「松山くんに首ったけ☆」
松山は悩んでいた。女装を初めてはや半年。女装する姿もいたについてきた。(と、思う。)
だが、どうしても胸の中に、ぽっかりと穴が空いた感覚があるのだ。
服装や小物のセンスだって悪くないハズだし、今時の可愛い女の子になっているハズだ・・・・・
ちゃんと雑誌を見て研究しているのに、なんでなんだ?何がいけないのだろう・・・
そう日々悩んでいた。
「かーさん、なんか食い物ある?」
松山は日課になりつつある女装のまま、台所へ顔を出した。女装の協力者・松山母は夕飯の支度をしながら、姿は
キャピッた女の子している息子を見た。
「もうご飯にするから、そこの煎餅でも食べてれば?」
「あーい。」
松山はおなかをガシガシかきながら、がに股でそこと言われた居間のテーブルの前に座る。縦膝をしながら煎餅に
手を伸ばすと、TVを見ながらガハハハッと笑う。
「馬鹿者ーーーーッッ!!」
「デェッ!!」
松山は会社から帰ったばかりの、ヨレたスーツ姿である松山父に後ろから殴られた。電車の中で読んだのだろう、
新聞を丸める手には力がみなぎっている。
「何すんだッ、親父ッ?!」
「それが女の子のする態度か?!」
松山父はビシッと松山を人指し指でさした。
「女の子を極められないならば、女装など認めんッ!!ヤメテしまえぃッ!!」
「・・・親父、」
松山父はそう言うとスタスタと自室へ行ってしまった。怒鳴られた松山は、呆然とそんな父の背中を見ている。
「そうねぇ〜、女の子ではナイわね〜。今の光はただの女装した男の子ですものね〜。」
台所で見ていた松山母がそんな事を言う。松山は驚いて母を見た。
「格好は女の子なのに中身は男の子のままじゃ、見ていて見苦しいわ〜。」
松山母の痛烈な一言に、松山はぽっかり空いた穴の正体をつき止めた。
「そうだったのかッ!!」
松山は勢い良く立ち上がると拳を握り、メラメラ燃え出した。
俺はまだ中身が男なのだ、そうだ、だから駄目なんだ!!
「かーさんッ!!ありがとう!!これで道が開けたーーーーッ!!」
松山はそう叫ぶとTVのチャンネルを回しまくった。そして、可愛い女の子の出演している番組に見入り、その仕
草、表情そして言葉使いを研究し始めた。
そんな研究を進め、松山は女の子としての自分を作り上げて行ったのである。→後のヒカリちゃんッ
そして、立ち振る舞いも女の子らしくなりつつある(と、思う。)松山は合宿で上京した際、初めて女装して街に
出かけた。
するとどうだろう、通りすがりに男の子達が自分を振り返るのである。
ど、どっかおかしいのかなぁ〜;;
内心、ドキドキしながら、松山はウロウロし続けた。女装して表を歩くのは初めてではナイが、自分の家の周りだ
けである。おまけにあまり人とすれ違う事も無かった。
その為、松山は女になりきれていないのでは?と不安にかられ、いたたまれず着替えて男に戻ろうと考えた。
なのデ、着替えが出来そうな場所を探しキョロキョロていると誰かに肩を叩かれた。
(ヒーーーッ!!)
松山は心臓が口から飛び出そうになった。このままダッシュしたろ!!と一瞬のうちに考え、足を踏み出そうとし
た。
「ゴメンネ〜、驚かしちゃったかなぁ?」
聞こえて来るのは同じ歳くらいの男の声だ。恐る恐る振り返ると、雑誌のモデル級にかっこいい男が笑って立って
いるではないか。
松山はビクビクしながら、とりあえずTVで研究した上目使いなる物をしてみた。手に持つカバンを胸に抱き締め
、男の表情を伺う。
すると男は苦笑いをして頭をを2、3度かいて見せた。
「あ〜、まいったなぁ・・・そんなに恐がらないで。」
「な、なんですかぁ〜・・・?」
松山は掠れる声だが、やはり月9で研究した可愛い声なる物で言ってみた。
そうすると男は松山の顔を覗き込む様にして笑った。
「ね?何処から来たの?この辺の子じゃないでしょ?良かったら俺がこの辺りを案内してあげようか?」
「え?」
「どう?俺みたいな男じゃイヤ?」
松山は男の表情を見て思った、コイツは俺を女だと思い込んでいる、と・・・・
それに気づき、松山は安堵した。なので思わずふっと微笑んでしまったのだ。その為男に「OK!!よろしく〜v
」と受け取られてしまった。
「じゃ、行こうか?」
男は急に慣れ慣れしく、松山の肩に腕を回すと歩き出した。これには松山はビビッた。
なんだコイツは?!いきなり肩に腕を回すなんて、一体どんな教育を受ているのだ?!
そうムカムカしながら、可愛く抵抗した。←研究成果ッ
が、男は気にしないで「何処がイイ?とりあえずお茶でもする?」などと、松山を連れ去ろうとする。
このヤローーッ!!殴るぞ!!←忍耐足らずッ
そう松山が右手をグーにした時、またもや背後から誰かに声をかけられた。
「僕の連れなんだけど、何処に連れて行くつもりかな?」
なんだか・・・聞いた事のありすぎる声だ・・・・。
その声の持ち主は男の腕を掴んでいるらしく、松山の肩から腕が外れた。
「さぁ、行こうか?」
(ヒェーーーーッ!!!!三杉ーーーーッ;;)
三杉はにっこり微笑むと松山の肩に手を当てた。
そうだよ、せめてこのくらいだよな?などと松山は動揺するわりに思っていた。
(何故三杉がココにいるんだッ?!連れって、俺は単独行動してたんじゃないのかーーッ?!お前にツケられてた
のかーーーーッ????)←混乱中ッ
内心こんな状態の松山は三杉に救出されると、背中を押されるまま歩き、三杉の様子を伺う。
その視線に気づいたのか、三杉は爽やかな笑顔で「大丈夫?」と言った。
(大丈夫じゃねーーッ;;)
松山は大量の冷や汗をだらだら心に流すものの、平静を保ちながら三杉を見た。
「イヤな時ははっきり言わないと駄目だよ。」
三杉はそう言い「この辺りはナンパ目的の男が多いから、気をつけた方がいいよ。」などと親切に教えてくれた。
「あ、ありがとう・・・」
松山がオドオドしながら言うと、三杉は「じゃぁね。」と白い歯を輝かせて何処ぞへ行ってしまった。
(き、気づいて、な、ないのか??)
松山はしばらくその場に立つつくし、ハッと我に返ると一目散に合宿所へと逃げ帰った。
お茶を入れ喉の乾きを潤していると、何故か今日に限って、三杉が部屋にやって来た。
(!!!)
「松山、明日の練習の内容なんだけど〜・・・どうしたんだい?」
見事に石像と化す松山を見て、三杉が目を点にしている。
「い、いや〜・・パントマイムの練習だぁ〜。」
「そ、そう・・・じゃぁ、後にしようか?」
「大丈夫!!それでッ!!練習がなんだってッ!!」
「なんだかテンション高いね・・・・・」
「そうかな、アハハハハハハハ〜。」
松山は何処までもぎこちなく笑う。
「さっきの女の子って、松山だよね?」なんて言われるのでは?!と、気が気ではナイのだ。
だが、三杉は「何かいい事でもあった?」と笑って尋ねたダケであった。←言われると思い込んでいるッ
「別に、何もナイけど〜、お、お前・・・は?な、なんかあった?」
「僕?」
松山は勝負に出た。言われるなら先に自分から切り出した方が、なんとなくイイような気がする・・・
もしバレているなら、「あれは今度の文化祭の出し物なんだ!!」と笑って誤魔化せばイイ。←オイッ
なんとなくなので、勝ち負けもナイ様な専制攻撃に、三杉は思いだし笑いを浮かべた。
「あったよ。」
「へ、へぇ〜どんな事・・・?」内心→「それは俺の女装を見たので、弱みを持ったと言う意味か??」
「今日ね、可愛い子を見たよ。」
「か、可愛い子・・・?」内心→汗ダラダラダラッ
「うん、上京したばかりの子みたいでね、ナンパされて脅えてたから助けてあげたんだよ。」
「え、偉いじゃないか、三杉〜・・。」内心→爆破ッ
「まぁね〜、だけど僕もそのままお茶に誘いたくなっちゃってね、あんまり脅えてるモンだからやめたんだけどさ
。」
「そ、そうなんだ・・」内心→「そうだったのか・・」
「次に会ったら、今度は誘うつもりでいるんだけど、まぁ、もう会う事は無いだろうな。」
三杉は照れた様に苦笑いをしていた。
(良かったーーーーッッ!!バレてねーーーッ!!!)
松山はガッツポーズをして喜んだ。
「松山・・・大丈夫かい?」
三杉が心配そうに見ている。松山は苦し紛れに腕をぐるぐる回して誤魔化した。
苦しスギる行動なので、三杉が内心「昨日ゴールポストに頭をぶつけた場所が悪かったのか?」と思っているなど
、松山は知る由もナイ。←爆ッ
なので松山は、いきなり三杉に病院へ連れて行かれ、精密検査を受けさせられた理由が解らなかった。
(三杉に解らなかったと言う事は、俺の女装は完璧だなッ!!)
検査結果の「異常ナシ」に三杉は首をひねっていたが、今の松山にはどーーーでもよい事だ。←と、言うか、見え
ていないッ
三杉はナントカ族の踊りの様な怪しい踊りを舞って喜ぶ松山を数秒眺めた後、病院の受け付けに「再検査お願いし
ます。」と言い、松山はそのまま入院させられたのだった。
おわり。
不完全なヒカリちゃんですッ。(笑ッ)
これから美しい(?)白鳥になるハズですッ。