<早田誠の理由>
泊まっていたホテルをチェックアウトし、今日地元へ帰郷組の岬や新田、次藤らと待ち合わせをしている駅へ向かった。
昨日の晩の衝撃の事実。
松山が盲腸で入院したらしい。
合宿後一日延泊しての昨晩の飲み会で、松山と騒げるのを楽しみにしていたのに、その姿は見えず、結果そういうことだった。
午後、松山の病室を訪れた。
ノックをすると中からは低い日向の声。岬が先頭を切って入っていく。
「お見舞いに来たよ。あれ?松山、寝てるの?」
「そうだ。だからしずかにしてろ」
日向が機嫌悪そうに言う。こいつは俺らに来て欲しくがないために、場所を若島津にも伝えなかったらしい。
岬に続いた俺達を心底迷惑そうに見遣った。
「ほんまや、松山寝てはるわ・・・」
ベッドを覗き込むと、松山が眠っていた。
やはり顔は少し青白い。手術の翌日というとだが窶れているように見える。持ってきた見舞いの花を、仕方なく日向に渡す。
どうも、と小さく答えたヤツは、花瓶に生けるために立ち上がった。別に日向にやったんやないけどな。
たった拍子に、日向の掛けていた椅子がガタンと大きな音をたてて転がった。
その音に、松山が小さく身じろぎすると、ゆっくりと目をあけた。そばにいる俺達に気付かないのか、松山の目はまっすぐと日向を見る。
「わりぃ・・・起こしちまった」
「んっ・・・」
安心したように松山は笑った。
うわー、やばい、可愛いやん!!松山のこんな顔みたことない・・・。
すげー好き!めっちゃ好き!!なんていうのか、邪気のない笑顔っていうのかなんていうのか。こちらの顔まで赤くなってしまいそうだ。
岬がこほん、と咳払いをした。
「え?あっ、岬っ?みんなも!!」
「お見舞いに来たよ。吃驚しちゃった」
「ほんとですよ〜〜〜、俺、ほんと直ぐに来たかったですよぅ!!」
「あんまり無理しちゃマズイたい」
見舞客に気付いた松山は、慌てて起き上がろうとする。
「松山、寝てたままでええから」
「いや平気。日向、ベッド起こして」
日向が黙ったままベッドをリクライニングにすると、花束をもって病室を出て行った。
どうにも日向は苦手だ。そう思っていたのは隣の新田も同じようで、ほうっと吐く息が聞こえた。
「ごめんなー。みんな今日帰るんだろ?俺も昨日の飲み会行きたかったなー」
「何いうてんのー。盲腸やなんて全然思わんかったわ」
「俺自身が吃驚だってば!」
和やかに会話が進む中で、前にクラスメートがやはり盲腸で入院した時のハナシを思い出し、その場のノリでしてはじめた。するとタイミング悪く日向が花瓶を抱えて戻ってきたのに気付いたが、もう遅かった。
「そや。松山、どんな気分やったん?」
「なにがー?」
「ちゃうちゃう。剃毛したやろ下の毛♪」
「な、な、何っ?」
「前に友だちが盲腸やったときに、言うとったんや。看護婦さんがしてくれはるんやろ〜」
「〜〜〜したよ!!!」
松山が真っ赤になりつつも、肯定し怒鳴った。
ちょうどそのときに戻った日向が、その声に気付いて俺をじろりと睨む。こわっ。
すると恐いもの知らずの岬が、可愛い顔でさらに恐いことを言った。
「何、松山怒鳴らせてるんだよ」
「小次郎はその場にいたの?松山の剃毛の時」
「みさきっ!!」
慌てて松山が岬の言葉を封じようとするが、日向には伝わったらしい。
思い出すように、ニヤリと笑うとのたまった。
「俺はいても良かったんだけど、追い出されちまってな。まあ、カラダ拭いてやるときに見れるから」
「何言ってるんだよ馬鹿!!!!」
松山はふとんを被ってしまった。
岬がごめんごめんからかって、と丸くなった松山をなだめるが、なかなか顔を見せてはくれなかった。
まずいなー、変なこと聞いてしもうた。ついつい仲間との雑談のノリで・・・。
でもふいに、その光景を頭の中で想像してしまい、俺は病室で一人反省するのだった。
もう、あかんなあ・・・・ほんまに。
<新田瞬の理由>
岬さんや早田さんと一緒に、松山さんのお見舞いに訪れた。
ほんとは一人で来たかったけど、病室にはあの人がずうっといるらしいと若島津さんに聞いていたので、俺は岬さんの影に隠れるように松山さんに会いに行った。
早田さん達は、帰る日程があるということで、この時間じゃないとダメだったらしいけど。
松山さん、手術!入院!!もう昨日は驚いてうろたえてしまった。
皆が落ち着いているのが不思議だったくらいだ。盲腸だから大丈夫だよなんて、誰かは知ったふうに言ってたけど、ウチの近所のおばちゃんは盲腸で死んだんだぞ!!
ちょうど病室に入ると松山さんはまだ寝てて。
あー、もうなんて無防備な顔だろう〜〜〜〜〜。もう〜〜〜。
横にあの人がいるからか・・・。その席にいるのが俺じゃないことが悔しかった。
松山さんは起きると、見舞いに来た俺達ににっこり笑いかけてくれた。ああ、やっぱりその笑顔スキです〜〜〜。
でも寝巻きを来て、点滴をしている松山さんはやっぱり病人なわけで。
だけど気付いてないのか、寝巻きの胸元が少し乱れて、ほっそりとした首筋から胸元の白さが目に眩しいです・・・。
お見舞いの品として、以前に松山さんが好きだといっていた御菓子を思い出し、ここに来る前に急いで買ってきたものをさしだす。
「松山さん、コレ!」
「なに?新田わざわざ買ってきてくれたのか?ありがとう!」
松山さんが受け取ったその箱を日向さんが覗き込む。
「食い物?これ生物か?悪いけど松山食えねんだ。まだ重湯だけだから」
「え・・・?あ・・・スイマセン!!お、俺、気付かなくて・・・」
あー!!!!もう俺の馬鹿〜〜〜〜〜!
そうだよ、松山さん盲腸切ってるんだ。そうそう食べ物なんて・・・・。
指摘されるでもなく、とんだ大間違いだ。がっくりと頭をうなだれる。
「いや、新田。俺、嬉しいよ!ちょっと・・・今は食えないから、かわりに今皆で食ってってくれよ。なあ?」
松山さ〜〜〜〜ん!!すいません〜〜〜〜!!
「そういえば松山、痛かったのって合宿の時からじゃない?」
「え?」
岬さんがハナシを返るように切り出したその言葉に、俺も合宿の時のことを思い出した。
そうそう、松山さん、なんだか食欲がなくて・・・。
「お腹・・・摩ってなかった?」
「岬も気がついてたのか」
「うん。どうしたのかなって思ってたけど、そんなに我慢してるとは思わなかった」
どうやら日向さんも気付いてたみたいだ。なんだよー、それだったらちゃんと松山さんフォローしろよ!なんの為にそばにいるんだよ!!
「いや、でもホント我慢できないもんじゃなかったし」
「コイツな、医者も認めた鈍さなんだよ。コレからは俺達が気をつけてやらなきゃならんらしい」
「うるせーなー!いいじゃねえかもう!!」
ぎゃあぎゃあと松山さんがいつものように日向さんに食って掛かる。
でも皆がいるせいなのか、日向さんは相手にせず、俺の持ってきた御菓子を口に放り込んだ。ああ、松山さんに食べて欲しかったのに・・・。
「松山、じゃあ今までで一番痛かったのって何?」
「うーん、そうだなぁ・・・やっぱアレかな?日向にやられたヤツ」
岬さんの問いに考え込んでいた松山さんは、思い出したように言うと、日向さんの方をみてニヤリと笑った。
なんですか?なんですか?日向さんにやられた・・・痛みですか?!?!―――って!!
俺はいけない事を思い浮かべてしまうんですけど!!でもふと回りを見ると早田さんや岬さんもちょっと慌ててる。言われた日向さん本人も、俺?というようにちょっと焦って見える。
「あれはやっぱいろんな思い出もあるから痛かったな。ぜってえ忘れねえもん」
「―――松山!」
日向さんが慌てて松山さんの口を塞ごうとする。
松山さんはそれに気付かず、突然布団を捲りあげた。そして、寝巻きの裾をはだけた。
すらっと伸びた綺麗に筋肉のついた足が露になる。うわ〜〜〜なんですか〜〜〜〜?
「ほら、まだ痕残ってるんだ。コイツと初めて試合した時の―――」
そう言うと、松山さんは臑にうっすらと残る傷跡を撫でた。
岬さんは、ああ、というようにうなずいた。俺はその場にいなかったから知らないけれど、松山さんと日向さんが小学生の時、試合中、PKとるために日向さんのタックルを足を出してとめたというヤツだ。
「・・・しつこいな」
「そーだよ、絶対忘れねからな」
そんな二人の間には、やっぱり俺なんかが入れないなにかがあるのを、改めて見せつけられてしまったようなカンジだった。
やっぱり悔しい・・・。
帰る途中で、岬さんが俺に言った。
「新田は松山が好き?」
「好きですよ。みんなあの人のことがスキでしょう?それじゃダメですか」
「そうだね。それでいいんだよね」
岬さんがホントは何を言いたかったのかわからないけど。
次に松山さんに会えるのはいつだろうか、と俺はそのことを考えながらみんなの後をついて行った。
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