病院へいこう(5)

 
 


<三杉淳の理由>

 松山が入院して五日目。ようやく僕は彼の見舞いに訪れた。
 そろそろ見舞客も一段落して、彼も部屋のベッドですることもなく飽きはじめているころだろう。

「やあ。松山調子はどうだい?」
「おー三杉!もう暇で暇で死にそう・・・。退院したい〜〜〜!」

 松山の病室はそれまでの見舞客の多さの証拠の花やら、見舞いの品やらでいっぱいになっていた。
 めったに病気などをしないという彼を心配した者が多かったというのと、それほど深刻ではない盲腸というのも、訪れる人を増やしたのだろう。

「随分、いろんな人が来たみたいだね」
「うん。昨日は北海道から富良野のときの仲間も来てくれてさ。俺が寝てるのが珍しいんだよ皆」
「それだけみんな心配してるってことだよ。それはそうと、今日は日向はどうしたんだい?」
「アイツ今日仕事なんだって。夜来るって行ってたけど。それより三杉、ココの先生に俺退院してもいいかって聞いてきてくれよー!もう、何処も痛くないからよー」

 皆のハナシでは、やはり手術の翌日はかなり病人度が高かったらしい松山も、これだけ日がたつと普段のサッカー虫が騒いで仕方ないらしい。
 体を動かすことができないというのが、一番の苦痛なんだろう。
 僕もそんな期間が長かっただけに気持ちはよくわかるけど。でも確かに盲腸だと最近は退院も早いはず。
 
「退院予定とかってもういわれてるんだろう?一週間くらいかな大体は」
「やっぱそーだよな・・・。俺、10日って言われたんだけど・・・」
「10日?そりゃ長いね。どっか他にも悪いトコあったんじゃないのかい?」
「いや、なんだっけ、腹膜がどーのとか手術んときいってたけど・・・。あと日向も怒られたらしいけど」
「それって・・・かなりひどかったってことじゃないのかい?」
「だって今はもう別に。ほら内緒でちょっとリフティングとかもしてるんだ♪」

 松山がこそこそとベッドの下にあったバッグからサッカーボールを取り出すと、ひょいと蹴りあげた。
 ちょっとちょっと!!点滴したままそんなに動いたらヤバいだろう。
 それに―――。

「松山!傷が開いたら10日じゃ済まないんだよ。全くこういう人こそ、やっぱり退院させちゃダメってことだね」

 ボールを取り上げ、ベッドに横たわるように命じた。

「こんなもの病人に渡しちゃだめだろう。日向は知ってるのかい?」
「まさか。ココの入院患者の男の子がサインしてくれって持ってきたヤツ、ちょっと使わせてもらってただけだよ・・」
「じゃあ、早くサインして返してあげたまえ。ほら」

 僕はテーブルの上にあったマジックを松山に手渡すと、彼はしぶしぶそれにサインをした。
 これは帰りに看護婦さんに託しておいてあげるとしよう。このままボールを持たせておくと危なくてしょうがない。
 暫く暇そうな松山の雑談につきあって、時計を見るとそろそろ夕刻だった。

「じゃあ、僕はそろそろ」
「え?帰っちゃうの?」

 そう言われると帰りにくいじゃないか。
 松山の目がじいっと僕を見つめてくる。仕方ないか。

「じゃあ日向が来るまで」
「そうか♪」

 思っていたよりも早く来た日向と入れ違いに、僕は病室を後にした。
 やっぱり彼にこの場所は似合わない。僕もあまり訪れたくない場所だ。
 外にでて名前を呼ばれ振り向くと、病室の窓から松山がぶんぶんと手を振っていた。隣で日向がぶすっと腕組みをしてたっている。
 やっぱりもう、退院させたほうがイイのかもしれないな。
 僕はくすくすと笑いながら、手を振りかえすとすっかり暗くなった街へ踏み出した。






<帰宅の日>

 ようやく松山が退院する日を迎えた。
 盲腸とはいえかなり悪化した状態だったため、結局10日間の入院生活だった。
 退院の手続きとかは松山のクラブの田中サンが全部やってくれたので、俺と松山は荷物を片付けると、お世話になった先生や看護婦さんに挨拶をし、病院を後にした。

「やっと娑婆だ〜〜〜!!!祝出所!」
「おまえなー」
「だってよー。もう後半きつかったぜ?まさに監獄!あーサッカーしてえ!」
「急に無理すんなよ。せめて抜糸までは大人しくしてろ」
「うーん。あ、俺のチャリ、病院とめたまんま!」
「後で俺がとりに来るから気にすんな。今日はタクって帰ろう」
「えー。いいよ別に。歩いて帰ろうぜ。チャリ押していくから」

 なんだかんだの言い合いで、結局俺が自転車を漕いで、松山が後ろに乗ることで決着がついた。
 とにかく俺は早くウチに連れて帰りたかったし。でも歩かせるのはまだ心配で。

「ちゃんとつかまってろよ」
「おう!あ、日向夕飯何にする〜?俺固形物食うの久しぶりなんだよなー。昨日の晩にやっと形のあるもの出たんだぜ?」
「そうだな・・・ウチにつくまで考えとけよ。後で買い物行くからよ」
「あ、俺も行かなくちゃ!快気祝いとかってやっぱり来てくれた人に配らねえとマズイよな?」
「田中サンに頼んでおけばいいんじゃねえの」
「そーゆーわけにはいかねえだろ。おまえもつき合えよ?」
「とにかくウチ帰ってからな」

 久しぶりの外に浮かれているのか、松山の口からなんの曲だかわからない鼻歌が聞こえてくる。
 その節はずれの音に思わず吹き出す。松山は気にせずに気持ちよさげに歌い続けた。
 それと同時に俺はやっと俺達もいつも通りに戻ったと、安心して心から笑うことができた。




おわり







 もう、すっかりいつのこと?な27272ヒットをお踏み頂きました、アユ様のリクエスト、ようやくお届けすることになりました;;きっとお忘れかも知れません・・・。
 リクエストは「みなに愛されてる松山君」ということで、「みなに愛されてる」→「心配されている」→入院という恐怖の三段論法でこのようなハナシになりました。
 盲腸・・・自分の体験談を元にしました(爆)。ええ、鈍い!と御墨付きを貰ったのは私自身であります。
 みんなが松山君を心配して〜と、いろんな人の視点で書こう!とはじめてみたら、無意味に長くなってしまいました。それに萌えませんね・・・;;
 遅くなった上、こんなものでスイマセン〜〜〜〜。しかもマックがぶっ壊れたときに、アユ様のアドレスとかもぶっとばして御連絡とれなくなってしまいました。今も見て下さっているといいのですが・・・。
 皆様もくだらないハナシにおつきあいありがとうございました(土下座)。
(02.12.01)