クリスマス
東邦サッカー部寮の一室。
そこは今、異様な熱気に包まれていた。
何人もの少年達が輪になり、トランプを必死の形相で見ている。
「じゃ、負けた者がサンタってこと?」
「そういうこと」
寮では、1月の全国大会を控え実家に帰っている暇もない寮生達の為、レクリエーションとして12月24日にクリスマスパーティを開く習慣があった。
そこで、1年生の一人がサンタの格好をし場を盛り上げるという重大な使命を負わされるのである。
今回はどうやらトランプで負けた者がサンタになるようだ。
「大体、大会を控えたこの時期にパーティもないだろうに・・・」
ぶつぶつ文句を言っているのは、松山である。
なぜここに松山がいるのか?
それは、(作者の)都合で富良野中学を卒業後、東邦高校にスカウトされたからである。
(もちろん、日向とはラブラブな松山がスカウトを断るわけもない)
「いち抜け!」
反町が最後に持っていたカードを投げ捨て、勝ち誇ったように叫んだ。
「え、もう?」
「げーマジ?」
ざわざわと周りがざわめく。
しかしそれも最初だけで、やがて時が経つにつれ次々と上がる者が出てき、気がつけば後3人を残すだけとなった。
その中のひとり、松山だけが大量のカードを持っていた。
「お前やばいぞ」
「うるせぇ日向」
横にいる日向を睨み付ける。
彼の手持ちのカードは松山よりずいぶん少ない。
松山はふくれっ面のまま、積んであるカードに手を伸ばす。
しばらくして、日向がニヤリと松山に笑いかけた。
「わりぃ、俺あがったわ」
「えっ・・・」
松山が驚く間もなく
「やった・・・・」
もう一人がほっとしたような声で上がりを告げた。
「うそっ・・・・・」
松山の手からパラリとカードが落ちる。
「松山、サンタさんに決定ね」
反町の嬉しそうな声が松山をどん底にたたき込んだ。
「松山・・・衣装持ってきたよぉ・・・ってあれ?」
クリスマスパーティの当日、反町が軽いステップを踏みつつ松山の部屋へ衣装を持ってきたが、部屋の中に松山の姿を見つけることはできなかった。
そこには同室の日向の姿しか認められなかったのである。
「日向さーん、松山は?」
部屋の中に入りつつ、松山の行方を訪ねる。
日向は苦笑しながら傍らのベッドを顎で指し示した。
反町がつられてその方向を見やると、ベッドの上の布団が人の形に盛り上がっている。
どうやら松山がすっぽり布団をかぶっているらしい。
「松山ってばっ、隠れてもムダだよーん」
「隠れてなんかないっ」
反町の言葉に松山は、がばっと起きあがり真っ赤な顔で反論してきた。
「じゃなんで?」
「頭痛が痛くて、盲腸でお腹痛くて、おまけになんか貧血で目の前がくらくらするんだ」
貧血って・・・どっからみても健康優良児にしか見えないけど・・・・。
反町は松山のいいわけがおかしい。
しかーし、ここで松山を甘やかすわけにはいかなかった。
どうしても、この衣装を着てもらわねばならないのだ。
「ふーん、松山みんなで決めた約束守らないんだね」
「約束・・・」
「決まったことなんだよ 部の規則には従うのが当然だろ」
反町がビシッと諭す。
根がまじめな松山である。
約束だの、規則だの言われるといつまでもダダをこねているわけにもいかなくなってきた。
しぶしぶ、ベッドから降り反町の前に立つ。
「はいっ、これに着替えてね」
サンタの衣装が入った紙袋を松山に手渡すと、後ろにいた日向を振り返る。
「日向さん、俺先に行ってやらなきゃいけないことがあるんで、絶対松山連れてきて下さいね」
反町は念を押すとそのまま部屋の外へ出ていった。
「ふー・・・やっぱコレ着なきゃいけねぇのか?」
心底嫌そうに日向に向かって紙袋を掲げる。
「そりゃ、やっぱ負けたから仕方ねぇだろ」
「だけど・・・」
「お前には責任感つーものがねぇのか?」
まだ、渋っている松山を日向が煽る。
「俺が無責任だとでも言いたいのか?」
「おう、いつまでもぐたぐたとぶーたれて!男ならきちんとしやがれ」
「くそぉーてめぇなんざにそこまで言われたくねぇ!やってやろうじゃないかっ」
「へんっ、口だけだろ」
「やるっ!こうなったら絶対やる!徹底してやってやる!」
怒りにぶちきれた松山が紙袋から衣装を取り出し着替え始めた。
着ていた衣服を全て脱ぎ、タンクトップとブリーフだけになると取り出した衣装を頭からかぶり、ボタンをとめる。
上着を黒いベルトで止め、次に身につけるものを探すため紙袋の中に手をつっこむ途中で松山の手がとまる。
「あれ?ズボンがねぇ・・・」
一瞬信じられないような表情を浮かべる。
あわててきょろきょろと視線を動かし、自分の格好を確認する、。
「ひょっとして・・・これ・・・女物?」
みるみる松山の頬が真っ赤に染まる。
よくよく見ると、その衣装はよくお姉ちゃんサンタが着ているミニのワンピースであった。
「うそだろ・・・」
唖然としている松山を黙って日向はじっと見つめていた。
色白の松山には赤が似合う。
艶やかな漆黒の髪が、サンタの赤い衣装にかかり。
普段は白磁を思わすような頬が羞恥のためか紅を掃いたように薄紅色にそまっている。
しかも松山の白い首筋と真っ赤な衣装との取り合わせがなんともいえないエロチシズムを醸しだしている。
ふわふわした飾りがぐるりと裾をかざる極端に短いスカート。
その下から白い滑らかな太股がときおりチラっと見える。
うつむき加減の黒目がちな大きな瞳にはすでに涙が溜まっている。
「うー なんで俺がこんな格好しなきゃいけねぇんだよぉ」
姿とは裏腹な乱暴な言葉使いがかえってそそっているのに彼は気がついているのだろうか。
「やっぱり、やだぁ」
涙に潤む瞳で上目使いに松山が日向の顔を見た瞬間・・・。
ぶちっ。
日向の頭の中でなにかがキレた。
がっしり、松山の腕を掴む。
「へっ」
驚く松山をそのままベッドに押し倒す。
「ちょっ、ちょい待て」
「待てん」
「なに考えっ・・・・んっ・・・・」
勢いに任せて深く口づける。
日向の舌が松山の唇を割って入ってくる。
「んんっ!」
抗議の声がすべて日向に吸い取られてしまう。
逃げようとする松山の舌をからめ取り、味わい尽くす。
「くっ・・・ふぁっ・・・」
存分に貪ぼり、ようやく唇を離す。
肩で息をしながら、日向を見上げる松山。
空気を求めて半開きになった唇が赤く艶やかに濡れて、なんともいえず色っぽい。
「誰にも見せたくない・・・」
日向の瞳に宿る強い欲望が松山を縛る。
松山はこの瞳で見つめられると体中が熱くなってしまう。
「・・そ・・そん・・な目で見るな・・・」
たまらくなって松山は真正面にいる日向から顔をそらした。
日向の目には、鮮やかな白い首筋が晒される。
サンタの赤い衣装と相まって眩しいくらいのコントラストである。
たまらず、その首筋へと唇をよせた。
「あ・・・」
顔を肩口に埋めながら、日向の手は上着のボタンをはずしていく。
中に着ているタンクトップをずりあげると松山の白い肌が露わになる。
弱い首筋への愛撫で、その体はすでにほんのりと桜色に上気しており日向を誘い込むようであった。
首筋から流れるように口づけを繰り返し、胸を飾る小さな突起を口に含む。
「やぁっん!」
耐えきれず、甘い声が松山の口から漏れる。
その声がかわいくて日向はさらにその敏感な部分を攻める。
「・・あっ・・・やっ・・あん・・」
絶え間ない松山の喘ぎ声が日向の劣情を煽る。
ようやく、顔をあげると松山の汗で張り付いた額の髪をかきあげ軽くそこにキスをする。
そして、スカートの下に手をやると、ブリーフを一気に引き下ろした。
「ひゃっ!」
突然下半身を外気に晒され松山の体がビクッと跳ねる。
松山のモノはすで立ち上がっており透明な滴を先端に湛えている。
日向はそれを強く握り込んだ。
「・・・あぁっん・・」
あまりの強い刺激に松山の瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。
快感に高ぶり、日向の肩に両手を回しすがりつく。
「・・はっ・・あっ・・んっ・・・」
日向の手の動きにあわせ松山が微かに腰をゆらす。
無意識に、より強く快楽を求めようとしてしているのだろう。
そんな松山が無償に愛しく、日向は手の中の松山自身にさらに激しい愛撫を重ねる。
「あぁっ・・・もう・・いっ・・イクっ・・あああっ・・」
ひときわ甘い声をあげ、松山は己の精を日向の手の中に放った。
全ての情欲を吐き出し、しばらく苦しそうに肩で息をする松山であったが、ふと急に我にかえって自分の着ている衣装をあわてて見ている。
その様子に日向が疑問を覚えた瞬間、
「うわあぁー!」
「どうした?」
先ほどまでの艶やかな様子とはうってかわって松山が突然騒ぎだす。
「服!服だよ、どうしようっ・・・・」
「服?」
みれば、松山のきているサンタの衣装が先ほど出したモノで汚れてている。
「ちょっ、マジどうしようー」
「そんなもん、後で・・・・」
日向が今度は自分自身の欲望を満たすため、再度松山に手を伸ばそうとするがその手は目標の直前で松山にはたき落とされた。
「てめぇー!もし落ちなかったどうするんだよっ!」
松山は日向の腹に一発ケリを喰らわすと、そのままベッドにおりて衣装を脱ぎ始めた。
手早く、下着、ジーンズ、トレーナーを身につけると衣装を抱えて部屋を出ていこうとする。
「お おい? どこ行くんだ?」
「洗濯っ!」
引き留めようとする日向を振り返り行き先を告げる。
「お、俺はこのままかっ!」
あんまりな仕打ちに日向は抗議の声をあげるが、松山はそんな日向を睨み付け、
「自家発電でもしてろっ・・・自業自得だ」
と、冷たい声で言い放つとそのまま部屋の外へ出ていってしまった。
バタンッ!
勢いよく閉じられた扉を未練たらしく見つめながら、日向はベッドの上でがっくり肩を落としていた自業自得だとぉっ?
あんな松山を見せられて、手を出さずにいられるわけがないではないか。
『くそー!松山!後で覚えておけっ!絶対に泣かしてやるっ!』
日向は固く心に誓いつつその後、結局自家発電にいそしむことになったのであった。
お・ま・け
一方、パーティ会場では、
「松山、遅ーい」
反町が一人やきもきしていた。
「お前、ひょっとして松山が着替えるまで一緒にいなかったのか?」
よこから若島津がひょいと顔を出した。
手にはなぜか紙袋を抱えている。
「えー?だって日向さん、連れてきてくれるって・・・」
「甘いな・・・お前さ、あの松山を目にして日向さんがおとなしくしているとでも思うのか?」
「えっ・・・まさか・・・そんな・・・・」
反町はあわてて会場を出ていこうとする。
「もう遅い・・・」
若島津の声で反町の動きが止まる
「お前が悪い・・・だから変わりにお前がコレを着ろ」
反町の手に先ほどから若島津が持っていた紙袋が押しつけられる。
「なに?」
「サンタさんの衣装だ、もちろん松山と同じタイプな」
「なっ、なんでお前がそんなもの持っているんだよぉ!」
「ゴールキーパーは常に物事の先を読むんだ」
反町の抗議の声に若島津は冷静に答えると、反町の腕をがっしり掴みそのまま部屋の外へひきづっていく。
もちろん、反町にサンタさん(おねいちゃんバージョン)の格好をさせるためである。
そして、口でも力でも若島津には勝てない反町は必死の抵抗むなしく結局、サンタさんでパーティを盛り上げるハメになったのである。