背丈の長い草が茂ったむこうに、暗い水をたたえた川面。下流のこのあたりは川幅も広く、流れは急でないものの夜見ると吸い込まれそうで恐い。
その対岸には今二人が歩いているような緑地帯と、かなりの高さの土手があって真っ暗だ。土手の上空に浮かぶようにその奥に続く高層マンションやビルの窓の明かりが、点々と見えている。
なんとはなしに、すぐに部屋に戻れる階段を登らずに、少し先の橋の下近くまで歩いてきてしまった。
それまでしっかりと握られていた松山の手から日向の手がふいに離れた。
しかし、すぐにまた日向の手は松山の手をとる。
「日向?」
すこしうつむき加減になった日向に松山が気付き、声をかけた。
それには返事はなく、かわりに日向の指先が握った松山の手を撫でるように、自分の指にからめるように蠢く。
松山は日向のしたいようにさせた。
繋がった手からくすぐったさが生まれるが、これもちょっとしたコミュニケーションだ。
橋の真下についた。ここにある階段をあがって堤防の上にでて、そのまま反対側に降り堤防の下を走る道にでることができる。
大きな橋の下は、真っ暗でまるでトンネルの中のようだ。パノラマで広がっていた景色が大きな黒いアーチに切り取られる。
階段をあがりかけた松山の手が、ひっぱられた。
日向は立ち止まったままだ。訝し気に振り向いた松山に、日向は低く押し殺したような声を絞り出す。
「・・・月の見えない場所なら・・・いいよな」
「なにが?」
「・・・うさぎ食いたい」
「・・・って・・・」
ここでまたやろうってのか、といいかけた松山は自分に向けられたギラギラとした瞳に身を竦め、声をつまらせた。
欲望に濡れた自分を求める視線は、今までにも何度となく経験している。
しかし、今この目の前にいる日向の目は、それよりもなんというか・・・そう、獣のように狙った獲物を射竦める類いの本能的なものだ。
まさに先程、日向の言っていた狼男がそこにいる。
「おい・・・日向はやくうちに・・・」
ようやく絞りだした声とは裏腹に、足が一歩も動かないことに松山は愕然とした。
握られている手が痺れてくる。その手を振りほどこうとしても、指先に力が入らない。
なんでなんで!・・・なんか違う・・・こいつ本気だ―――
日向は、松山の手をぐいっと引き寄せた。硬直していた松山の体は日向の胸に倒れこむ。
「こんな時間にこんな場所うろついてると、狼男に襲われるんだからな」
その声に松山はぞくっとした。いつものひとを揶揄るような響きも込められていない。たんたんとした言葉のトーンに本能的に怯えが走る。
日向とセックスすることは、既に恐いものではなくなっているし、互いに求めあうのは愛情確認の一つだと認識している。ただ、時と場所を考えてほしいだけだ。
今だって先程日向の行為を止めてしまったことに、すこしは申し訳なさを感じてウチに帰ったら、つづきを考えてやらなくもないと心では思っていたのだ。
日向の鋭い目が、自分の体を服の上からもその下の肌を犯すようにみつめてくる。
あっという間に、松山の体は橋桁のコンクリートの壁に押し付けられた。
その勢いでごつんと後頭部を打ち付けた。目の前に星がちらつく。
そかしその痛みよりも、いい知れぬ恐怖が松山の体の中を駆けめぐっていた。必死に日向の腕から逃げようと、足をばたばた動かす。
そのうちの何回かは、日向の足に蹴りとしてしっかりはいったはずだ。
しかし、日向は表情も変えずに自分の足を挟み込み、がっちりと松山の体を固定してしまった。
背中にあたる固く冷たい感触が、逃げ場のないことを松山に思い知らせた。知らず、己の手は自分の体の下で後ろ手に挟まれてしまい、日向に縫いとめられた状態では引き抜くこともできない。
「・・・やだっ!!日向ふざけんなっ!!お前・・・なんか違う!」
松山の制止の言葉にぎろりと一瞥を与えると、日向はいきなり松山の首筋にかみついた。キスではない。本当に歯を立てている。
「痛っ―――!!」
日向は自分の中にある獣性に突き動かされるままになっていた。
頭の片隅では理性が抑止をかけているのはわかっていた。松山がこういった場所での行為を、なによりも嫌がるということも。
しかし、欲望を抑えることができない。
無性に目の前の獲物―――松山が悶え、泣き叫ぶ様子をみてみたいというどろどろとした欲望。
普段は、なるべく松山が痛い思いをしないように、松山本人も感じてくれるように、かなり気を使いながら行為に及んでいるつもりの日向だ。あまり泣かせたくはない。
しかし、男として、動物としての凶暴な本能が、愛しいもののそんな姿を望んでいる。
先程、松山を迎えにくる前にみていたテレビ番組の強姦魔の姿が、知らず日向の脳裏に焼き付いてしまっていたようだ。
そんな日向のいつもと違う様子が伝わっているのか、驚いたように目を見開いた松山の顔は怯えてみえた。
いつだって、そんな顔を見せることのない松山のそんな表情に、更に日向は煽られる。
乱暴に松山の唇に日向は口付けた。
噛み付くようにキスすると、松山も必死なのか唇を噛んできた。びりっとした痛みを唇の端に感じたかと思うと、すぐに鉄の味が口の中に広がった。
「・・・っつぅ」
「あ・・・ゴメン、だって日向が・・・」
唇を離すと、襲われているというのに松山が日向を気づかう。
コイツほんとにバカだな―――。
一瞬、日向の顔に笑みが溢れた。しかし、そんな松山の天然な態度が余計に日向の悪戯心に火を付けてしまった。こうなったら今日、俺はかわいいうさぎちゃんを犯す、狼男だ―――。
「いいぜ・・・もっとそうやって抵抗しろ」
「・・・ひゅう・・どうした―――」
舌先で舐めとった血の味が更に凶暴さを増す。
再び松山の唇を貪りながら、松山のウィンドブレーカーを肩から引きずり下ろし手首でまとめた。その下のTシャツを思いきり捲りあげる。
ほどよく鍛え上げられた上半身が飛び込んでくる。
不安定な体勢になった松山がよろめき、壁に背をつけたまま尻餅をついた。体勢を立て直すこともできない松山に日向も腰を屈め覆いかぶさってくる。
その拍子に松山のシャツを両手に掴んだままの日向は思いっきりそれを左右にひっぱった。
びりびりとシャツが破られる。
「・・・すげ・・・バカぢから・・・」
思わず、自分が襲われているということも忘れて、松山は呟いてしまった。
綿のシャツならまだしも、Tシャツなんてこんなすぐに破れねーだろー?うー、お気に入りだったのに・・・。
そんなことを考えている間にも、どんどん自分の体からは服が取り除かれていってしまう。
ひっぱり下ろされたズボンは、穿いていたサンダルごと足を抜かれ、右足の先にかろうじて布地が引っ掛かっている状態だ。
人目にはつかない場所かもしれないが、外で、しかも橋の上にはいまも自動車が何台も通過していっている。
すっかり白いブリーフ一枚の姿を、野外で日向の目の前に曝している自分がいる。
松山は唇を噛んだ。
夜風が露になった肌の上を撫でる。冷たいそれにぞくりと身を震わした。
暗闇の中にぼうっと浮き上がる、松山の白い肌に日向はごくりと唾を飲み込んだ。
そして何かに突き動かされるように自分も身にまとった上着を脱ぎ捨て、ズボンを下着ごと膝まで下げた。
もはや、ここが外だとか日向の頭の中には一切なかった。とにかく松山の肌に触りたい、自分の思う様にしたい、ただそれだけだった。
既に日向の股間のモノは天をむいてそそりたっていた。
日向はギンギンに昂った固まりを松山の下着の上から押しあてる。
「やっ!!」
松山は顔を背けながら声をあげた。そんな態度に更に日向は息を荒くしながら先へ進む。
そして日向は松山の肌に密着している下着をゆっくり脱がした。
「や、やめろよ」
言ってるわりに松山の体は既に抵抗はしていない。実の所、松山は自分の置かれたあまりの状況に抵抗の仕方を忘れてしまっていた。
日向まで裸になるなんて。何考えてるんだコイツ―――。
ついに松山と日向は、暗い橋の下で肌を密着した。
松山の股間も、もろ見えだ。松山のそれは、まだなんの反応も示していなかった。
「日向、な、何考えてるんだよ!!」
いつになく松山ははおびえた様子で聞いた。
日向はそれに行動で応える。松山の足の先からじょじょに松山自身へと舌を這わせていく。
わざとぴちゃぴちゃと音をさせながら、日向の舌は松山の肌の上を丹念に舐めていく。くすぐったさが次第に甘い疼きに変わっていくのに、松山の吐く息もだんだん切ないものへ変化していった。
太股の内側のやわらかいところは、力強く吸われる。日向の固めの髪の毛が股間に擦れ、だんだんと松山は快感の波に身を攫われそうになってくる。
シチュエーションがいかにせよ、普段と微妙に違う日向にせよ、己の体は日向の愛撫に慣れてしまっている。今も日向が松山に施す愛撫は、いつもと変わらずに着実に松山を追い詰めていくものだった。
「はぁ・・ん、はぁ、や、 やめろって!!」
日向の舌はついに松山の股間へ到達した。
半勃ちになっているそれを、日向は躊躇いなく口に含んだ。
ちゅく、と吸い込む。
生々しい刺激の為か、松山の腰が引かれるが、しっかりと押さえ込み更に続ける。
だんだんと日向の口の中で松山のものは固く勃起してくる。
剥きでた皮の先からのぞいた亀頭の割れ目をぞろりと舌でなぞる。
「やぁっ、日向っ!」
更に喉の奥まで銜え刺激すると先端からは蜜が溢れてくる。
「ゃ、い、いやっ、い、は ぁ、はぁ、ん―――」
既に自由になっていた両手で、松山は日向の頭をよけようと必死に押している。それでもどく気配のない日向の髪をしっかりと掴んだ。
日向の頭が上下に揺れるのに合わせて、掴んだ腕がびくびくと震える。
「んっんっ―――あっ!」
くちゅ、くちゅ、 日向の舌には濃い精液が絡み付いた。日向は嘗めるのやめた。
「はぁ、はぁ、もういいだろ?うちに帰ろう」
「まだまだ、これからおもしろいとこじゃねえか」
「いったい何だよ・・・もう、俺こんなの・・・やだよ」
「ほんとの強姦魔はこんなに優しくねえんだぞ」
「何いって―――、日向、お前もしかしてわざとやってる?」
「ほら、まだまだ終わってねえよ」
日向は松山の腰をつかみ体をひねってよつんばいにさせると、上からのしかかった。
そして、松山のふくらみのない胸をおもいっきり揉んだ。
「あっ、い、いやっ、いたっ、んっ」
日向は揉みながら指先を左右の胸を飾る木の実に這わした。
すぐにつんと立ち上がり主張しはじめた松山の乳首を、人差し指でボタンのようにクリクリと動かした。
「い、やだっ、あ、あぁぁ、やめっ」
「これが好きなんだろ、松山は」
松山は眉を寄せ、目を閉じながら泣きそうな顔をしている。弱い場所は数あれど、松山は乳首を攻められるのにかなり弱いのだ。
日向は下に体をずらすと松山の両足を広げ、尻の谷間をゆっくりなめ上げた。
その微妙な感覚にきゅっとすぼめる松山のしりたぶに軽く噛み付く。いつ見ても、松山の白い尻は桃のようで妙に食らい付きたくなるのだ。実際に噛み付いたのは初めてだった。
尻を左右にぐっと開くと、菊のつぼみに舌を尖らせぐっと差し入れた。
松山が耐えきれずのけぞる。
「あっ!」
少し尻を振りながら逃げようとするのを、腰を掴んで自分の方へ引き寄せる。
日向は右手を松山のぐちょぐちょに水滴を溢れさせた股間にまわした。
抑えこみながら右手を松山自身の先端に擦り付けるようにし、自分の指先を濡らしてから後ろのつぼみへ円をえがくように差し込む。
ひねるようにまわすように 指を後ろに入れてしまうと、そのまま松山の赤く色付いた蕾みを激しく突いた。
「ひっ、いたっ、もっやっ、あっ、やあぁんっ!」
次第に指を一本からニ本へと増やして更にさしこみ、慣らしていく。
ぐちぐちという音があたりに響く。
虫の声もいつのまにか聞こえない。松山の耳には、日向によって攻められる己の体から出ている音と、日向の熱い荒い息遣い、抑えようのない自分の掠れた甘い声がぐるぐるになって入ってくる。
ふとした拍子に頭上を車の走り抜ける音が耳に入るが、もうそんなことは構っていられなかった。
きっと自分の声は、あたり中に響いているに違いないとわかっていても、声をとめることはできない。
そんな松山の悶える声に、日向は煽られるようにさらに指を激しく出し入れする。
日向は松山を仰向けにすると、自分の昂りを松山の太股に擦り付けるようにしながら、指での責めを続けた。
松山は無意識に両足をしっかり日向の体に巻き付け、必死に体を走る震えに耐えようとしていた。
指だけで、こんな気分にさせられるのは初めての松山だった。前を全然弄られていないのに、強制的に射精を促すような快感に、知らず恐怖感がわく。このままされたら一体自分はどうなってしまうのだろう―――。
「ひぃ、ひぁぁ! はぁぅ! ひぃっ!ひぃ!いやぁぁ! も、もういいよ!」
必死の松山の声に、日向は言われたどおりやめてやった。
日向もこんなに乱れた様子の松山の姿をしげしげと眺めた。絡んだままの松山の足は細かい痙攣で震えている。
そんな松山の屹立からは先走りの液が たれて、指を引き抜いた蕾の周りまで湿らせている。
「ハァ、ハァ」
松山は言葉を失っていた。実際、こんな状態でやめられてしまっては松山も困ってしまう。しかし、あまりの激しさにどうすることもできなくて、気付けば大きく叫んでいた。
でも昂ってしまった体は、日向を求めていて。涙に潤んだ松山の目が、訴える。
「どうする?」
「ど・・・どうって」
「やめて帰るか?」
「そ・・・そんなことっ、おまえ・・・できないくせにっ」
「いや、今日のオマエすげえ色っぽいから、あとは手で抜けば―――」
「えっ・・・・」
「なーんてな、できるわけねえだろ、こんなスゲエの前にして」
「あんっ」
日向はもう一度しっかりと松山を抱きかかえるようにして、その足を大きく開いた。
再び、先ほどの指の刺激にまだ収縮をくり返している蕾に指を差し入れる。既に柔らかくなったそこは、なんの抵抗もなく日向の指を受け入れる。
「んんっ」
「もっとイイもの入れてやるよ」
日向は2本の指を大きく開きながら、間に己の肉棒をあてがい引き抜くと同時に押し込んだ。
日向の極限にまで昂ったモノが奥まで一気に挿入される。
「やだっ!」
このごに及んで体の欲するものとは逆に、松山は否定の言葉をなげて逃げようと体をひねった。
しかし、日向はそれを許さない。常に日向を惹き付けて止まない、スポーツ選手にあるまじきほっそりとしたウエストを両手で抑えこんだ。
日向は松山に埋め込んだものを、くびれのところまでいったん引き抜き止めてから 再度腰をまわしながら押し込む。
つながったまま、きつい輪ゴムのような感触をしばらく味わった。 初めての時は、射精がきつ過ぎて出来ないくらいの締め付けだった。
ズプッ、そしておもいきりピストン運動をはじめる。
「あっ!あっ!あ っ!あっ!ひぃぃ、いやぁぁん! あん!あん!あぁぁ!あぁぁぁぁ! 」
激しいピストン運動と共に松山の上半身が大きく上下に揺れる。
「いいぜ、松山、おまえの中」
「あっ、あっ、あ、あっついっ、ひゅうが、あっ、ああんっ」
襞を擦られる愉悦が、松山をこのうえなく乱れさせる。
気付けば、松山は自ら腰を振り立てて肉を穿たれる喜びを貪っていた。
「・・・んっ・・・ひゅう・・・がっ・・すごっ・・・」
「すげえのはお前だ、松山」
「あっ・・・中が溶けちまうっ・・・・!」
松山の内部でざわめく肉襞が、日向の灼熱に絡み付いて離れようとはしない。
その中で日向は強引に抜き差しを重ねるのだ。二人を深い陶酔へと誘っていく。
「あっ、ああっ」
静かな夜だ。さっきまで止んでいた虫の声がまたりんりんと涼やかな音を響かせている。
夜の川辺に漂うのは、松山の喘ぎと熱い吐息、絶えまなく跳ねる水音だ。
日向は小刻みにひくつく松山の蕾に、下半身を打ち付ける。
「くぅっ!」
松山の腸内の締め付けが、日向の熱い鉄棒に電気を走らせる。
「!!!」
日向は絶頂を越えた。松山の奥めがけて精液を放出した。
最後の日向のひと突きでその固い先端が、松山の快楽の源を強く摩擦した。そして、熱い塊以外の何かが松山の体内を遡っていく。
ひくひくと痙攣する腸内に、熱い体液が止めどもなく浴びせかけられる。
「ああ、あああ―――っ」
松山もつづけて白濁の体液をほとばしらせた。
「あっ・・・ふ」
ようやく全てを吐き出した松山は、薄い肩を波打たせて絶頂の余韻に浸ろうとした。
しかし、それを味わう時間を日向は与えなかった。
「うあっ・・・あ?」
松山の全身の震えが収まりかけたのを見計らったように日向は、ゆるゆると埋めたままのそこを動かしはじめる。
「まだ続きできるよな、中、すげえ食い付いているし」
「ん・・・っ・・」
松山の絶頂の余韻の締め付けは、日向を再び勃起させるには十分のものだった。
日向は体を折ると、松山に軽く口付けをする。
先ほどとはうって変わった優しいキスに、松山も気付いたようだ。
「・・・ゴーカンごっこは、もうやめたのかよ」
「わかってたのか?」
「わからいでか。ちくしょう、めちゃくちゃやりやがって」
「怯える松山なかなかよかったぜ?」
「ふざけんな!!お前の破いたTシャツ高かったんだぞ!弁償しろ!!」
「いくら?」
「2万」
「え?Tシャツだぞ?」
「だってエイプのなんだぜ、それくらいすんだよバカ」
「わかった。買ってやるからもう少し頑張れよ」
「あっ・・・あっ、動くなっ!」
淫らにひくつく松山の蕾は、有無を言わせない力で日向に乱暴にかき回される。
既に摩擦の気持よさを感じおえている中は、すぐに快感を拾っていき、松山を愉悦の波に誘う。
根元まで収まっていた日向の塊が、ずるりと半ばまで引きずり出される。過敏な松山の粘膜は、日向の放ったもので中を満たしているために濡れた摩擦感にきゅうっと一気に狭まった。
「松山・・・ほんとオマエすげえ・・・俺、たまんねえよ」
「うるさ・・・っ、も、だまって・・やれっ」
日向は松山の耳もとに口を寄せると、低い声で甘く囁いた。
単にそれだけのことなのに、松山の中心はどうしようもなく昂ってしまう。かあっと頬が朱に染まる。悟られたくなくて、わざと怒ったような口をきく。
それがわかっている日向は、わざと言葉にだして更に追い討ちをかける。
「だって松山が俺をこんな風にさせるんだぜ?自業自得だ。今度は優しくしてやるよ」
ちょうど、指先を埋め込まれた時に嬲られる松山の弱点を、日向が自身の張りだした部分でぐりぐりと擦る。
そうされると松山の内部の蠕動は止まらなくなってしまう。
松山の背筋が淫らにうねる。その痴態が松山の限界を正確に表現していた。
日向はゆっくりと動きを再開した。
「ひっ・・・ああ、ああっ、ああ」
引き抜かれ、突き上げられる。それだけの単調な動きなのに、松山は自分の中にある何もかも抜かれていくように感じた。
自ら締め付けてしまっている、日向自身に張り付いてしまっているような襞ごと強引に引き抜かれ、また突っ込まれる。
大きな太いものを突っ込まれる衝撃は、内臓まで押し上げるようだ。なのに快感を感じている。カラダがいろんな感覚でいっぱいになって、処理しきれない程飽和する。
日向は自分が日向を誘っているという。自業自得だという。
しかし、自分がこんなに乱れるのは日向にされているからだということを、日向はわかっているのだろうか。
絶頂を迎えながら松山は千々になる意識の片隅で、そう思った。
暫く二人して、仰向けに横たわっていた。
固いコンクリートがざらざらと肌に触る。けっして気持のいいものではなかったけれど、疲れたカラダはすぐに動かせそうもない。
「・・・ほんとにココでゴーカンとかされてる子いるかもしんねえな」
「なんだよ、ほんの冗談じゃねえか」
「イヤ、まじお前恐かった―――シャレになんねーよ」
「すまん・・・。でも俺オマエ帰ってこなくて心配してたんだぜ、テレビでそーゆーのやってて」
「なんで心配してたヤツが、こんなことしてんだよ全くよー・・・くしゅんっ」
松山のくしゃみに、慌てたように日向は体を起こした。
そして、松山の服を引き寄せると、せっせと松山に着させる。
「ほー。きょーびのゴーカンマは服まで着せてくれるのかよ」
「もう・・・いいじゃねえか。ほれ、足あげろ」
「なあ、日向。俺・・・こんなことすんのお前だけだかんな」
突然の松山の言葉に日向の手が止まる。
松山の顔を覗き込むと、その目はまっすぐ天井をみつめたままだった。
「こんなん・・・喘いで・・・、いっちまうのだって、日向だから―――」
「わかってる、わかってるよ松山」
日向はちくりと自分の心が痛むのを感じた。そんなことわかっているのに、わざわざ口にだしていうなんて、松山にとっては冗談も重かったのだろうか。やはり今日の事はやり過ぎたかもしれない。
改めて言われるまでもなく、松山があんなに乱れたのは自分のせいだということは、イヤになるくらいわかっている日向だった。そうして、松山のそんな姿にできるのは自分だけなんだ。他の人間には絶対に触らせない。
万感の思いを込めて、松山の体を抱き締めた。
俺だって松山だから―――。いや、いまは言わないでおこう。きっと松山だってわかってるはず。
松山の腕も日向の背に回される。
本当はこうやっているだけでいいのに、どうしてこうも流されてしまうのか、日向はつくづく男という動物の耐性のなさに溜め息を零した。
「月見うどん」
「へ?」
「月見うどん食いたくねえ?腹減ったな」
松山が唐突に口を開いた。
もぞもぞと日向の腕の中から這い出すと、そそくさと残りの服を身に付けた。放り投げられていた、サンダルをはきすっかり身支度を整えた。
日向も立ち上がり、服についてた砂を払う。
橋の下から出て空を見上げると、満月はかなり西に傾いていた。
「ちぇ、さんざんな月見になっちまったな。日向呼ばなきゃよかったぜ」
「そー言うなって。月見うどん奢るから」
「このカッコのままいけるわけねーだろ。うち帰っておまえが作るんだよ」
「うえー、面倒くせえー」
「俺が風呂入ってる間にやれ」
「風呂は一緒に入ろうぜ〜松山〜〜〜」
「うるさい!黙れ!今度こそ早く帰るぞ、ほれ」
そう言いながらも、松山は日向の手をとるとぐいぐいと引っ張り先に行く。
繋いだ手の暖かさに、日向は微笑みながらその背中を追った。
終わり