今回も、熱いバトルから幕が開いた。
ここ、東邦寮の一角。
前回に引き続き今回もまた異様な熱気が部屋中を覆っていた。
同じ年頃の男達が狭い部屋に集まり、輪になってトランプをしている光景は一種異常な雰囲気を醸し出していた。
東邦寮恒例の年中行事節分の鬼を決める闘いが今、始まっているのだ。
「うお───!!!俺あがりっ」
一人の男の雄叫びが部屋中に響いた、同時にがっくり肩を落とし手元のトランプを見つめる2名の男……日向と松山である。
「マジか…」
日向が天井を仰ぎ、ぽつりと呟く。
松山に至ってはうなだれたまま言葉も無い。
どうやら、最終的に残ったのはこの二人らしい。
「えー、お二人には鬼の格好をしてみんなに豆まきの標的になってもらいます」
寮生達を前にすっかり司会者と化した反町が今後のことについて説明を行う。
「おい、確か鬼の面つけるだけでよかったんじゃねぇのか?」
「先輩はそう言ってたぜ」
反町の説明した意外な内容にあわてた当事者の二人が抗議の声をあげた。
毎年行われる節分のイベントでは、画用紙で作った鬼の面をかぶるだけでコスプレをするなんて初耳である。
実際、他の連中も不思議そうな顔をしている。
「だまらっしゃいっ」
突然、よくとおる大きな声が辺りに響いた。
その場にいた者が一斉にその声がした方向を見る───若島津だ。
「あまいっ!!甘すぎるっ!!日本古来からの由緒正しい行事をそんな風に簡略化してはご先祖様に申し訳ないっ!!そもそも、節分とは………」
右手で拳を握り力説するその目には異様な光が灯っている。
「…元来、魔を払うもので……」
若島津の熱の籠もった講演はその夜、延々と3時間以上続き寮生達は悪夢のような夜を過ごしたのであった。
どんなに嫌がろうとその日は確実にやってくる。
日向と松山の部屋の中、
「はい、これ衣装です。あ、下着以外はつけないで下さいね。どうせ寮内でやることなんで寒くないと思いますし」
にっこり笑い、日向に紙袋を手渡したのは若島津であった。
「おまえどっから、こんなもの調達してくるんだよ」
衣装の入った紙袋を覗き込みながら、日頃から考えていた疑問がふと口をついて出てしまった。
去年のクリスマスといい、今年の着物といい何故か若島津がすばやく調達してくる。
「今度は俺の手作りです」
しれっと若島津が言った内容に、日向は訊ねたことを後悔してしまった。
世の中には知らなかった方が幸せなこともある。
「じゃ、日向さん後でまた」
そう言うと軽く右手をあげ、茫然としている日向を残し若島津は部屋を出ていった。
幼なじみのGKはどんどん理解不能になっていく…日向は深く溜息をついた。
しばらくドアの方を向いていた日向ではあったが、やがて重い気持ちを振り払うかのように軽く頭を振るとベッドの方へくるりと方向転換した。
「おい、着替えるぞ」
ベッドの上の布団の塊に声をかける。
「うー」
塊が唸り声をあげる。
「ったく…」
ベッドに近づき布団をはぎ取る、そこには丸まった松山がいた。
松山は拗ねると布団をかぶるくせがあるらしい。
「おまえなぁ、いい加減にしろよ」
呆れ声の日向を松山はキッと睨みつけたが、その瞳は潤んでいる。
「おまえは始めてだからいいだろうが、俺は2度目なんだよっ!!」
「お前2回目ったって、1回目はやってないじゃん」
「そっ、それはっ…てめぇが悪いんじゃねぇのかっっ!!!」
ガバッと跳ね起きると、松山は日向の襟首をつかみあげる。
どうやら、やぶへびだったらしい。
余計なことを言ったと日向が後悔するも遅し。
真っ赤になって怒っている。
「おっ落ち着け、確かに俺が悪かった…けど、結局しなかったことには変わりねぇだろ、お前ホッとしてただろ」
「うっ…」
痛いところを衝かれ二の句が告げない松山であった。
「ま、それに…なんだ…今回は俺も一緒だから…」
鼻の頭をかきながら、照れくさそうに日向は松山を見る。
滅多に見れない日向の表情、そんな顔をされては松山も弱い。
しぶしぶベッドから降り立ち、衣装を受け取った。
「これ着るのかよぉ」
虎さんのシマシマパンツを嫌そうに広げる松山。
「あ、もう一個忘れていた」
日向は紙袋の底に残っていたものを取り出すと、松山に放り投げた。
「ひぇー、なんでこんなもんまで俺がつけなきゃいけねーんだ」
松山が、指先でつまみあげたのは俗に言うブラジャーだった、もちろん虎柄だ。
どうやら松山の衣装は虎柄のビキニらしい。
さすがに、下はハイレグとかではなく只の短パンだったのが救いではあったが。
「鬼のオスとメスじゃねぇのか?」
んなもんあるのだろか?日向のあっさりした答えに疑問が解決するワケでもなく、松山の眉根は寄ったままだ。
「おまえ、こっち着ろよっ!!!」
「サイズがあわねぇ」
松山の必死の提案を冷たく断り、さっさと服を脱ぎ、衣装を身につける。
といっても、ただ単にパンツの上からトラ柄の腰巻きをつけただけだが…。
「……原始人……」
松山が着替え終わった日向を見て素直に感想を口にした。
鍛え上げられたごつい体、そして日に焼けた浅黒い肌、精悍なマスクとあいまって、腰巻きだけの様子はどう見ても毛皮をつけた原始人だった。
「うるせー、ごちゃごちゃ言わずにてめえもさっさと着替えろ!」
どうやら松山の感想は日向のプライドを多少傷付けたようであった。
「へん、図星だからって…」
ぶつぶつ言いながらも、松山は下着姿になり衣装をつけはじめた。
問題のブラをタンクトップの上からつけようとすると日向が止めた。
「おまえ、そんなもん着てたら若島津に何されるかわからねぇーぞ」
ふと、先日の若島津の様子を思い出す…。
確かに、あの夜は地獄だった…知られざる若島津の一面を見たような気がした。
あわてて、タンクトップを脱ぎ、直接素肌にブラをつける。
完成したその姿は……まるで……。
「……ラムちゃん…」
日向がボソリと呟いた。
意外に漫画好きな日向であった。
「なんだそりゃ?」
知らないのか、きょとんとした顔で日向を見つめる松山。
ただでさえ大きな瞳を見開き、小首をかしげて不思議そうにしている様子は喩えようもなくかわいらしい。
そして松山のそのビキニ姿は、白い首筋から肩にかけてのきれいなラインがむき出しになっており、上半身は虎柄のブラが無粋にも松山の胸の一部分を隠しているが却ってそれがいやらしさを増して、なんとも艶っぽい。
スポーツ選手らしからぬ細い腰がなだらかな曲線を描き、短パンからはすらりとしたおいしそうな白い太股がのぞいてる。
たったまらんっ。
日向が松山に近づこうとした途端、
バタンッ
部屋のドアが勢いよく開いた。
「松山!日向さん、用意できましたか」
どうやら、ドアの外で様子を伺っていたらしい反町が飛び込んできた。
二度と失敗はしないつもりだったのだろう。
思いっきり反町を睨みつける日向であったが、なんの効力も無く反町は松山の背中を押して部屋を出ていってしまった。
「すっ…すげぇ……」
「うっわっー」
階段ホールにはすでに寮生達が集まり、手に手に豆を持ち主役達を待ち構えていた。
そこへ二人が姿を表すと同時に、感嘆の声が上がる。
そんな中、一人の寮生がぼそっと呟いた。
「かっかわいい…」
その瞬間、凄い勢いで次々に松山のまわりに寮生達が群がってきた。
豆を投げることをすっかり忘れ果てているらしい。
「うおー!松山っ!!」
「すげぇー、かわいいぜぇー」
「こっち向けぇ!」
「いいぜぇー」
口々に何事かを叫びながら、突進してくる寮生に松山は驚きのあまりすっかり固まってしまっている。
「くそぉー、これだからイヤなんだよっ男子校はっ!!!」
自分のことは棚におき日向はぼやくと、勢いよく松山の腕をとりその場から逃げ出した。
「おっ…おい、どこいくんだよっ…」
「おまえ、このままだとマジ襲われるぞっ」
「うっ…」
松山も先ほどの雰囲気から考えて、まったく根拠の無いことだとは思えなかったので返答に詰まってしまった。
「とにかく、B棟まで全速力で走るぞっ!!!!」
「お…おうっ」
もちろん松山に異論はなかった。
応接室の鍵を内側からかけるとその場にしゃがみこんだ。
しばらく様子を伺う。
どうやら、追っ手はこないようだ。
二人は顔を見合わせて安堵の溜息をついた。
磨りガラスの向こうから廊下の灯りが差し込むだけの薄暗い部屋。
ほのかに、松山の白い肌が浮き上がる。
ごくりと日向の喉がなった。
「松山」
「ん?」
「したい…」
「はあ?」
日向の言う意味がわからないまま、気がつくと松山は床に押し倒されていた。
「ちょっ なに考えているんだっ」
「わからないか?この状況で…」
「だっ だから や…あっ…」
いきなり、首筋にキスが降ってくる。
ゾクリとした感覚が松山を襲う。
「なっ なん…でっ…」
逃げようと身を捩るが、両肩を押さえつけられ身動きがとれない。
力の差を歴然と感じるこの体勢に悔しくて涙が滲んだ。
その間にも日向は松山の弱いところを攻め続ける。
羞恥に赤く染まる耳朶を軽く噛み、耳の後ろへ舌を這わす。
「はっ…んっ!」
性感帯を刺激するその感覚に松山は思わず声をあげそうになり、あわてて唇を噛む。
だが日向の愛撫はますます激しくなる一方で、松山は必死に声を堪えていた。
声を出すまいと強く噛みしめたせいで血の気のない唇に日向は自分のそれを重ねる。
「っんんっ」
歯列を割り進入してくる日向から逃れようとするが逆にその舌をからめとられ、口腔を犯されていく。
「───んっ─」
息ができなくて苦しいほど、日向は松山を貪る。
松山の口の端からは、どちらのものともわからない唾液が頬をつたって落ちた。
「…なんで…こんな時…にっ……」
激しいキスに体中の力が抜け頭の芯が甘くうずく。
だが、僅かに残った理性は日向の行為を押しとどめようとする。
松山の肩口に顔を埋めた日向の唇が白い首筋にそって薄く跡をつけながら耳元へ、いやらしく這い上がってきた。
「お前が、誘ったんだ」
日向の囁きに、ビクンッと松山の体が跳ねた。
松山が好きなその日向の低い声の響きに体がどうしようもなく反応してしまう。
思わず閉じてしまった瞼に日向はキスをするとニヤリと笑い、悪びれる様子もなく肩をすくめた。
「それにどうせしばらくはここから出られないし」
日向の理不尽な言葉に松山の怒りが閃く。
「てめぇーーー」
快感に潤んだ瞳で日向を睨み付けるが、そんなものは相手を煽るだけでなんの意味もない。
「じゃあ、おまえソレどうすんだよ、ついでに言うなら俺のもどうしてくれるんだ?」
日向の目線は松山の中心を捉えていた。
先程からの愛撫で松山のモノはすでに短パンの上からでもわかるくらい形を変えていた。
日向は自分の猛ったものを松山の中心に擦り付ける。
「あっ…んっ」
そのわずかな刺激さえ、松山には堪らない。
思わず声が漏れる。
そんな松山に日向は軽く口づけすると立ち上り、応接セットに向かった。
「来いよ、そこじゃ膝が痛いし」
長椅子にどっかりとすわり、顎をしゃくって松山を呼ぶ。
「…なっなんで…そこへ行かなきゃいけねぇんだ…」
「お前、そこでしたいのか?背中痛いぞ」
「うっ……」
あくまでも日向の頭の中はすることしかないらしい。
こうなったら多分抵抗するだけムダというものだ。
これまでの経験から松山は学んでいた。
「ほどほどにしろよ」
最後の足掻きとも捉えられる悪態をついて、松山は日向の元へ歩み寄った。
一方、こちら二人が去ったホール。
「日向さーんっと、あらららら─」
反町が日向達が走り去った方向を見やり、その走りっぷりに感嘆の声をあげていた。
寮生達も呆気にとられて追いかけることを忘れているようだ。
しばらくして何人かが正気に戻ったのか、鬼役がいなくなったコトにようやく気がつき始めた。
とまどいのざわめきが寮生達の間にさざ波のように広がっていく。
そんなホールの状態をあくまでも他人事のようにおもしろそうに眺める反町であった。
「あーあ、鬼がいなくなったなー」
ひどく冷静な声が背後から響く。
なにかイヤな予感が襲ってくる中、おそるおそる反町は振り返った。
こには例の如く紙袋を持ってにこやかに立っている若島津がいた。
「ひょっとして……」
「ものわかりがいいな」
若島津は反町ににっこり微笑むと、周りを見渡し大声で
「みんな、新しい鬼1匹用意するから、ちょっと待っててくれ」
と、鬼役の振り替えを告げた。
「なんで俺なんだよぉー」
がっしりと若島津に腕を捕まれた反町が悲壮な声をあげる。
今回は直接的にはなんの落ち度もないハズである。
「悪い、お前しかサイズがあわないんだ」
若島津にずるずると引きづられながら、反町は思った…こいつは確信犯かもしれない。
この後、反町はもちろん『豆まきの鬼、ラムちゃんバージョン』で寮生達を喜ばしたのは言うまでもないだろう……。
冬野ひまわり様より、時事ものえっち(笑)新作を頂きました〜〜〜〜!
わ〜いわ〜い!!
ひまわりさんとのやりとりのなかで、「次は節分ですかね」とおっしゃるのに、「じゃあまた東邦の寮イベントで〜、松山鬼で〜〜〜♪」と勝手な事を申し上げたところ、こんなに素敵になってきてくれましたvvv
もう、ラブ!ひまわりさんっ!!
ああん、もう、やっぱり松山が可愛いよう〜〜〜〜〜〜〜!!
でも実は密かにこの東邦シリーズ、若島津がお気に入りの私です(笑)。もはや私とひまわりさんの分身なのでは??と疑ってしまうこのお方。
ラムちゃん・・・・。
ああ、資料がなかったのでぼんやりとしたイメージで描いてしまいました;;なんか違うかも・・・・。
原始人日向さんも・・・・・。うまく表現できなかったよ〜〜〜〜!
あんまり挿し絵、えろくなんなくてスイマセン(爆)。
もう、このシーンもあのシーンも描きたくてしょうがなかったのですが、早く、皆様にお話を御紹介させていただきたくてっ。
挿し絵も相当手抜きっつーか雑でほんとうに・・・・。
ああ、でもほんとひまわりさんのお話、ツボおされまくりですよぅ〜〜〜〜〜〜〜。
どうもありがとうございました♪
(02.02.02)