若林君の特権
久し振りに帰国して参加した全日本合宿。
普段日本で活躍してるヤツらとの交流もさほど無い俺は以前のチームメイトくらいしか知った顔は無く、
それでも個性派揃いのアクの強い集まりの中でそれなりに自分の位置を確立し、仲間と言う意識も芽生
え始めて来た頃だったか。
その日も日程を全て終え、就寝時間までの僅かな時間を部屋で過ごしていた俺は喉が乾いてきたのでロ
ビーあった自販機へ向かった。
この合宿が始まった日の夜、自分の分と一緒に俺に缶コーヒーを買って来てくれた時に思わず缶コーヒ
ーは苦手だ、なんて言っちまってイヤな思いさせたにも拘らず、
「若林って案外子供なんだな〜」
なんてケタケタ笑って自分の買ってきた激甘のミルクティーと交換してくれたヤツの顔を思い出す。
後日、コーヒーは好きなのだが缶モノが苦手だと言う事を知られた時も贅沢だと嫌味に取られるかと思
ったが、
「今度若林が入れたコーヒー、飲ませてくれよな。」
とにっこり笑って答えたヤツ。
今回同室のヤツ―――松山光はそんなヤツだった。
初対面では無いが、松山という人間と触れ合う機会が少なかった事を少し後悔した。
その日以来普段無口な方の俺も僅かに過ごす部屋での時間、いつに無くお喋りになったものだ。
自分の物と松山の分を手に戻ると先程まで部屋に居なかった松山が帰って来ていた。
「どっか行ってたのか?ホラ。」
上気した頬が外に行ってた事を窺わせる。
「おっ、サンキュ!ああ、ちょっと新田達に呼ばれてな、自主練付き合ってた。うわ〜あったけぇ〜〜」
投げたミルクティーを受け取ると少し熱めの缶を持ち替えては手の中の温もりを楽しむ松山。相変わら
ず後輩にも人気があるヤツだ。
「急に寒くなってきたからな。自主練も良いが程ほどにしないと風邪引くぞ。」
「ご心配どうも。でも北海道はもっと寒いんだぜ?これくらい―――っ、しゅんっ;;」
言った端から大きなくしゃみをして鼻水をすすり上げる姿を見て思わず吹き出してしまう。
「―――笑うなよ。」
「悪い悪い。冷めないうちにそれ飲めよ。温まるぞ。」
まだ開いてない缶を手の中に握り締めていた松山がじっと俺を見てくる。―――怒ったか?
しばらく様子を伺ってるとベッドの上に腰掛けたまま動かなかった松山は手の中にあった缶を布団の上に
転がし、ちょいちょいと手招きをする。
「ちょい、そこに立って?」
椅子に座ってた俺は松山の促すまま松山の前まで行く。
「何だ―――ってオイ?」
「やっぱあったけぇ〜〜っ」
俺が松山の前に立つと間髪入れずにぎゅぅ〜〜〜っと抱きついてきた。
脇の下から肩に手を回し、胸にすりすりと顔を擦り寄せて来る松山の姿はまるで甘える子猫のようだが
―――対応に困るじゃないか。
「何かさ、若林って前から暖かそうだな〜って思ってたんだよな。思った通りだ。」
嬉しそうに笑っては心地よさそうに感触を楽しんでいる。
「俺は暖房器具かよ。」
「ん〜抱き心地も良いから寒い時に一緒に寝るとお得かも…ホット抱き枕?」
「なんだよ、ソレ…」
「新商品。っつか、欲しいかも俺。」
そう言えば松山は上布団を丸めて抱いて寝るクセがあるらしい。夜中に目覚めた時に何度か見た事がある。
それにしても同室になって気付いたんだが、松山はたまに突拍子もない事を言ったり、したりするヤツで。
それはそれで面白くもあるのだが、どう対処して良いのか困る事もある。本人は意図せずやってるような
ので相手の反応など気にもしていないようだが、受ける相手としてはいろんな意味で心の準備が必要な時
があるって事も絶対気付いて無いだろう。
そんな事があった数日後、朝方目が覚め、時計に目をやると4時―――まだ少し寝れるな、と寝返りを打
つと背中の方からパタンとドアの閉まる音。ああ、松山がトイレにでも行ったのか、と再び眠りに落ちる
意識の端でそう思い、そのまま深い眠りに入るつもりだったのだが。
しっかりと被っていたはずの上布団が背中の方から僅かに冷たい空気が入ってきたかと思ったら何かがも
ぞもぞと動く気配。
そしてソレは何かを探るように俺の背中を触り、脇の下から腕らしき物が延びてきたかと思ったらぴった
りと肌を寄せ、スースーと規則正しい寝息が聞こえ始める。
―――松山、らしい。
どうやらトイレに行って寝惚けたのか、間違えて俺のベッドに潜り込んできたらしいが、それにしたって
気付くだろう、普通。それともこの前言ってた様にホット抱き枕の夢でも見てるのか…
起こそうと思ったが、完全に俺を布団と勘違いしてるのか、しっかり抱きついたまま離れず気持ち良さそ
うな寝息が聞こえてくるので、起こすのも可哀想かとそのまま寝ようとしたんだが―――眠れないじゃな
いか…
それでもこのまま眠れないままでいると今日の練習に差し支えるので、起こさないように松山の腕を少し
自分から離すとそのまま向きを変え、松山と向かい合う格好になる。そして再び腰に腕を回させ、俺も松
山の体に手を回し引き寄せる。ふむ、思った通り抱き心地満点だな。
ふわっと髪の毛からのシャンプーの匂いに鼻を擽られ、この態勢になった事を少し後悔したが、痺れると
可哀想かと俺の下になっていた右腕をそっと引き抜き、二人の間で握っているとその体温に少しづつ眠気
が戻り始め、規則正しい寝息と伝わってくる心臓の音に何時の間にか俺もウトウトと心地良い眠りに誘わ
れていった。
明日香さまより、ほんわかあったか源松こばなしをいただいてしまいましたvvv
源松祭り万歳!
ということで、主催のシマダさんに挿し絵をお願いしてしまいました!
明日香さん、勝手に御免なさい〜〜〜!!でも、シマダさんに描いて頂けて更にラブラブに!むふ〜〜〜vvv
ほんとに明日香さんの書かれるおはなしは、いつもあったかくてほんわかした気持ちにさせてくれるんですよね!大好き!癒されるわ〜。
後輩にモテモテまっつんと、若林君!もう、たまらんです!!!
ほんで、私も源様になって、松山君の枕になってあげたい・・・。←本気
シマダさんにも突然お願いしてしまって申し訳なかったです〜。わたしが見たかったの・・・。
もう大満足です!お二人とも、ありがとうございました!!!