今年もよろしく

 
 


「こんな時間よ?明日までいればいいじゃない」
「いや、でも用事あるし。チケットとっちまってるから」
「小田君達と同窓会はどうしたの?」
「もう、みそかにやっちまったよ。じゃあ、また帰るからさ」
「寂しいわねえ・・・」

 年末から富良野に里帰りして、今日は1月2日。
 ひさしぶりの実家で羽をのばせたかというと、実のところあんまりで。やっぱり地元に帰って顔を見せるとなんだかんだのしがらみで、親戚まわりしたりとかさ。家族サービスが多いんだよな。
 特に2002年はワールドカップもあったから、あったことない人までウチに訪れたりして、ちょっと「俺はダレ、ココはドコ」状態に陥りそうになった。
 小田達ふらののメンバーとの忘年会は楽しかったけど、かあさんのつくる伊達巻きは旨かったけど。
 もう一日、と引き止める言葉を振り切って、俺は東京行き最終便の時間が印字されたエアチケットをふりかざし空港へと向かった。
 

 羽田空港へ着陸する寸前に飛行機は東京湾上空を旋回する。
 離陸すぐから眠りへ引き込まれていた俺は、その旋回時の機内の傾きで目を覚ました。寝ぼけ眼に東京湾のパノラマがはいってくる。キラキラと光るビルの光、道路に連なる車のライト。これこそ東京、というような夜景が広がっている。
 不思議なモンで東京に住みはじめてからというもの、遠征や実家から戻ってくる時でさえ、この夜景をみると「帰ってきたなぁ」という実感が湧くのだ。俺の住む場所、あいつと住む場所―――。
 
 マンションへ着き鍵をあけると真っ暗だった。

「んだよ・・・いねえのか?」

 既に時計の針は23時近いというのに、同居人の日向の姿はなかった。
 まあ、あいつも埼玉の実家に帰っているはずだけれど。でもさ、今日帰るって言っておいたのによ・・・。
 焦って帰ってきた俺ばかみたいじゃんか。ちぇ。
 荷物をリビングに放り投げると、自然キッチンへ足がむいた。腹が減ってるわけでも喉が乾いてるわけでも無くて。
 コンロの上にでっかい鍋をみつけて、ほっとする。
 コートもマフラーも巻いたまま、鍋の蓋をあけて中身を確認してる俺。よしよし、とうなずいて蓋を戻すと玄関で鍵をあける音が聞こえた。
 どかどかと足音がして、日向もまた荷物をリビングに放り投げると俺の立ってるキッチンへ入ってきた。
 お互い顔を見合わせ、にやっと笑う。
 目と目の合図。
 小さく俺と日向の唇が、声をださずに「せーの」と形作られる。

「あけましておめでとう!今年もよろしくな!」
「ハッピーニューイヤー。また一年よろしくたのむぜ!」

 元旦も、今日も、メールも電話もせずにとっておいた言葉。
 やっぱり年初めの言葉は直接、顔を見ながらいいたいだろう?

「遅くなって悪かったな。実家でなかなか帰してくんなくてよ」

 日向がコンロの前に立つとガスに火をともし、鍋をあたため始める。そしてコートを脱ぐと、俺に手渡した。おいおい俺に片付けろってこと?ま、いっか。食事の用意してくれるみたいだし。
 鍋の中身は日向お手製の雑煮。去年初めて一緒の正月迎えた時に食わしくれて、そのウマさに驚いた。なんでも年末からスープとかとっておくんだ。そのスープとるために煮豚も一緒に作ってくれて、それもまたうまいんだよなぁ。
 絶対日向の雑煮食うから2日に帰るなんて言って、実家に帰った俺。
 半分ホント。半分は・・・なんだろう。やっぱりこいつと一緒に正月過ごしたかったからなのかな。
 日向が雑煮用意してくれてるか、今日かえってきてくれるか半信半疑だったけど。日向は家族を大事にしてるから。俺とは普段は家族より長い時間一緒にいられるわけだから・・・。いろいろ考えちまったうえのわがままだった。
 こいつは俺がそんなふうに思ってるって、わかってんのかな?

「俺もかあさんにひきとめられたけど、雑煮が腐っちまうと勿体ねえからわざわざ帰ってきたんだぜ?」
「雑煮だけかよ・・・」
「だって日向の雑煮うまいんだもん」

 日向の、に少しアクセントをつけて言ったんだけど。無視したよこいつ!
 がちゃがちゃと乱暴に冷蔵庫をあけて食い物を出している。

「ほら、松山、早くそれ部屋に片して、お椀だしとけよ」
「へーへー」
「ったくおまえの為じゃなきゃ俺だって戻らねえよバカ。実家にいりゃ寝てりゃいいんだからよー」

 日向の言葉に俺も聞こえなかった振りをして、見えないように笑いながらコートを脱いだ。
 やっぱりそんなお前が好きだ。
 でも勿体ねえからコレはまだ直接いってやんねえ。

 こんな調子で今年もよろしく、小さく呟いて日向の匂いの残ったヤツのコートに顔を埋めた。

 


おわり


 
 やっぱり年明けからラブラブで・・・;;「つぶやき」の12月30日の落書きネタの続きでした。(03.01.02)