サンタさんへの贈り物

 
 


                       

 街にはジングルベルが終わる事無く流れている。
 そして、道行く人々はカップルやら、家族連れやら。その顔はこの寒さの中でも概ね幸せそうな笑顔だ。
 24日クリスマスイブ。
 午後5時も過ぎ、この街の商店街にもイルミネーションが点滅しはじめる。

 ・・・はやく帰りたい。
 
 真っ赤なサンタの衣装に身を包み、駅前でケーキ売りに立っていた日向小次郎は、機械的にとめどなく訪れるお客に大きなケーキの箱を手渡していた。
 そのケーキを囲んで、暖かい家でパーティでもするのだろう。
 予約分のケーキの引き取りも殆ど残り少なくなり、彼の目の前を通り過ぎていく人数も減ってきた。
 母親の制止もきかず、小さな手で、ケーキの箱を得意げに掲げて歩いていく小さな子に、日向は常に彼の頭の中を支配する、最愛のひかるくんの姿を重ねていた。
 
 ああ。・・・帰って早く・・・ひかるくんで・・・したい。
 
 ひかるくんは、日向の家の近所に住む少年だ。
 つやつやと輝くさらさらの黒髪に縁取られた、かわいい顔には、漆黒のきらきらした大きな瞳と、さくらんぼのような真っ赤に染まった小さなかわいい唇。
 なんといっても真っ白な肌はつるつるでやわらかそうで・・・・・。
 あの小さな手で・・・おくちで・・・・・・。ああ!!
 
 思わず、妄想モードにはいり、フリーズしていた日向は、怒鳴り声ではっと我に帰った。

「ほら、バイト!!!ぼけっとつったってんじゃねえよ!!店から残りの箱持ってこい!!」
「あっ、す、すいません・・・」

 すごすごと頭を下げながら、洋菓子店の倉庫からクリスマスケーキを運んでくる。
 彼女、なんてものは生まれてからこの方一度も存在しない。
 そのうえ実家から上京し、大学に通うため一人暮らしをしている身としては、クリスマスなんてものは単にいつもより時給のいいバイト日和にしか過ぎないのだ。
 もくもくと路上に即席でつくられたカウンターのうえに、箱を並べる。
 隣では、元気な女子高生バイトが大きな声をはりあげて、ケーキを売る。
 
 ・・・ひかるくん、今頃なにをしてるんだろうか・・・・・・。

 日向の赤いサンタ帽が、ぴゅうっと北風にたなびいた。







「さあ、みんな明日からはふゆやすみです。今日はこれまで覚えたお歌をもう一度歌ってさようならしましょう」
「はぁ〜〜〜〜〜いっ」

 大きな声で、園児達がクリスマスソングを歌う。
 冬休みを前にした、最後の日、クリスマス会が行われていた。
 色とりどりの飾り付けをされた教室に、こどもたちの声が響く。
 すると園長先生が大きな白い袋をもって、やってきた。
 そして、駆け寄った園児達にお菓子のはいった可愛い小袋を配ってくれる。

「みなさん。これはせんせいからのクリスマスプレゼントです。でも本当にプレゼントをもってきてくれるのは誰かな?」
「サンタさぁ〜んでぇ〜す!!」
「そうですね。このいちねんかん、よいこにしていたお友達のところには、サンタクロースのおじさんがプレゼントをもってきてくれる事になっています。みんなは大丈夫かな」
「はぁ〜い!!」
「それでは、らいねんまた会いましょう!ふゆやすみ、気をつけて過ごして下さいね」
「はぁ〜〜〜〜いっ!!」

 バタバタと園児達が、お迎えにくる母親のまつ外へと駆け出していく中、まつやまひかるくんは園長先生に貰ったお菓子の袋をじっとみつめていた。
 みさき先生が側に寄り、ひかるくんの目線の高さに屈むと手をとって問いかけた。

「ひかるくん?どうしたのかな?」
「んとね・・・せんせい。あのね?」
「うん?」
「サンタさんはだれにプレゼントもらえるの?」
「え?」
「サンタさん、いっしょうけんめいぼくたちにくばってくれるでしょ?でもサンタさんには誰がプレゼントとどけてくれるのかなぁ・・・・って」
「サンタさんは、ひかるくんたちがいつも元気でよいこにしていてくれることが、プレゼントなんだよ」
「でも・・・・。それじゃあサンタさんかわいそうだよ・・・」

 ひかるくんは真剣にそう思っているのか、うつむいて困った顔をする。
 みさき先生はこんなひかるくんの素直なところが大好きだった。
 思わずぎゅうと抱き締める。
 もう、かわいいなあ。

「じゃあひかるくんはサンタさんにどうしたいのかな?」
「うんとね、サンタさんにも欲しいものをあげたいの」
「そうかぁ」
「せんせい、どうすればいいかなぁ?」

 先生はくすっと、笑うと考えた。
 どうせひかるくんにプレゼントをくれるサンタさんは、ひかるくんのパパなのだ。
 素直なひかるくんと、パパも喜んでくれるいい方法。

「サンタさんに、ありがとう、ってお手紙かいておこうよ。もしもひかるくんが起きてる時に、サンタさんが来てくれたら、ほっぺにちゅーしてあげると喜ぶと思うよ?」

 松山家の父親は息子を溺愛していて、毎晩おやすみのちゅーさせていると母親が笑いながら言っていたのを思い出したのだ。

 
「サンタさんはちゅーが欲しいの?」
「そうだね。サンタさんはひかるくんみたいな、素直なこどもが大好きなんだよ。だからとっても喜んでくれるはずだよ」
「そうかぁ!じゃあ、ひかる、お手紙かいて、ちゅーしてあげるんだっ♪みさきせんせい、ありがとう〜〜!!」
「じゃあ、ママが待ってるから、せんせいと門までいこうね」
「うんっ」

 ひかるくんは、ようやく納得できたのか、にこにこと笑いながら、帰り支度を始めるのだった。
 

 
 
 


 夜11時半。
 洋菓子店でのケーキ売り自体は7
時に終了し、店主に頼まれた追加バイトをようやく終えた日向が軽い足取りでアパートへの道を歩いていた。
 
サンタの衣装でのお得意さまへの配達。
 最近は遅い時間に夕食をとる家庭も多いようで、指定された時間が9時だったりした為だ。
 店頭でケーキ売りをしていたときは、あんなに暗かった日向が今はすっかりニヤケ顔である。
 この男がこんな顔をするのは、ひかるくん関連である・・・・。 

そう、数時間前、配達先にはひかるくんの家も入っていたのだ。 
 日向が松山家の前にスクーターを停めると、玄関横に廻ったところに面したひかるくんの部屋(既にチェック済み;;)のカーテンが少しあいているのが見えた。
 思わず、そこから漏れるあたたかな灯りに誘われ、今日なら玄関先から堂々と訪れることができるのに、そうっと窓を覗き込んでしまう日向だった。


 
 

ああ!!!!ひかるくんっ!!!!

 思わず叫びそうになる口元を慌てて押さえる。
 部屋の中では、ひかるくんがアイボと遊んでいた。
 半ズボンからのぞく、まっしろな太ももが今日も美味しそうだ。そしてぺたんとあひる座りしているその姿の、なんと愛らしい事か。
 アイボに「おすわり〜!」と命令している真っ赤な唇の動きだけですら、日向にはなにやらエロチックに見えるのだ。
 この男、ほとほと病気である。

 く〜〜〜〜〜ぅっ!!なんて可愛いんだ・・・・・。

 一瞬後、ひかるくんがじっとこちらを見つめる瞳と目があってしまった。

 や、やばい!!!ば、ばれたか?

 ひかるくんは、大きな瞳をくりくりさせて近寄ってきた。
 逃げなければ!!と日向は頭の中では思いながらも、身体は言う事をきかず、そこに張り付けられたように固まってしまった。
 
 うわぁ〜〜〜〜!!!ど、どうしよう〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 ひかるくんは、窓をそうっと開けると小首をかしげながら、しげしげと日向を見つめた。

「サンタ・・・さん?」
「そ・・・そ、そうだよ」

 日向は声を上擦らせながらも、とりあえず答える。
 
「サンタさんはきょうのよる来るんじゃなかったの?ぼく、おきて待ってるつもりだったのに」
「いや、いまは下見にきたんだよ。よるになったらプレゼントもってまたくるんだよ」
「そうなのかぁ〜」
「はははははははは」

 ひかるくんに合わせて、日向も咄嗟に嘘を並べる。
 でもひかるくん、サンタクロース信じてるのか?もう、可愛いぜっ!!!!
 ニコニコと日向サンタさんを見つめ続けるひかるくんの視線に、すっかり舞い上がっている日向だった。

「ひかる〜〜〜〜?」
「あ、ママ!!あのね!!」

 自分を呼ぶ声に、ぱたぱたと部屋を出て、廊下を走っていくひかるくん。
 ひかるくんと母親の声が近付いてくるのに、ようやく我に帰った日向が慌ててケーキの箱をスクーターにとりに戻り、窓際にそれを置くと、逃げるように松山家を後にした。
 
「ママ!!いま、サンタさんがきてたの」
「え?サンタ?そういえばケーキ屋さん遅いわねえ・・・。あら、やだ。なんでこんなところに置いてあるのかしら!!もうっ、ひどいわねえ。最近のバイトは〜。」
「あれ?サンタさんもう帰っちゃったのかなぁ。ここにきてたのに・・・・」
「大丈夫よ。ちゃんとしたサンタさんが、ひかるにプレゼントもってきてくれるからね」

 

 
 

 
 このあたりは住宅街で、街路灯が数メートルおきに点灯しているだけだ。
 すっかり夜も更けたこの時間。灯りがついている家も少ない。
 でも、日向の心は明るかった。
 ふふふふふふふふふふ!!今日もひかるくんに会えたし!!!!(覗いたくせに)お話までしちゃったし!!!!(もう少しでみつかりそうだったくせに)
 うちに帰ったらやっぱり・・・・・しよっと。やっぱりひかるくんは目と口が特にいいよなぁ・・・・!!
 数時間前の出来事を反芻する。

『ねないでまってようと思ったのに』

 すっかりひかるくんの容姿に妄想を走らせていた日向だったが、問いかけられた一言を思い出した。
 ・・・・もう、寝たかな?ひかるくん・・・・。
 ・・・・・・・いってみようか?
 気付けば、足はひかるくんの家に向かっていた。



 なんとなく、紙袋に放り込んであった、明日も着る予定のサンタ衣装に路地の影で着替える日向だった。
 やっぱりフツーに覗いたらヤバいし。サンタだったら今日なら許されるかも。
 サンタの衣装の方が更に目立つ、ということに気付かない日向である。しかもこれからやろうとしていることは、犯罪であるということに、恋する男は気付いていないらしかった。
 松山家に近付くと、既に2階の両親の部屋も灯りが落ちているようだった。
 そうっとひかるくんの部屋の前に廻ると、驚いた事に、窓が少し開いていた。
 流石に、いけない、とは思いつつ、好奇心に勝てず日向はその窓を静かに開け、中を覗き込んだ。
 すうすうという寝息を立てるひかるくんの枕元には、松山家のサンタさんはもう来た後らしく、リボンのかけられた大きな箱が置いてあった。
 薄暗がりの中では、あまりひかるくんの表情も見えない。ふとんが上下するのが微かに見てとれるだけだ。
 流石に、この窓を跨いで中に入る、という勇気は日向にはなかったので、かわいい寝息がきけたことだけでも満足して、その場所を離れることにした。
 その背中に、小さな声がかけられ、びくっと日向は立ち止まった。

「・・・・さん・・たさん?」

 恐る恐る振り向くと、ひかるくんが、とろんとした目を一生懸命擦りながら、ベッドを降りてくるところだった。
 
「・・・あ!ぷれぜんと・・・。サンタさんがもってきてくれたんだね!!」

 枕元に置かれた包みに気付いたひかるくんが、うれしそうに窓辺に近付いてくる。
 仕方が無いので、日向はこくこくと頭を振った。
 ひかるくんは、窓辺にくると日向を見上げた。
 真黒な瞳に自分が映っているのが見える。日向は思わずごくり、と唾を飲み込んだ。
 パジャマ姿のひかるくんは、すっかりサンタさんに会えて御機嫌だ。
 満面の笑みで日向の服に手をかける。

「あっ、これじゃとどかないや・・・・うんと・・・・」
 
 ひかるくんの小さな手が、日向の腕を引っ張る。どうやら屈んで欲しいようだ。
 びっくりしつつも、身体を屈めると、ひかるくんの目線と同じ高さになった。
 今までで最至近距離にあるひかるくんの顔と、ひかるくんの手が、自分を掴んでいると言う事に、日向の心臓はばくばくいっていた。
 
 うわ〜うわ〜うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!ひかるくん、ど、どうしたんだ〜〜〜〜〜!!うれしいけど・・・・。

 パニックになりながらも、興奮していた日向の顔に更に、ひかるくんの両手が添えられた。
 夜空の下にいたため、冷えきった日向の両頬に、ちいさなやわからい手から暖かい熱が伝わってくる。
 
 やばい、やばいよ、ひかるくんっ!!!!お、おれ・・・・・・すげえ勃っちゃってるしぃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
いっちまいそう〜〜〜〜〜〜〜〜!!!

 心無しか、鼻息も荒くなっている日向だったが、ひかるくんはそれには気付かないのか、どぎまぎしている日向の頬にかわいい顔を寄せ・・・・・・。

「ちゅっ」

 日向の憧れて止まない、小さな唇が、左頬に触れた。
 ひかるくんは、更にもう一度日向の頬にキスをする。

「サンタさん、プレゼントどうもありがとう。僕からのプレゼントだよ。これでいい?」

 自分の身にナニがおきたのか信じられない日向は、ただ、ひかるくんの言葉に、何度も頷いた。
 その姿に満足したように、ひかるくんは微笑む。

「じゃあ、サンタさん、また来年もきてね。おやすみなさい・・・・」

 やっぱり眠かったのだろう。ぽてぽてとベッドに戻り、布団に潜り込むと、日向に可愛い笑顔をひとつみせると、すっと目蓋を閉じた。
 すぐに、可愛い寝息が聞こえはじめた。

 日向は、すっかり放心状態だった。
 興奮も上限までいってしまったらしく、鼻血がだらだらと落ちている。
 下の方も・・・・・いってしまったらしい。
 それでも口元には笑いが浮かんでいた。
 
 メリークリスマス!俺!!
 ひかるくん、ありがとう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜::

 心の中で大声で叫ぶと、日向は全速力でアパートに帰るのだった。
 勿論、続きをするためである。
 きっといつも以上に幸せな世界に浸れる事だろう。
 幸い、途中、人には会わなかったようだ。本当ならば、彼にとってコレが一番のクリスマスプレゼントであろう。
 前科者にならないで済んだことが・・・。
 
 クリスマス。信じる者は救われる・・・・らしい。

 


 

オワリ



 


 いや〜〜;;
 クリスマス企画、一番に書きたかったのがこれでした;;
 スイマセン。せっかくの聖夜なのに変態ネタで・・・・。びしっ、びしっ!!(石を投げられる音)
 ああ、石が、石が痛いですぅ〜〜〜!!!

 変態日向さん。たまにはいい思いさせてあげようかと思ったのですが、変態にいい思いをさせるということは、更に変態的な行動をさせなくてはならないということに、書きはじめて気付きました!!
 ご、ごめんね・・・。
 それよりもですよ。日向さんファンの皆さん、ホントにごめんなさい〜〜〜〜!!