放課後

 
 


  いつもの放課後だ。
 ホームルーム終了を告げる担任教師の声が終わるのもそこそこに、俺はうきうきと椅子から立ち上がった。
 やっとこれで1日で一番楽しみな部活動の時間だぜ!俺の高校生活はサッカー一色なのだ。勉強はどっちかってーと好きな方じゃねえから、サッカーをやりに学校にきているっていっても過言じゃ無い。
 スポーツバッグを片手に部室へ向かおうとした俺に、同じクラスのサッカー部員のヤツが声をかける。
「おいおい、松山。そんなに張り切るなよ」
「ん?いつもどーりじゃん」
「こんなに早く行ったら、一年のヤツらが可哀想だろ?いつもどおり松山が早いのわかってるから、今頃皆走っていってるぜ?多分。もう今日からは俺達が一番先輩なんだからさ。先輩より早くいって用意しておく、ってのがきまりだろ」
「・・・そっか」
「そーだぜ、キャプテン?」
 夏休みが終わり2学期が始まって、9月の末で3年の先輩達は部活から引退した。他の部はもっと早いから、サッカー部が一番最後かもしれない。先輩達もサッカーが好きだから名残惜しかったようだ。でもこれからは大学受験の準備に本腰をいれることになる。その後を引き継いで俺達2年生が部を引っ張っていく事になった。
 そして俺は、部長に任命されたのだ。
 でも、部長だから何かがかわったというわけでもなく、俺としてはいつも通りにサッカーをするだけなんだけど。一年生をいじめようとかいう気も全くねえ。そういう先輩後輩の変なしがらみとかって、ウチの部にはないしさ。
「でもさ、やっぱり用意は俺達もしねえと!早く練習したいじゃん♪」
「もー、あいかわらずだなー。あ、俺も行くから待って!」
 結局、二人して走らないまでも早足で部室へと向かった。
 今日も青空、運動日和だ。この先の新人戦に向けての練習がこれからのメインだ。レギュラーの先輩達が抜けた後の新しいメンバー構成でどう戦っていくかがポイントになる。
「一年はやっぱり藤田かな」
「あ、FWか?中村先輩の後はやっぱアイツだろうな。後藤だけだと心細いもんな」
「監督にはやっぱり藤田っていっとくか。これまでも試合に出てるしな。昨日、考えとけって言われてさ。キャプテンになるとそーゆーのもあるんだな。ちょっと荷が重いぜ」
「たのみますぜキャプテン?でもいつも通りの松山のまんまで大丈夫だって!」
 部室につくと、やっぱり一年達は走ってきたのかほぼ全員が既に着替え終わって、グランドに走っていく所だった。
「松山さん遅いっすよ!」
「なにい?」
「嘘です!これからはもう、これくらいに来て下さいね。俺達も大変なんで」
「気にすんな、俺も明日からはいつも通りに来るから」
「えー、いいですよ。じゃ、俺達は先に用意してますね」
「おう」
 一年の中でもひとなつっこい佐藤が、一番最後に笑いながら出て行くと、入れ違いに2年生達も入ってきた。わいわいと喋りながら、練習用ユニフォームに着替えた。
 シューズの紐をきゅっと縛り、いつも通りの放課後が始まる。



 翌朝は、グランドの関係で週に2度の朝練の日だった。
 俺の学校は公立で、敷地はそれなりに広いが、あまり施設的には恵まれていない。グランドも野球部、陸上部らとの共用になっている。私立のサッカーに力を入れている学校とかは、専用のピッチとかあったりするんだよな。
 それでもウチのサッカー部は代々、結構いい成績を納めてきてるんだ。
 都大会で優勝とか。高校サッカーの代表にもなったことあるし。俺も頑張ってみんなと試合に勝ちにいかねえとな。
 そんなことを考えながら、学校へ向かうと前に一年生の藤田の背中が見えた。
おーい、と声をかけると振り向いて立ち止まってくれる。それに走って追い付いた。
「おはようございます」
「おはよう・・・って、お前?」
「あ、ちょっと・・・」
 藤田の左腕には白い包帯。昨日の放課後にはそんなのなかったよな?
「どうしたんだよ!骨折?」
「いや、折れてはいないんで大丈夫っす!」
 そういうことじゃなくて。よくよく見れば、顔とかも殴られたような青い痣が見えた。
「喧嘩したのか?」
「・・・・・」
「おい!」
「昨日の帰り・・・。ちょっと因縁つけられて」
「なにい?」
 そうして藤田は貝のように口を噤んで、だんまり。
 学校につくと、その腕じゃ練習させられねえとかなんとか言って、まだ人のいない俺の教室に連れていった。心配そうに俺達を見送る一年の中に、やっぱり藤田みたいに少し傷のあるやつが数人。なんか隠してるなこいつら。
 椅子に腰掛けさせ、教室へ向かう途中に自販機で買ったコーヒー牛乳を二つ机におく。
 なかなか話したがらない藤田に、俺はキャプテンだぞ!それじゃレギュラーやんねえぞとか脅かして、詳しく事の詳細を報告させた。
 聞けば、昨日練習の終わった後、1年の数人で一緒に駅まで向かい、近くのラーメン屋に寄った後、商店街を歩いていたら、最近駅前にうろついている不良っぽいやつに、サッカー部ではないウチの学校の一年生、藤田のクラスメートが絡まれていたらしい。いわゆるカツアゲってやつ。
 それで藤田をはじめとするウチの後輩達が、やめさせようとしたところ因縁つけられて。最初は素手でやってたらしいが、そのうち形勢不利と察した相手が持っていたナイフで切り付けてきたらしい。藤田はそれで腕を少し切られたとのことだった。
 どうやら、そいつらと関わりあったのはそれが初めてではなかったようで。いつも藤田達が同級生のピンチをなんだかんだで救ってたらしい。相手もいいかげん頭に来てたんだろうな。
「でも大丈夫です。警察とかにはバレてませんから。ラーメン屋のおっちゃんがうまく商店街の人にもとりなしてくれたし。部には迷惑かかりませんから」
「そういうことじゃねえだろう?無茶して、ホントにサッカーできなくなったらどうすんだよ!!」
「・・・でも松山さん、同級生がカツアゲされてて見て見ぬ振りできますか?」
「できねえな」
「でしょ?」
 してやったりという笑顔で、ようやく藤田が笑う。つい、つられて言ってしまったが、やっぱりよくねえ!
 よくねえのは、そいいう輩がウチの学校の一般生徒に手を出すってことだ。そういうのが蔓延る限り、特にサッカー部の連中は知らんぷりできねえヤツが集まってるからな。明日は藤田じゃ無いヤツが因縁つけられる可能性もある。相手をのしちまえばいいんだろうが、怪我を受けてしまったら元も子もねえ。
 ちくしょう、俺の可愛い後輩を傷つけやがって!!!
 段々と腹が立ってきた。俺は短気なのだ。
「お前はもう、外で喧嘩は絶対すんな!」
「喧嘩じゃ無いですよ。正当防衛っすよ」
「五月蝿い!いいか、絶対だ。そのかわり俺がナシ付けてくる。ソイツらいつも駅前にいるんだな?」
「松山さん何言ってるんですか?だってあいつらほんとチンピラ―――」
「ソレとお前らはやったんだろうが。あ、でもソイツらの上にぜってえもっと偉いやついるな。こういうのは一番偉いやつとナシつけねえといけえねえからな・・・。今回の事は、他には言うなよ?ソレも家で怪我したとかいっとけ!」
「ま、松山さん、やめてくださいよ―――!」



 今日はたまたま、監督が用事とかで久しぶりに放課後の部活動は休みだった。俺は大急ぎで学校を飛び出す。藤田とかがついてこないように、2年のチームメイト達に足留めを頼んでおいた。
 あれだけ藤田のヤツに口止めしたのに、日中には俺が一番偉いヤツんとこに殴り込む(殴り込むじゃ無い。お話をして円満解決だ!)って話がサッカー部だけじゃなくて、ほかの運動部まで広がってて。同じようにこの秋にキャプテンになった友人達が止めにやってきた。
 でも他の部のヤツも被害にあったりしてて、気にはなっていたらしい。
 だったら余計に行かなくちゃ!と俺は決意を新たにした。これ以上被害大きくしてどうすんだ。じゃあ、俺も―――という友人達にも、話がでかくなるとそれこそ部活どころの話じゃなくなるから、とりあえず俺にいかせてくれとお願いした。
 無理すんなよ!という同級生の声を背に、校門を出た。
 駅前のラーメン屋。ココはサッカー部のいきつけだ。俺も良く来る。
 でも、ウチの学校の生徒がこの近くで絡まれてるなんて全然知らなかった。確かに藤田より先に俺が見てたら、同じ事してたろうな。まだ混雑前の店内に入る。タオルを頭にまいた店のオヤジが、テーブルで新聞を読んでいた。
「おっちゃん!」
「よお、マツ久しぶりだなあ。今日は早いじゃねえか」
「今日、部活休みなんだよ。それよりさ、昨日ウチの後輩面倒かけちゃったってね」
「ああ、アレな。びっくりしたよ。さっき食ってたやつらが急に戻ってきて、助けてっつーんだもんな。しかし、今年の一年坊主は元気だな」
「そうじゃないっしょ〜〜〜」
「ま、怪我しちまったしな。ココの商店街も最近物騒になってきてな。ホント最近になって変なのがうろつき始めてな。ウチの街にはあーゆーのこなかったんだけどな。オトナがしっかりしなきゃいけねえんだけどよ。悪かったな」
 ラーメン屋のおっちゃんは、不良っぽいヤツにも平気で怒鳴り付ける昔ながらの近所のオヤジだ。だからこの店の周りでは悪ぶってるヤツもフツーの学生になるんだ。
 でも最近は新しい店も増えて知らないオトナが当然増えて、少年事件の報道とかでビビってるオトナは店の前で、悪い事してるヤツがいても注意もできなくなったんだと、おっちゃんは嘆いた。
「ね、ソイツらドコのやつら?他の学校?」
「いや学校ってより、なんか族らしいな。自分でそんなこといってたらしから。えっとなんだっけな〜」
「暴走族か。なにが楽しいんだろうな−」
「いや、ここいらを仕切ってるヤツは最近しっかりしててな。走ってはいるらしいけどよ。カツアゲとか小さいことはしてねえ筈なんだけど・・・」
「わかった!さんきゅー!」
「おいおい!ラーメン食わねえのか?」
「また来るからさ!」
 商店街に一歩踏み出す。
 どうやって、その族のアタマのとこに行けばいいんだろう。勢いで出てきちまったものの、見当がつかない。そういう知り合いもいねえしな。
 俺をカツアゲしてくれれば、ソイツを辿っていけるんだけど・・・。無理だよな、やっぱ。気の弱そうな態度とかすればいいのかな。お金振って歩くとか?・・・バカじゃんな。
 とか考えている間に駅前に着いてしまった。
 ココはもう、きいてまわるしかねえか?見るからに不良〜な金髪でコンビニ前に座り込んでいるヤツに俺は声を掛けた。



 すっかりあたりは暗くなっていた。
 時計を見ると、もう9時近い。ヤバい、家に電話してねえ。かーさん怒ってるだろうな。
 電車を乗り継いで、初めて降りた駅。同じ都内だけど、普段自宅と学校の往復くらいしか移動してねえ俺には何もかも新鮮だった。ふう、と息をつき自動販売機でお茶を買う。冷たい缶を額にあてた。ひゃっこくて気持ちいい〜。
 部活並みに動いちまったからなあ・・・。
 此処に辿り着くまでに、3回のやりとりがあった。唐突に声を掛けて、この辺の族の一番偉いやつのいるところ教えてくれ、なんていう俺に、ハイハイここですよーなんて親切に教えてくれる優しいお兄さんはやっぱりいなかった。
 皆さんとりあえずお決まりの「誰に口きいてるんだよ?あん?」の台詞に続けて「顔かしな」。顔は貸せないけど、教えてくれないと俺も困るんだよねということで、殴られそうになった拳を躱して同じように拳を突き出すと、おもしろいようにパンチがはいっちまうんだもん・・・。
 最初のヒトは詳しくはよく知らないけどといいながら、族のヤツが集まってる場所を教えてくれた。ソコにいってみると、相手は4人に増えたけど、皆さんにそれぞれ一発食らわしたら、自分達は下っ端だからソコにはいつもいってるわけじゃないけどっつーて、この関東を仕切ってる総長とやらのいる本部のたまり場があるっていうのを教えてくれて、そこに出入りしてるいわゆる支部長みたいなヒトの場所を教えてくれた。
 まるでテレビゲームのように、対戦するごとに相手は強くなるし人数も増えてくる。ヒトを殴るって機会はあまりないから、自分の腕がドコまで通用するのか全くわかりもせず向かっていった俺も俺だけど、日頃のサッカーの練習の賜物か、相手のくり出すパンチやキックはほぼ見切れたし、本能のままにくり出した手足もヒットしてくれた。
 しかし、3回目の支部長とやらのところでは俺も結構、受け身をとらざるを得なくなってきた。
「総長のいる本部とやらに行きたいんだけど」
「何の用だ?つーかお前なんなんだ?」
「用は総長にあるんで。教えてもらえないかな」
「フザケンナ!!」
 こっちは一人なのに、平気で6人とかでかかってくるんだもんな。それぞれの攻撃を躱してるつもりでも、やっぱり腕とか足には痛みが走る。幸い、刃物とかは持ち出してこなかったんで、結局は俺のキックでみんな倒れてくれて。それと敵じゃ無くて俺は単なる一般人で、ホントに総長に会いたいだけなんだって言ったらわかってくれたみたい?
 やっぱり支部長とかやって、下を引っ張ってるヤツはそのへん割と大丈夫なのかな。お前強いな、ウチに来ないかって言われたけど俺はサッカーしかできないんで、っていったら笑われた。
 でもコレで仕返しとかされたらやべーよな・・・。
 そうして、総長のいる本部の場所をようやく教えてもらった。おまえなんかは会ってもらえないよ、あの人ホントこえーんだ、と支部長は言っていたけど。
でもそれだけ皆に怖がられれてる総長とやらにナシつけなきゃ、やっぱり意味がねえだろう、と少し緊張してきた鼓動を押さえるように、少し温くなってきたお茶を飲み干すと、教えてもらった場所へと向かった。
 駅から少し離れた住宅街のはずれに有る町工場の倉庫みたいなトコの前に、沢山のバイクが止められていた。
 倉庫の前に数人が座っていた。俺が近付くと、さっと立ち上がる。やっぱり今までの相手と全然違う。でもココまできちまったら後戻りできねえ。
「総長に会いたいんだけど」
「・・・・・」
 相手は俺にガンつけるだけで何も言って来ない。フツーのヤツだとこの目だけでビビって逃げちまうんだろうな。だけど詰め襟の制服のまんま、多少喧嘩して汚れてるけど、あきらかに自分達と毛色の違う俺の姿のアタマのてっぺんからつま先をまじまじとみられる。
「なんでココがわかった?」
「城北支部長サンに教えてもらったんで」
「なにい?アイツが・・・?」
 動揺したように、ぼそぼそと仲間同士で耳打ちしている。なんだってんだろう?
「悪いけど、俺早くウチにかえんないとまずいんだよね。この奥にいるんだろ?」
 ついっと足を進めると、いきなり襲い掛かってきた。ああ、やっぱり、この人たちファイトなしでは通らせてくれないんだなぁ。仕方なく応戦する。
 そして思った通り段違いに強かった。
「イテっ!」
 誰かの拳が顔に当たる。痛みの後に、口の中に鉄の味が広がる。ああ、切れちまったみたい。もうやんなっちまうな。それでも俺も必死に暴れる。だってそうしなきゃ総長に会えない。とにかく会って話ししなきゃなんねえんだって!
「くそっ、なんでこんなにつえ−んだよ!」
「お前何者?」
 口々になにか言ってる。俺、強いの?よくわかんねえけど、それももう殆どアタマの中で意味を成さない。本末転倒かもしれないが、今はココのやつらを倒して扉の奥にいくことだけを考えていた。
 いつの間にか、外の騒ぎに気付いたのか扉は開かれ、中からも数人が参戦してきていた。足をひっかけられ、地面に叩き付けられる。悪いけど、これくらいサッカーの試合では当たり前なんだよ!タックル受けたくらいでやられちまう松山光じゃねえんだ!すかさず、立ち上がろうとする。
 でも息が上がってくる。足がふらつく。ヤバい、ちょっと相手の数が多すぎ―――。
「そこまでだ!」
 急に大きな声がして、ソコにいたヤツらの動きが一斉に止まる。助かった・・・。じゃ、こいつが総長?
 肩で息をしながら顔を上げてみると、背の高い長髪の男と、俺くらいの背格好の二人が奥から歩いてきた。長髪は、かなり強面だけど、俺くらいの方はなんだか全然族って感じがしねえ。育ちのよさげなお坊っちゃんぽい。
 そういえば、此処にいるヤツらはあんまり族っぽくない。いや、本当の族ってしらねえからあくまでもテレビとか雑誌とかで知ってるステレオタイプなのと比べてなんだけどさ。みんなバイクに乗る時のライダースーツっていうのかな。黒っぽい革ジャンとかそういうの着てて、駅前にいた不良みたいなチャラチャラしたヤツとはちょっと違ってる。
 二人が俺の方に向かってくると、中にいたヤツらが脇により、さっと中央が開けられ道が作られる。すげえ、ドラマみたい・・・.
「総長に会いたいってのはお前か?」
 長髪が俺の前に来ると開口一番そう言った。あ、じゃあ総長じゃないんだコイツ。
「・・・あわせてくれんの?」
 ついっと顎をしゃくられてスタスタと奥に向かっていく背中を慌てて追う。俺くらいのはやっぱり印象どおり、かなりひとなつっこいのか色々話し掛けてきた。
「すごいね!みんなウチの幹部でかなり腕っぷし強いんだよ!」
「そうだったのか」
「あ、俺、反町つーんだ。よろしくね♪この人若島津、副長」
 よろしくされてもなあ・・・。でもこの反町ってのもこんな顔して結構強いんだろうな。
「ね、名前なんてーの?」
「松山。松山光」
「えっと松山・・・あ、北校のサッカー部!そっかあのへん・・・」
「俺のこと知ってるのか?」
「まあね。情報関係集めんのが得意なんで」
「おい、反町!」
 若島津とやらが、反町のおしゃべりを諌める。
「いいじゃん〜、だって俺、松山気に入っちゃった♪日向さんだってー」
「反町!!」
「日向?誰それ?」
「誰ってやだなあ、日向小次郎。ウチの総長。日向さんに会いにきたんでしょ?あの人、めったにこんなふうに来たヒトに会わないんだよ?」
 日向小次郎ねえ・・・。なんか昔の浪人とかみたいな名前だな・・・。どんなヤツなんだろう。やっぱりすごいイカツイ男なんだろうなぁ。ぼんやり考えていたら、若島津の背中にぶつかった。なんだよ、急に止まるなよな。
「この奥だ。日向さんが待ってる」
 そう言うと、一番奥にあった小部屋のドアを開けられて、背中をぐいっと押される。後ろでバタンとドアが締まる。マジかよ−。
 部屋の壁際にあった椅子から、総長がゆっくり立ち上がる。
 そこにいるだけで圧倒的な存在感。やっぱ総長ってだけあるな。真っ黒な革ジャンに革パンツの姿は、ごっつくはなかった。けど、いわゆる男らしい体型というんだろうか。喧嘩はかなり強そうだ。顔は、硬派って感じでニコニコはしてねえけど、割とカッコイイ感じの男前。俺のねーちゃんとか好きそう・・・。ってそう言う事考えている場合じゃ無くて。
 今までが今までだけに、無意識にファイティングポーズな俺を、総長が手で制する。あ、もういいんだ。そうだ、用事用事。
「俺、都立北高校の松山っていうんだけど、ウチの学校の生徒にアンタんとこの下っ端が因縁つけて迷惑してんの。そーゆーの止めさせてくれねえ?聞けば、アンタ達ってそういう小さい事させないんだろ?」
「・・・・・・」
「ちゃんと下のモン面倒みきれねーなら止めちまいな!」
 総長が何も言わずにきいてるだけなので、ついつい最後は啖呵になっちまったぜ。これには流石に怒鳴られるかなと思ったら、総長日向はそのまま表情を崩さずにようやく口を開いた。
「すまなかった。最近、ウチの下に入ったグループのヤツらの仕業だ。確かに、一般人に迷惑かけるのは俺の主義じゃない。下のモンが勝手にしたことだ。だが統率が行き届いてねえのも俺のせいだ。なかなか下まで目が行き届かなくてな・・・・・。が、今後は一切迷惑かけねえ。お前のトコには絶対手出しさせねえ。約束する。」
 思った以上の返事をもらえた。やっぱりなー、アタマは話わかるんだよな!!筋が通ってるのはいいよな!あー、来て良かったぜ!!
 俺はようやくほっとして、にんまりと笑った。
「アンタ話がわかるヒトで良かったぜ!頼むぜホントに」
 すると日向が、俺の顔をまじまじと見つめた後、コッチに来いとよんだ。俺はもはやなんの警戒心も抱かずに日向の側へと近付いた。
「すごい状態だな」
 日向の手が、俺の口端に伸びる。
 ああ、そういえばさっき切れちまったみたいだもんな。血がこびりついているんだろう。まだ鉄の味がする。だって俺、喧嘩慣れしてねえんだぜ?気が付けば、カラダのあちこちも痛えや。くそう。
 指がゆっくりと俺の唇をなぞっていく。しばらく俺はただぼーっとされるがままに突っ立っていた。
 日向の指先が離れる。ぬぐい取った俺の血が付いているのが見えた。
 暫くその指を眺めていた日向と俺。
 すると日向は自分の口元へ指を運ぶと、俺の血のついた指先をぺろりと嘗めた。


・ ・・・・えっ?何コイツ?
 呆然と立ち尽くす俺。
 ぺろぺろと嘗め続けている日向。なんとなくその行為にいいようのない恥ずかしさを感じた俺は、すかさず気を取り直し、日向に殴り掛かる。
「な、なにしやがるっ!」
「消毒」
 しれっというと、簡単に俺のパンチをかわしやがッた。むかつく!!
 すかさずもう一発くり出すと、日向の頬にジャストミート。そのあとはどうなったかわからねえ。一目散にその部屋から駆け出して、どこをどう走ったか。気が付いたら最寄り駅に戻っていた。
 
 ウチに帰ったらもう11時近かった。むかつくついでに、もう家族はみんな寝ていた!誰か心配しろよ〜〜〜。
 結局腹を空かせたまま俺は、本来の目的達成を喜ぶことなく、日向のふざけた行為に腹を立て、また自分が妙にこだわってる事にも腹を立てしかめっ面のまま眠りについたのだった。


 つづく♪
 


 前から書きたかった「総長日向×パンピー松山君」シリーズの出会い編ができました!!
 ひゃっほい!!嬉しいのは自分だけかも(爆)。
 とりあえず、コレは表においてありますが、次は裏になります(笑)。次はっていうかこれからは全部?しばらく、この話が連載のように続くと思うので;;どうぞおつきあい下さいませ〜。 (03.09.17)