ひとこと

 
 


 俺の所属する、クラブチームのある先輩は、ほんとにイイ仕事をする。
 サッカーのプレイはもちろんだが、女の子に対してもだ。
 メンバーで練習後にたまに一緒に飯を食ったりしてる時、彼女などから電話がかかってくると必ずこういうのだ。
『ちょうどいま、君のこと考えてた』
 めちゃくちゃひいてしまうような、この台詞だが、言ってる方がテレも何もないと、実に爽やかに聞こえてしまうから不思議だ。
 初めて聞いた時は、なに言ってるんだコイツと正直思ったさ。
 でも、俺が用事で電話掛けた時にまで言うんだもん。男女問わず言ってるらしい。もう癖なんだろうな。
 言われた方としては・・・変なアレじゃなくて、確かに嫌な思いはしねえけど。

 今日も、ロッカールームで着替え終わって荷物を持って軽く会話をしながら歩く途中で、先輩の携帯に着信があり、例の一言。
 ほんとすげーよなー。
 まじまじとその姿を眺めてしまった俺に気付いた先輩が、ニヤリとしながら言う。
 
「松っちゃんも、言ってみ?相手すげえ喜ぶぜ?」
「いや、俺は別に喜ばすような相手いないっすから」
「一種のコミュニケーション円滑のためのひとことだよ」
「そういうもんすかねえ」

 そんな会話をしていたら、俺の携帯にも着信の合図。
 液晶をみたら、あいつだった。
 
「もしもし」
「俺。今、なにしてる?」
「んー」

 先輩が軽く俺の肩を小突きながら「じゃあお先にな」といいながら荷物を肩に、俺の脇をすり抜けて行った。
 軽く会釈をして見送りながら、電話の返事を考える。
 なにしてたってなぁ。今、練習終わってかえるとこだっちゅーの―――。

「お前のこと考えてた」
「・・・・・・・・」

 ついつい、さっきの会話の流れで出てしまったが、相手は無言になってしまった。
 えっ、と息を飲む気配がしてそれっきり。
 そらそうだ。突然こんなこと何の前触れもなく言い出されたら、やっぱり引くよな。ざざーっと。潮干狩り大会だ。ああ、バカな俺。
 取り繕う言葉も続いてでてきやしないから、仕方なくふざけたようにしてみる。

「・・・なーんて」
「・・・そこどこだ?」
「へ?」
「そこ、お前がいまいるのどこだ?」
「え?クラブの練習場だけど・・・。これから帰るトコ」
「いますぐいくから待ってろ!」
「何?」

 なんだかよくわかんねえけど、日向の声が弾んでいた。
 

 

 おわり
 



 
 隣人N君提供ネタ(笑)。彼の友人が先輩みたいな人らしいです。(02.11.06)