熱帯夜 ~side H~
「何溜息吐いてんですか?一体今日何度目です?」
目の前にいるヤツに指摘される。そんなに溜息ばっか吐いてるか?
「そんなに気になるんだったら電話でもしたら良いでしょ?」
「…俺、何も言ってねぇぞ。」
「大方松山とケンカでもしたんでしょ?ホントに分かりやすいって言うか…」
図星だけに言い返せない。
「で、今回の原因は何です?良かったら仲裁しますよ♪」
…コイツ、おもしろがってねぇか?
「大した事じゃねぇよ。」
言える訳無いだろ…アイツが合コン行くの知ってムカついたからケンカしたなんて、
今思い出しても我ながらなんて情けないと思う。
でも松山も松山だ。
売り言葉に買い言葉かも知れねぇけど、何も土砂降りの雨ん中、帰んなくてもいいの
によ。
「気に入らねぇんなら帰れ!」って思わず言っちまった俺も俺だけど、久し振りに会っ
たんだぜ?会って1時間もしない内にケンカしたなんてシャレにならん。
「ふぅん…大した事じゃないんですか。ま、たかが合コンですもんね、松山にとって
はそれくらいの考えなんでしょうケド。」
思わず椅子から落ちそうになる。
「てめっ…」
「あ、反町が今日の合コンに松山誘ったって言ってましたから。それなんでしょ?ケ
ンカの原因。」
俺はお前がコワイぞ…若島津。
「松山モテますからね〜どこ行っても。本人自覚無しですがね。心配で仕方ないのは
分かりますから…ハイ、これ。」
そう言って渡された1枚の紙切れ。名前と携帯の番号が書いてある。
「今日反町の合コンに参加するメンバーです。それをどう使うかはあんたの自由です。
ま、頑張って下さい♪」
…絶対おもしろがってるやがるな、コイツ。
しかし、コレをどうしろと?
とりあえず一番上に書いてあるヤツ、松木に電話をしてみた。
松木は東邦で一緒にサッカーしてたヤツだし、確か反町と一番仲が良かったハズだ。
俺は反町の主催する合コンの詳細を聞き出そうとしただけだったのだが、松木のヤツ、
途中で腹が痛いだの頭が痛いだの言い出して、俺に代わりに合コンに行ってくれと言
い出した。
何なんだ、一体。
「あんた、それ、脅してますって。」
目の前で声を殺して笑っていた若島津が声を出して笑い出した。
「何処でやるんだ、誰が来るんだってドスの効いた声で聞かれちゃ、『日向さんが行
きたがってる?俺に代われって言ってる?』って思うでしょうが。」
それは松木のモノマネか?…普通に喋ってただけじゃねぇか。
「ホント、自覚無いんですから…ま、良かったじゃないですか。なんなら俺が代わり
に行きましょうか?」
「イヤ…良い。」
コイツに行かせたらそれこそ心配だ。
確か6時半からだとか言ってたな…場所はオレのマンションからそう遠くない所にあ
る店で、オレも数回だが松山と行った事がある所だった。
店に入ると威勢の良い店員の声に迎えられる。
反町の名前を告げると奥のテーブルに案内された。
俺が声をかける前に反町が俺に気付いたようで、それに反応して松山もこっちを向く。
…そんなに驚く事か?松木のヤツ、俺が来るって言って無ぇのか?
ま、俺が来るって知ってたら松山のヤツ、来ねぇわな。
「――日向ッ…なっ…なんでお前っ」
「なんでって、松木の代わり。」
思いっきり動揺してやがる。俺が来たらそんなに困るのか?
ちょうど松山の隣が空いてたのでそこに座る。
松山のヤツ、露骨に俺を避けやがる。しばらく隣に座っていたのに会話をするチャン
スすらなく、気が付けば席替えになって松山の斜め向かい二つ隣…という、松山の顔
は拝めるが、話を振るには遠いといった席に座らされていた。
酒が入るにつれ、女達は積極的になり始めた。
「日向さん、お酒強いんですね〜私もう酔っちゃったみたい〜そろそろチュ−ハイに
変えちゃおうかな〜日向さん、どれが良いと思います〜?」
左隣に座ってる女がさっきからやたらと話し掛けて来る。
勝手にすれば良いだろう?…て言うか、チュ−ハイに替える辺り、まだ酔ってねぇだ
ろ。
「あ〜ソレなんか良いんじゃねぇ?」
とりあえず適当に返事をしとく。
「じゃぁコレにしちゃおっと。日向さんもビール、頼みますよね〜?あと何か頼む人
〜」
その声に酔っ払ったヤツらが口々に注文を言い出す。
いくら飲み放題だからってすげぇな。そう言う俺もかなり飲んでるけど。
でも、こんな量じゃ酔わねぇし。
それは松山も同じ。
松山もかなり酒には強いハズ。
でもさっきから…と言うより、随分前から松山のヤツ、飲んでねぇ。
俺の隣に居た時は飲んでた…よな、確か。でも席替えしてからは減ってない。
それに食ってねぇし。
もしかして…調子、悪いのか?
昨日土砂降りの中飛び出して行っちまったから、風邪引いて熱でもあるんじゃねぇだ
ろうな?
体調崩すと派手に熱出すクセして、すぐ無茶しやがるから、アイツは…。
「どうしたの〜溜息なんか吐いちゃって〜あっ、もしかして日向さん、あの子狙い〜?
ダメよ〜あの子はねぇ…」
俺が思わず吐いた溜息と視線の先を見て勝手に結論付けてくれたようで、今度は右隣
に座っていた女が松山に話し掛けてる女の悪口を言い出す。
お前ら、連れじゃねぇのか?と言いたくなったけど、ま、俺には関係無いか。
そんな事より、松山の方が心配だ。
大丈夫かよ…顔色良くねぇし。
このまま連れて帰りたいのはやまやまなんだが…
目の端に反町が席を立つのを捕らえる。
とりあえず反町の協力を得るか…
トイレに行く振りをして反町の後を追う。
用を済ませた反町を手洗い場で待ち受ける。
「うわっ…日向さんっ…ぐ、偶然ですね〜じゃっ、お先でした〜」
「ちょっと待て!」
後ろめたい事があるのか、早々に俺から逃げようとした反町の腕を捕まえる。
「うわ〜すいませんっすいません〜」
「謝るくらいなら最初っから松山、誘うんじゃねぇ!」
「だって、今回どうしてもひとり捕まらなくて、つい…すいません〜」
反町は大袈裟に拝むように謝ってくる。
やめろっての、人が見る。
「で、お前は風邪引いてるようなヤツを無理矢理連れてきたのか?松山、見るからに
体調悪そうじゃねぇか!」
「無理矢理じゃないですっ!松山熱あるのに俺が困ってるの見兼ねて来てくれたんで
すよぉ。でもやっぱツライみたいで…どうしましょ〜日向さん。」
…一応心配はしてんだな、反町。俺はただの合コン好きかと思ったぞ。
「決まってんだろ、連れて帰る!」
「ん〜…じゃぁ俺、アレしますから松山連れて帰って下さい。松山狙い多いみたいで
すから…っ怒んないで下さいよ〜とりあえず後は何とかしますから。」
アレねぇ…反町が合コンでよくやるというゲームだろう。名前まで知らんが、反町は
そのゲームをしてはお目当ての女を必ず連れて帰ると聞く。ようするにイカサマをす
るらしいんだが。
ふ、とニヤニヤしてる反町の顔が目に入る。
前言撤回だ。反町のヤツ、俺達に便乗して、今日のお目当ての女を手にするつもりな
のが見え見えじゃねぇか!
「それじゃ、行きましょうか。」
何だか浮き足立ってねぇか?反町よ…
ま、俺は松山連れて帰れりゃ後の事は知った事じゃねぇし、反町も好きにすれば良い
んだが。
「それじゃぁ王様ゲーム、やっりまぁ〜す!」
王様ゲームと言うのか、ソレは。
流石に反町は慣れてるだけあって手際良く事を進める。
こんな割り箸だけでよくこんなに盛り上がれるな…
「最初っから飛ばしまぁす♪それじゃぁね、5番の人がぁ〜2番の人を〜…お持ち帰
りッ♪」
思惑通り王様になった反町が命令を下す。
もちろん5番の割り箸を持ってるのは俺で、2番の割り箸は…
「と言う事だ。ま、ゲームだけど一応な。」
割り箸片手に固まってる松山の腕を掴む。
何だよコイツ…すげぇ熱いじゃねぇか。こんなんでよく平気な顔して座ってやがる。
そのまま松山を引っ張って店の外に出る。
「ちょっ…痛いってばっ日向っ!離せっ」
松山が口を開いたのは店を出て数分経った頃。
反応鈍ってんじゃねぇか。
「何だよ、何か言えよ。って言うかさ、お前なんで来たんだよ…」
俺の腕を振り払う。
「それはこっちのセリフだ。お前、熱あるクセにのこのこ来やがって。そんなに来た
かったのか?」
イヤ…違うだろう俺。
そんな事言うつもりじゃなかったんだが…
「は?何言ってんだよお前。俺、熱なんかねぇし。それに単なる付き合いだろ?反町
に頼まれただけじゃねぇか。」
…ったく、コイツはこの後に及んでまだ強がるか?
まさにケンカ腰。
「ちょっと待てよ!んな熱い体してるクセに何言ってやがる!」
店に戻る気がないなら帰ると言う松山を慌てて捕まえる。
「うるせぇっ離せよっ…」
掴んだ俺の腕を必死で振り払おうとしてんだろうけど、全然力が入ってねぇだろ?…
と、マジかよ…
松山のヤツ、そのまま俺の方に倒れ込んで来やがった。
「オイっ!大丈夫かよっ?松山っ?」
意識はあるようだが、浅くて早い呼吸を繰り返す松山の様子を見て落ち着いていられ
る訳も無く、通り行く人の視線もはばからず松山を抱きかかえ、ちょうど通りかかっ
たタクシーに乗り込んだ。
歩いてでもそんなに遠くない距離なのに随分長く感じた。
タクシーの中でもずっと震えてた松山。多分無意識にだろうけどずっと俺にしがみ付
いていた。
くそっ、こんなになるまでどうして…昨日ケンカさえしなけりゃ…
ぐっと松山を抱き締める。
部屋に入るとドアを開けるのももどかしく、とりあえず松山をベッドの上に下ろして
必要な物を探し出す。
体温計はすぐ見つかったが薬は何処だったか…ガタガタを自分の部屋を荒らす。
「……頭痛ぇ…」
薬が見つからなくてイライラしてるとベッドの上の松山が頭を抑えてツラそうにして
いた。
…俺がイラついてどうする。
「大丈夫か?」
松山の汗ばんだ額に触れると酷く熱い。
とりあえず手に持ってた体温計を脇の下に差し込む。
「どうせお前の事だから熱も計ってなきゃ、薬も飲んでねぇんだろ?待ってろ。」
とにかく冷やさなきゃな。タオルを冷やしてもう一度部屋の中を物色し直すと冷却シー
トと一緒に薬が見つかった。
松山のところに戻って体温計を引き抜いて驚いた。
「――――39度もあんじゃねぇか!」
39度以上示す体温計なんぞ、久し振りに見たぞ俺は。
当の松山は全く自覚が無いようで言われて初めて気付いたって感じだ。
だが、身体は正直なようで、呆れる俺に言い返す事すらしてこない。
さっき見つけた冷却シートを松山の脇の下に入れ込む。
「熱下げるにはココ、冷やすのが一番なんだよ。動脈通ってるトコだからな。」
冷たさに身を震わせ、怪訝そうに見る松山に説明してやる。
そして額にも冷やしたタオルを置いてやると気持良いのか息を吐く。
「薬、飲めるか?」
「…いらない。」
そう言って布団に潜り込まれた。
コイツは極度の薬嫌い。ま、予想通りの返事だがこれだけ熱が高いとなぁ…
「俺もう寝…る、ん…っ」
強行手段だ。いわゆる口移しってヤツ。
布団を捲くって水と一緒に錠剤を流し込んでやる。
松山の喉がコクンと鳴ったのを確認して唇を離して、布団を掛け直してやる。
「もう寝ろ。」
いつもだったら抵抗してくるヤツが熱の所為か、潤んだ瞳で見つめられると調子が狂
う。
「…日向ぁ」
その場を離れようとすると掠れた声で呼び止められた。
「ん、何だ?」
「も一回、キス…して欲し…い。」
思いもよらない頼み事に驚いたが、松山にしてみれば余程の勇気が要ったんだろう、
聞き取れない程の小さな声だった。
そんな松山が愛しくて…軽く唇に触れる程度のキスをしたつもりだった。
だが求めてくるのは松山の方で。そしてそれに答える自分にやはり松山を欲している
のを改めて自覚させられた。
だからその後松山の口から漏れた一言に俺は動揺を隠し切れなかった。
「…しよ。」
「何言ってんだ。お前熱あるんだぞ。バカな事考えてねぇで早く寝ろ!」
なんでこんな時に誘う?
熱があるヤツ相手にヤる訳にはいかねぇだろ?
精一杯理性を保とうと努力する。
だが…。
ぎゅっとシャツの袖を掴んで俺を見る松山の姿を見て抑制が効かなくなった。
…んな顔されたら我慢出来る訳ねぇだろ。
「…熱上がっても知らねぇぞ。」
再び唇を重ねる。今度は俺の方から貪るように深く口付ける。
松山の柔らかい舌を絡めとり、口内を隅々まで舐める。熱の所為で松山の口内は酷く
熱いが、それもまた俺の身体をゾクゾクさせる。
キスだけでイっちまいそうだ…。
「松山…」
「はんっ…や、だ…」
耳元で名前を呼び、舐め上げると松山の口から甘い声が漏れる。
堪んねぇ…!
身体の奥で欲望が剥き出しになるのが分かる。
狂おしいほど愛しい。
シャツを剥ぎ取り、胸の小さな突起を舌で絡め上げ、松山自身を掌で丁寧に撫で絡め
る。
「や…あんっ…んんっ」
松山の身体がビクビクと跳ね上がる。
俺自身が熱く昂ぶる。
「すげ…松山、もうこんなになってるぜ。」
俺同様、俺の手の中ですっかり勃ちあがっていた松山を握り込んでやると先端からし
とどに雫が流れる。
「はぁっ…言…うな、よぉ…」
言葉に出して言われるのが最も苦手な松山。いつもはそれが分かってて反応を楽しん
でたりするが、今日はそんな余裕なんかありゃしねぇ。
むしゃぶりつくように松山を攻め立てる。
普段も感じやすいヤツだが、今日は一段と敏感になってるようで、キスを施し、指で
撫で上げる度熱く甘い声を上げ、激しく反応する。
「…っ…ああんっ…やぁ…」
松山自身から流れ出た雫を絡め、中指を蕾の中に入れ込むと松山の甘く掠れた声が艶
を帯び始める。
松山の敏感なところを探り当て、指の数を増やして更に攻めると、断続的に喘ぎが発
せられる。
「ああっ…あああ…!」
白いキレイな肌がビクビクと波打ち、松山の硬く瞑られた目尻からはボロボロと大粒
の涙が零れ落ちる。
ヤバイ…それは反則だろう?
「悪ぃ、俺もう我慢できねぇ。」
本音だった。酷く艶かしいその姿に俺はもう破裂寸前だった。
昂ぶった俺自身を一気に押し進めた。
「ああああああ――――!!」
ほとんど泣き声に近い嬌声と快感に溺れる松山の顔、そして松山の中の生々しい感触、
全てが俺を狂わす。
幾度も挿入を繰り返し、本能の赴くままに突き上げる。
「も、ヤダ…ひゅう、がぁ…」
松山が懇願するように俺の首にしがみついてきた。
「松山…お前の中、すげぇ熱い…も、イキそうだ…良いか?」
俺ももう限界。松山の腕を解き、顔を眺める。俺の一番好きなヤツの顔を。
答えを待つつもりなんて無い。
松山の細い腰を掴むと、腰を激しく突き上げた。
「…っ、松山っ!」
「ああ…っ!!!」
思わず低く声が漏れる。
俺が松山の中に全てを放出すると、松山もほぼ同時に極限を迎えたようだった。
…かなり脱力。そしてかなりの後悔。
いくら松山の方からの誘いで、その松山がいつも以上に艶かしくて理性に歯止めが効
かなかったとは言え、熱のあるヤツ相手に手加減無しにヤッてしまった自分が情けな
い。
「…悪かった。お前、熱あるのに俺…でもお前も悪いんだぞ。今日のお前いつも以上
にイロっぽいし、それに…昨日は久し振りに会ったのにヤらしてもらってないし…っ
て。」
素直に謝ったつもりだが、松山からの返事はゲンコツ。
でも力の入ってないソレは痛くも痒くもなく。逆にその行為に松山の体力がかなり消
耗してる事に改めて気付かされる。
気遣っても、強気な返事が返ってくるだけで。
それでも互いの精液と汗で汚れた身体をこのままにしておくわけにもいかず、動けな
いという松山の身体を抱き上げ、バスルームに運ぼうとした。
「ちょっ…待てって…あ…っ」
抱き上げた瞬間、松山の体がブルっと震える。
何が起こったのか、すぐに分かった。
「キレイに洗ってやるから。」
近くにあったバスタオルを松山の下肢に捲き、そう耳元で囁き抱きかかえると松山は
恥ずかしいのか俺の胸に顔を埋めてきた。
「…任せる。」
消え入りそうな小さな声。
甘えてくる松山、積極的な松山…熱でもない限り有り得ない松山の姿を見て、たまに
は良いかとも思うが、調子が狂う。
やっぱり元気で、いつも俺に言い返してくる可愛げの無い松山が一番だ。
早く元気になれ。明日は美味いもの、食わしてやるから。
2002.11.7
明日香様よりいただいていた素晴らしい初H作品(明日香さんのね♪)、ようやくアップすることができました〜〜〜!!!
随分手元であっためてしまって、明日香さんごめんなさい〜〜〜!ふふふ、私一人でじっくり楽しんでしまいました!
もう、松山君が無理して合コン参加しちゃうとことか、日向さんにお持ち帰り(笑)されちゃうとことか、自分から誘っちゃう松山君とか〜〜〜〜〜!!!どこもかしこも叫ばずにはいられないシーンばかりで、うはうはでした♪
なにげに反町とわかしーがオイシイ(笑)。ナイスキャラ!
熱にうかされながらのえっち・・・いいですよねえ!お話のように萌える挿し絵をつけたかったのですが、これ以上あっためてると年をこしてしまいそうでしたので・・・。
ああ、でもほんとに明日香さんの文章、こんなにアップさせてもらえて嬉しいですv
ウチのサイトに彩りが♪らぶ〜〜〜〜〜vvv
(02.12.21)