「こら〜っっ!!!たのむからいうこときいてくれ〜!!!」
今日も叱咤とも哀願ともつかぬ、若島津の叫び声が屋敷の中に響く。
いつのまにか、本来の仕事よりも『光の養育係』といった感のある彼だった。
猫は追い掛けてくる若島津を振り返りながら、楽しそうに広い廊下を走り回る。
「おまえと鬼ごっこしてるんじゃな〜いっ!!」
「どうした?」
がちゃり。
この家の主人である、日向が自室の扉を開けて廊下を覗き込む。
その音に、廊下で鬼ごっこをしていた若島津と猫の動きがぴたりと止った。
はっと気付いた若島津は、日向の声に逃げることを忘れた光の腕をがっしりと掴み、逃げられないように捕まえた。
「また、なんかしたのか?」
「ううん、なにもしてねーよっ!」
日向の問いかけに光が首をぶんぶん振る。
「すいません、こいつが風呂はいるの嫌がるもんですから。お騒がせしました」
「風呂きらぁ〜い!」
「おまえ風呂スキだったろ〜?今日はちょっとくらいなら泳いでも許してやるから〜」
「今日はきらいなの〜!!」
若島津の腕の中から逃げようとじたばたする光の頭を、日向が優しく撫でてやる。
実際、忙しい日向はあまり光のそばにいるわけでもなく、特に世話をしているわけでもないのだが、何故か光は日向になついていた。
「ひゅうがっ、遊んで?」
きらきらと目を輝かせ、見上げる猫を若島津がぺしっと叩く。
「いてぇ〜!」
「何度いったらわかるんだ。日向さん、だろ。さんっ!お前拾ってくれた飼い主なんだぞ?」
「だって日向はぁ〜ひゅうがでしょぉ?ちがうのかぁ〜?」
「社長は、日向、さん!!だっ。日向さん、で、社長は今忙しいの!おまえと遊んでる暇はないんだから」
そういいながら、ずるずると若島津は猫を風呂場にひっぱっていく。
みかねた日向が声をかけてやる。
「風呂ちゃんとはいったら、遊んでやるから若島津のいうことをきけ」
「わかったっ!!はいってくるっ!!!」
若島津は、深いため息をついた。
「こら〜!!!!!!!!」
数十分後、相変わらず若島津の怒鳴り声が響いていた。
「風呂からあがったら、服をきろ〜!!!!!たのむ、きてくれ〜!!」
「やだ!はやくひゅうがとあそぶのっ!!」