小さな親切大きなお世話

 
 


                                 

 四月のこの時期は、大学のサークルの新歓コンパで盛り場はいつも以上の人出だ。
 やたらにテンションが上がった学生達の雰囲気は、自然とまわりもハイな気分にさせてしまうらしい。
 馬鹿騒ぎといってしまえばそれまでだが、案外ハマってしまったもんがちの。
 大学には進学せず、すぐにJリーグの各チームに属した俺達の飲み会も、そんな渋谷の街で行われた。
 試合のあととかに数人で会ったりすることはあったけど、ユースのメンバーがほとんど顔を揃えたのは久しぶりで。
 すすめられるままグラスをあけ、自らも追加注文。
 思い出バナシにハナ
が咲くなんつーのも、オトナ気分にひたっちゃったりして。あんときアイツがさぁ〜、俺達も若かったよなぁなんてさ。
 まだ20ちょいだけど。
 盛り上がりとともに、ペースなんてもんはどっかにいっちまった。
 何故酒を飲むのか?それはそこにグラスがあるからだ。なんちって。
 でもホントにとどのつまりは、ただ目の前にあるから空にする。とりあえず空にしておく。
 そんなわけで、珍しく俺もちょっと飲み過ぎてしまって。
 気が付いたら三次会をやっていた店の前で俺は地面を見つめて体育座り。そんでもって頭が───重いっ。
 もちろん店は看板になっている。降ろされたシャッターが寒々しい。
 ちょっと強めに吹いている風にガタガタ鳴ったりして余計にな。
 俺の背中では日向の大きな手のひらが、背中を摩ってくれていた。
 こういうときって、人の手のぬくもりってほっとする。

「おい、松山。大丈夫か?」
「うー。・・・あれ・・・みんなは?」
「終電で帰った。反町が車出すっていってくれたけど、お前乗りたくねぇって暴れただろ」
「うそ・・・」
「まあ、とりあえず水飲め」

 日向は立ち上がると店の前にあった自動販売機で、ペットボトルのミネラルウォーターを買い俺の前に差し出した。
 あ〜、ひゃっこくてキモチイイ〜〜。
 しゃがんだまま受け取ってボトルを額に当ててると、少し頭の重いようなのがとれる気がした。
 ひとしきり冷たさを感じた後、キャップをあけて水をラッパのみする。

「はぁ・・・・・。わりぃ・・日向・・・・」
「いや俺は全然いいけどよ。どーする?歩けるか」
「うーん、もうちっとココにいていい・・・?」
「吐くなら吐いちまってもいいぞ」
「いや、それはねえからだいじょぶ」

 答える声もなんだか自分がしゃべってるんだけど、遠くきこえたりして。
 幸いにも吐き気はなく、とにかくこう息苦しいっつーかなんつーか。
 立てた両膝の間に額を埋める。あー、情けない。
 がしゃんという音がして頭をあげると、日向が俺の横に並んで座り込んだ。シャッターに背中を預けた音だったみたい。
 渋谷の街にはほとんど人がいない。行き過ぎる車もまばらだ。
 ほんの数時間前まではあんなに人も車もいっぱいいたのに変なカンジ。
 日向の手がまた背中を摩ってくれている。
 なんだか、核戦争が起きて、いまこのふたりだけしかこの世界にいないのです。なんていわれてもそうかもなぁとか信じられそうな街の静けさ。
 だんだん眠くなってきて、首がかくん、と折れてしまう。
 
「おい、寝るならタクって部屋帰るぞ」

 俺の本拠地は札幌なので、今夜は日向んちに泊めてもらう事になっていた。
 とかいってもこっちに来る時は、ほとんど世話になってるのでほぼ第2の自宅ってヤツ?
 それにまあコイツとつき合ってるし。
 男同士で不毛だとか思う?もういいや、そんなの。だって事実だし。
 って、俺誰にいってんだろ。
 そっか部屋か。
 そーいや昨日してねえから、ほんとは日向、今日したかったんだろうなセックス。
 部屋帰ってすんのかなぁ・・・。
 俺も男だし、あの気持ちよさは嫌い・・・じゃないから、なるべく応えるようにはしてるけど。
 なんでだか俺がアイツのを受け止めることになっちゃってんのは何故なんだ?
 これについてはいまだ自分の中でも回答がでていない。でていないからこそ、日向とセックスできんのかもしんねえんだけどね。
 それはさておき、今、これからってのはちょっと辛いかも。
 でもなんだか日向のことが無性に愛おしい。
 アルコールのせいでネジが1本どっかにとんでっちゃったらしい。

「日向。すき」
「へ?あ、ああ俺も」
「じゃあさぁ、すこしあるこうぜ」

 まっすぐ立ち上がったつもりだったけど、脚がぐにゃぐにゃ。あらら。相当きちゃってんなぁ。
 慌てて日向が俺の腰を支えてくれる。
 にやっと笑ってその手を振りほどくと、日向の腕に俺の腕をからめた。
 普段だったら絶対できないけど。手を繋いだり腕を組んだり。
 俺はやだけどね。人前でベタベタすんの。
 男同士だし。日向に甘えるなんてのは、むかつくからゼッタイしたくないし。
 ほんとは日向がそうして欲しいってのは、なんとなくわかってるけどさ。
 でも、今だったらいいか。もしも人に見られてても、酔った俺介抱してるように見えるだろ。
 公園通りの坂をおりながら、日向の顔を覗き込んだらヤツはやっぱりちょっとうれしそうだ。
 まあたまにはサービスってことで。
 
「あ、ションベンしてえ」
「俺も」

 ちょうど宮下公園に差しかかったところだったので、そこの公衆便所に並んで入った。
 暗い公園を歩いてきて、そこの中だけが煌々と明るくなって、その差に目がチカチカと痛くなりそうだった。
 白い朝顔が眩しいぜ。
 酔ってるせいか、なかなか終わらない俺の放尿をじいっと日向がみてる視線を感じた。

「んだよ。見てんなよ」
「長ぇなぁ・・・」
「しょーがねーだろ。あんだけ飲んだんだから」
「洩らさなくてよかったな。そんなに溜めてたのか」
「うるせえぞ、おまえはよー。ほれ、終わりっ」

 のろのろとファスナーをあげて、手を洗う。その拍子で腕時計をみたら午前二時半。
 草木も眠る丑三つ時ってやつね。
 外へ出て、うーんとひとつ伸びをしてから、隣にこない日向を振り返ったらなにやら考えてる様子。
 表情はよく見えないけど、割と真剣な表情みたいだ。
 そうだなこれからどうしようか。始発まではまだ数時間。
 タクって部屋に帰ってもいいけど、どうせだったらもう少し外の空気にあたってたい。
 ひんやりとしたなかにも春の夜、っていう肌触り。うまく表現できないけど。
 夜と朝の境目をみるまでどっかでぼーっとしてるのもいいかもな。
 東のほうからだんだんとブルーが白みがかっていくところ。
 そうだ。このまま代々木公園まで歩いて、ベンチでたまにはじっくり話とかでもしてみようか。
 
「日向、あのさー」
「やっぱりきめた」
「なにが?こっからいくとこ?」

 日向はうなずくと、がしっと俺の腕を掴んで今でたばっかりの公衆便所にがしがしと入っていく。
 しかもだ。

「ちょっと日向っ、こっち女子便所───」

 それには無言のまま、日向は戸惑う俺の腕をグイグイと引っ張っていく。
 三つ並んだ一番奥の個室に俺を押し込み壁に押し付けると、日向が後ろ手に内鍵を閉めた。
 これってもしかして?
 興奮してるのか鼻息の少し荒くなった日向が俺の頭を抱え込むと、貪るようにキスしてきた。
 やっぱり〜〜〜〜〜っ。
 こんなところでコトに及ぶつもりか?
 俺は必死にかぶりを振って、日向の唇から逃れる。なおもキスしてこようとする日向の顎を手でブロックして睨み付けた。

「こんなとこでなにしやがる!」
「こんなところ、だからだろ?」
「なにもこんなところでッ!!」
「だって、我慢できねぇ・・・」
「こんな、こんなとこ、誰かに見つかったらッ───」
「誰もこんな時間にこねえよこんなとこ」

 言いながら日向の手が、俺のショートパンツのファスナーに掛かった。
 
「ちょっっ・・・、ヤメロっ、やめろって!!」
「だってオマエ、明日あっちに帰っちまうだろ?・・・やらせろ」

 日向がこういう風に求めてくるのは珍しい。だいたい仕掛けてくるのはいつも日向のほうだけど。
 
「で、でもそーゆー問題じゃぁ・・・だったら部屋帰ってしよ」
「たまにはいいだろたまには。とりあえず出させろ!」

 苛立つように言い放つと、再び唇が重なってくる。
 強い舌に俺の舌は搦めとられて、次第に身体の力も抜けてくる。普段より息の上がるのが早いのはやっぱり酔いが回っているせいだろうか。
 いつのまにか日向の指が俺の股間を執拗に弄っている。
 
「や・・・日向ッ・・・───んんっ」

 呼吸が乱れてしまう。日向の手の中のモノも正直に熱い反応を示してしまう。
 日向との関係で慣らされてしまった身体が、甘く疼きはじめる。
 その身体の欲するものは、日向の熱い昂りで。知らず俺の腰は日向を求めて揺れてしまう。
 
「───松山、後ろ向け」

 下着とショートパンツは既に膝まで下ろされて、露になっている尻を日向の指が食い込むように掴む。
 俺は壁に額と腕を押し付けて、身体を支えた。
 
「ああんっ」

 準備もしていないそこに、ジーパンの前立てから引き出した日向の昂りが押し付けられる。
 熱くて堅い。
 日向は前に回した手で、同じように昂っている俺のものを握りこんだ。緩急を付けながら無骨な指が扱いていく。
 背後ではゆるゆると腰を動かし、入り口に日向の昂りが擦り付けられるのがむず痒い。
 だけどこんなところで入れられては───。

「───んっ、日向ッ、入れんなよ」
「ここまでさせて、んなこというな」
「・・だって、あと大変なのは俺なんだぞっ───」
「大丈夫、ゴムもってきてるから」
「なっ、あんっ、んっ」

 日向の唇に耳を挟まれ、舌で嘗められる。俺は大きく身体を震わせた。

「───っ!!」
「はやいな・・・やっぱ松山も興奮してんだろ?」

 日向の手に受け止められた液体が、うしろに塗られているのを胸を喘がせながら感じた。
 なんかもう、どうでもいいや・・・。
 ぐいっと埋め込まれれた中指が内部を掻き回す。
 覚えのある指の刺激に、身体は快楽を思い出して締め付ける。
 
「ああっ・・・、あぁぁ・・・」
「松山・・・」

 人さし指もまとめて挿入され、その圧迫感と快感に俺は喘ぐしか無かった。

「あっ、ああっ、ああ!」
「そんなにイイか?」

 低く日向の呟く声に、頷いてしまう。
 だってしょうがねえじゃん。
 むき出しの尻を無意識に上下に振り立て、日向の猛りを求めてしまう。

「───力抜いてろ?」

 指が引き抜かれて、俺ははぁはぁと息を吐きながら、その瞬間をまった。
 小さく音がして、日向がゴムを装着しおえると、再び昂りがあてがわれる。
 どうしようもなく身体が疼いて震えていた。

「・・・っ・・・あっ、くっ───」

 日向が挿入される。
 俺の中いっぱいに日向が埋め込まれる。

「あっ!ああんっ」

 あまりの圧迫感と、充足感に憚らず声を上げてしまった。
 日向がぐいぐい突き上げてくる。痺れるような快感に声は大きくなる。
 急に日向の大きな手が、俺の唇を塞いだ。

「んんぅっ」
「しっ!声・・・だすなよ」

 小さな声で耳元に囁く日向の突然の態度に俺はまだ、なにがおきたのかわからなかった。
 相変わらず日向の腰は揺れて、俺を貫いている。
 声を出すなと言われても、日向の指の間からはくぐもった声が漏れてしまう。

「ううっ・・・う・・・・!」

 日向の動きがきゅうに止った。
 なに?
 少し、緩められた手の間からは俺の引きつるような吐息がこぼれる。

「ううっ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

 どんどんどんどんどん!!!
 
 扉を叩く音に、身体が凍り付く。
 誰か───誰かきてる?
 俺達がしてんのバレた?
 日向の手が再びきつく俺の口を塞ぐが、それがきつすぎて、呼吸が苦しくなり唸るような声がでてしまう。

「う・・・うう・・・・」
「ちょっと!!大丈夫ですか?具合悪いんですかっ!!もしもしっ!!」

 扉を叩きながら中に掛けられた声は意外にも、若い女の子の声だった。
 当然返事なんかできっこない。
 しつこいくらいに、どんんどんと扉を叩く。
 嫌がらせか?と思ったけど、声はかなり真剣だ。

「あの!!救急車とか呼びますかっ?だいじょうぶですかっ?!」

 ああ、俺の声が、ぐぐもった声が、具合悪い人のつらそうな声に聞こえたんだ。
 ようやく合点がいく。すっかり俺は萎えてしまった。冷静に事態を受けとめて、どうしたもんかと考えようとして───。
 俺の中に埋まったままの日向が、その体積を増してるのを感じた。
 何こいつ!もしかして興奮してんのか?
 振り向くと、日向がにやり、と唇に笑いを浮かべた。
 口を塞いでいた大きな手が、腰を掴んで俺を抱え直す。
 なにぃ───?
 睨もうとした瞬間、抽挿がはじまった。

「んんっ・・・、ぅん・・・!!んっ、んんっ!!」

 慌てて自分の手で口を塞ぐが、くぐもった声が漏れてしまう。
 それよりも、日向の吐く短く浅い呼吸の音と、ぱんぱんという肉のぶつかる音が静かだった個室に大きく響きはじめる。

「───あっ!!!す、すいませんっ!!!」

 ようやく中で何が起きているのかわかったらしい女の子が、慌てたように叫ぶとばたばたと出ていく音が聞こえた。
 
「ふっ・・・ようやくいなくなったな」
「ば、ばかっ!!あんっ・・・・だから・・・こんなとこでって!!」
「・・・・・・」
「なにでかくしてやが・・っ、・・・・・ああんっ!」

 すっかり萎えてた俺自身を再び日向が扱きはじめる。
 情けないことに、すぐにそれは勃ち上がって先走りの蜜液が滴った。
 日向は手を前に回したまま、容赦なく突いてくる。

「ああん、ああっ、あっ、ああ!」

 俺の身体が細かく痙攣し、蕾が日向自身を飲み込むような激しさで収縮する。
 激しく抜き差しされてわけがわからないうちに俺は射精してしまうと、日向の喉からも小さく声が漏れた。
 俺の中で日向もようやく達したようだった。









「最悪」
「・・・・・・」
「別に俺はしたくねえ、っていったわけじゃねえのによ。場所考えろ場所」
「・・・・・・」
「あの子、まじ心配してくれてたろ?それなのにてめえは何で興奮してんだよ!」
「・・・・お前は興奮しなかった?」
「しねえよ!!!」

 むかつきながら歩く俺の後ろを、1歩下がって日向がついてくる。
 簡単に拭っただけの後ろが気持ち悪い。
 生でやってたら、こうやって歩くのもままならなかっただろうけど。だからといってゴム付きだったから許すとは言えない。
 だいたい、情事の様子を人にきかれてしまった───ということが、俺にはショックでたまらない。
 日向を怒鳴っていないと、涙がでてきそうだ。
 ちょっと前まで、せっかくいい気分で散歩してたのに。
  
「松山」
「なんだよ」

 俺の前に回りこんだ日向が、じいっと俺の目を見つめる。
 この目に弱い。日向の真剣な目。
 
「悪かった・・・・・」
「・・・・・・」
「ゴメン」
「・・・・・そんだけかよ」
「・・・・・・」

 ほんとはさ。
 したくなっちゃうっていうのは、俺もわかるけどさ。
 はぁ・・・。
 せめて、ほっといてくれたらよかったよなあの子・・・・。ほんと小さな親切大きなお世話だよなぁ。
 俺達も吃驚したけど、すごい驚いていたっけ。普通気付くよなぁ・・・ああいうところで、あの声だぜ?
 それに、まさか中の二人が男二人だとも思いもしてないだろうなぁ。
 なんてことを思い出したら、なんだか可笑しくなってしまった。
 うじうじしててもしょうがない。

「日向タクシー代、オマエ持ち」
「え?ああ、ああ勿論」
「あ〜、はやく部屋帰ってシャワー浴びてえ」

 大通りへ出て、ちょうど流していたタクシーを捕まえた。
 日向が行き先を告げる。
 車がするすると走り出す。街の景色が流れていく。
 そっと日向の指がためらいがちに、俺の指に絡んでくる。
 俺は応えるように、からめられた指を握り返した。
 なんだかんだで俺は日向に甘過ぎんだよなぁ。これからはもうちょっと厳しくしねえとな。

「眠い」
「ついたら起こすから寝てろ」
「うん」

 車の揺れに身を任せながら、俺は目を閉じた。


終わりッ。

 

 


 実は・・・このノックしてくれた親切な人、ワタシがやったことなんです(爆)。
 昔まだ、若かった頃、渋谷のタワーレコードでのインストアイベントのチケットをゲットするために、前の番から徹夜してた時にですね、公園のトイレにいったら隣から具合悪そうな声が(笑)。
 気付いたのはけっこうドンドンやってからでした;;
 慌てて謝って逃げ去りましたけどね。悪戯だと思われたでしょうか。ほんとにイイ迷惑だよね。
 きっとこの後萎えちゃったんじゃ無いかと思うんですけど・・・。
 でも悪気はなかったのよ〜〜。ほんとに親切心でっ。
 ああ、まゆったらこの頃は(笑)。
 まさか松小次でネタで使える日がくるとはおもいませなんだ・・・。

 またわけのわからん話ですいませんでした;;
 
  (02.04.15)