲を披露していた。チョコバナナの歌を。
「久しぶりに聞いたなぁー……、まだ作ってるんだ。」
「もっと聞くか?作るぞ。」
「イヤ、いいよもう……。」
公園のベンチに座って2人はチョコバナナを食べている。若島津は甘い物が苦手らしいが松山と一緒だと何故か食
べる。そして「甘い」と文句を言う。
「日向は元気?」
「日向?」
「最近見ないから。あんまり一緒にいないの?」
「……。」
松山は食べかけのチョコバナナを見ている。そんな様子を若島津は不思議そうに見ていた。
「日向ねー、いつも一人で考える。頭いいから。」
「?」
「だから凧の糸みたいにこんがらがっちゃってんの、地面ばっか見てお金なんか落ちてねーーのにっ。」
「……ケンカでもした?」
「なぁ〜んでぇ?しないでしょー。」
「だって、松山怒ってるだろ?ああ、だから俺ン所にチョコバナナ求めて来るのね。」
若島津が苦笑いすると松山は複雑そうに首をひねった。
=45分前
若島津は電波塔へ行くと言い出した松山を見送り、警察署へ戻ろうとした。
「日向、」
そう日向を見つけた。木の陰にいる。ちょうど座っていたベンチからは見えない場所に。
「松山なら電波塔へ行ったよ。」
「ふーん。」
日向はいつも愛想が良くない。特に今日は悪い。
「かまって貰えないから、淋しいんだよ。」
若島津は空を飛ぶ日向に睨まれた。方向から言って電波塔へ行くようだ。
「あーあ、睨まれちゃったよー。」
若島津は眉を寄せる。だが口元は笑っていた。やれやれ、みたいに。
=30分前
日向が電波塔に行くと松山はぽっかり口を開けていた。電波塔の足元で空を見上げている。
松山は日向を見つけると笑った。でも少しだけ物足りない笑顔だったケド。
「なんで、白とオレンジなのかな?」
「……。」
「あれだ、きっと太陽と雲の色なんだね。太陽はおっきくてあったかだし、雲はフワフワ柔らかそーだからなっ。」
松山は数回頷いてさっさと塔の中へ入った。その後を日向はついて行く。様子を伺うように。
=それから現在
2人は一言も口を聞いていない。松山はずっと表を見ていて話をしないから。日向はじっと後ろにいるから。
「どして?」
松山が少しだけ振り返る。
「俺、悲しい。」
「んー。」
日向は松山の隣に並ぶ。
「まだ、お金探すのか?」
「……探さない、盗り行こうな、一緒に。」
「オオッ、盗り行く、盗り行く〜。」
松山はニッと笑った。日向もニッと笑った。
とりあえず、これで一安心。(本当に?)
おわり。

わ〜!!!
しょうさんっ、しょうさんっ、しょうさん〜!!!
あげちゃいました!上げさせて頂きました〜!!!
またしても、秋津しょうサマから素敵なお話をいただいてしまいました!!
実は、随分前に頂いていたんですけど、あげるのがすっかり遅くなってしまって・・・。そしてその間に無駄に増えてしまった挿し絵(爆)!
某少年漫画『鉄●ン筋ク●ート』の松小次ですvvv
この子達、ほんとにシロ=松山、クロ=日向で読むと楽しいんですよ(笑)!
原作を御存じの方なら、このしょうさんのしたためてくだすったお話が、どれだけあの世界を忠実に捉えていらっしゃるかわかると思います〜。
いや〜、もうもう、この日向のクールさ、でもシロ大事なところとか、わかってないようでわかってる松山のクロへの想いとか、まゆはかなりやられっぱなしですっ!!
せっかくのお話に、へんな挿し絵つけてすいませんっ(大泣)。
この子達大好きで、ついつい、ロクにかけもしないのにやっちまいました・・・・。げふっ。
ああ、でも原作は本当にすんばらしいので、気になった方は是非読んでみて下さい!!
ちなみに裏のほうに全然裏じゃ無いんだけど、この子達の落書きがおいてあります。
そちらのほうには、原作者様のお名前ものってますので・・・。
本当にしょうさん、ありがとうございましたーっ!!!!!!(01.09.13)
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