日向は自分がもっている唯一の言葉で気持ちを伝える。
それがキスで。
最上級がセックスだ。
世界で一番愛してる。
なんて陳腐な感情なんだろう。
でも、もう逃げられない。
日向のジッパーを下ろした松山の手が、ジーパンごと日向の下着を膝まで下げた。
潤んだ目もとを染めて、松山は日向を見上げる。
うわ言のように日向が自分の名を呼ぶ。
それだけで、日向の熱さを躯の奥に飲み込んで、どこまでが自分で、どこからが日向なのかわかならなくなるくらいにひとつに溶け合いたくなる。
びくんっ。
押さえ込んだ松山の肢体が、敏感に震える。
抱き締める松山の肌は、いつものとおり白さがほんのりと桃色に染まり、恐ろしいほどに日向を欲情させる。
名前を呼ぶと漆黒の瞳が微笑む。
「大好き」
しっとりとした感触を首筋から味わいながら、下へと降りてゆき胸へと舌を這わせる。
赤く色付いた突起は、松山の弱いところだ。舌を絡めると腕の中で震える。
既に目尻には快感の涙が浮かんでいる。
しつこく、根元から押しつぶすように舐めあげる。
慣れているはずなのに、小さく身を捩ってしまう。
「はぁ・・・・んっ」
耐えきれないように、爪先をそらせて、松山が喘ぎはじめる。
軽く歯をたてやる。松山は小さな悲鳴をあげる。
「ひゅ・・・うっ、やっ・・ん」
そこへの愛撫だけで、既に松山のモノは先端からとろりと雫を滴らせた。
日向は、ぺろりとそれを舐めあげると、口に含む。
吸い上げながら、徹底的に刺激を与えると、松山の腰は喜びにぶるぶると震える。
「・・も、いい・・からっ!・・・はや・・・く、いっしょ・・・にっ!!」
松山の声に、日向は松山をうつ伏せにすると、背中から覆いかぶさる。
耳を甘噛みしながら、中指をずるっと挿入する。
松山の体は、狂喜しながら根元まで受け入れる。
「あんっ・・・、ああ・・・・っ!」
遠慮なくかき回す指の感触に、内壁は日向のごつごつした指を締め付ける。体がやらわぎそこがほどける度に、指の数は増やされる。
欲望にはどこまでも弱い松山の体は火がついたように、早く早くとねだっている。
「ん・・・っ、ひゅう・・・がぁ!!」
「ま・・つやま・・」
実際、日向のほうが耐えきれないくらいに昂っている。
早く捩じ込んでしまいたい衝動にかられながらも、求める松山をもっと見ていたい。
「挿れ・・・てっ・・・、もっ、がま・・んっ・・で・・・・ないっ」
再び、松山のからだをひっくり返すと、日向は足を抱え込みようやく挿入する。
松山のもの以上に熱くなったものが、相当の質量をもって松山の中に埋め込まれる。
「・・・・・・あ・・・・・ああっ!!」
ようやく待っていた日向を、松山はきつく締め付ける。
「っつぅ・・・・松山、痛てえ・・・っ」
「んなっ・・・もっ・・・と、うごけっ!!」
煽るように、体を揺すり先を促す。首を振るその姿は勝手に感じているようであり、日向は松山をしっかりと抱えなおしゆったりとしたストロークで、ぐいぐい突き上げるように抽挿する。
腹に触れる松山のモノは、完全に勃ちあがりしとどに蜜を滴らせている。
日向の腰にしなやかな足を絡め、腕を巻き付けた首をひきよせ口付けをねだった。
上と下ともうなにがなんだかわからない。
「いい・・・っ、はっ・・・・んんっ!」
淫らな喘ぎは止らない。
セックスなんて、たかが体の一部分をつなげる行為なのに、なんでこんなにいいんだろう。
日向の自分を求める荒い息づかいに、歓喜の涙を流しながら松山も日向を求める。
「もっとぉ・・・・ひゅう・・・がぁ!!」
「・・・・なあ・・・俺のセックスすき?」
「・・・ああ・・・んっ。す・・・すき・・・っ」
「セックス・・・だけ?」
日向の低い囁き声に、松山が怒ったように睨み付ける。
「ちがっ・・・ひ・・うがだからっ!!」
もう、こんなときにでも馬鹿なんだから。
そりゃ好きな人とのセックスが一番。
テクニックとかそういうことじゃなくて、日向だからいいのだ。
ほっとしたような日向が、また愛おしいんだけど。
「まつやま・・・っ」
日向の思いは、全部わかってるから。
だから、もっと強くと、背中に腕を回す。
無我夢中で日向は松山を突き上げた。
深く深く日向が入り込んでくる。行為だけでなくて、その存在がひどく大きく感じられる。
互いの肉が擦れる音と息遣いだけが、部屋の中にこだまする。
日向は限界寸前の松山自身に手を添えた。
激しく腰を揺らして、松山は日向を締め付ける。
「は、あぁ・・・・くぅ・・・・・・っ!!」
小さく呻くと、日向は松山の中に勢いよく放出した。
続いて、松山も白い飛沫をあげた。
どちらからともなく、荒い息のままキスをする。
窓が開いていた。
いつのまに開けたのだろう。風がカーテンをゆらゆらと揺らせている。
額に汗で張り付いた髪がそよいで気持ちがよい。
ソファーから落ちていた事に二人して今気付く。
日向のシャツのボタンが飛んでいた。
松山は手を伸ばし、日向の飲みかけのビールをとる。
それはすっかり生温かくなってしまっていて、ちっともうまくは無かったが、喉が乾いていた二人は取り合うようにしてそれを飲み干した。
「なあ、松山。腹へらねえ?」
「えー」
「俺、食ってねえんだ」
タイミングよく日向のお腹がグウと鳴り、二人して笑った。
「食べてこなかったのかよ〜」
「ああ」
少しでも早く帰ってこようと思ってよ。そう照れながら小さな声で日向はいう。
しんじらんねー!と松山はからかって言った。
本当はうれしくてしょうがない。噛み付いてやりたい程。
ごろんと寝返って、日向の腕の中に戻る。
そこは松山のためにあるようにぴったりとはまるのだ。
「いいぜ、なんか食いにいく?」
日向はうーんと考え込みながらも、腕の中の松山をくすぐって、きゃっきゃと言わせる。
こんな時間に開いている店は限られている。
松山は日向を見上げて、言葉の続きを待っている。
「・・・牛丼だな。吉野屋がいい?松屋か?」
その日向の言葉に松山が声をたてて笑う。
やっぱり。そうでなくちゃ。大好き。
あんまり松山が笑うので日向は訳が分からず、へそを曲げる。
「な、なんだよー。牛丼のどこがそんなにおかしいんだよ」
「おかしくねえよ全然。俺もイタリア料理より大好き」
尚もゲラゲラ笑う松山を日向は肘で小突いて、よいしょと起き上がり散らばった洋服をきはじめる。
「笑ってろよ。一人でいくから」
松山はごめんごめんと自分も起き上がり、日向に後ろから抱きつく。
肩ごしから頬にキスの雨を降らせ、日向の御機嫌をとる。
本当だぜ。イタリア料理より、牛丼のほうが好きなんだ。
「じゃあ、早く食いにいこうぜ」
日向は微笑んで松山を振り返り、Tシャツを頭から被らせる。
松山は向い合せに日向の一番上のボタンがとれてしまったシャツのボタンをとめる。
靴下が片方見つからないけど、そのまま出かけよう。
日向が松山の手を引く。
駐車場には日向の国産車。ベンツじゃない。
───十数時間前にはそこに若島津のスポーツカーがあって、つい数時間前には三杉の大きな車もあって。そう思うと可笑しくなる。
車の鍵をポケットから出そうとする日向の腕をとり、甘えるように松山は言う。
「歩こうぜ。せっかくの満月だし」
日向に不服があろうはずは無い。
また鍵をポケットにしまうと、手を繋いだままの二人は歩き出した。
こうして手を繋いでいれば松山は日向の側にいる。
ちゃんと体温を感じていられる。
そんな錯角に幸せを感じる日向は、しっかりと自分よりすこし小さい手を握った。
明るい月が二人の行く道を照らしている。
これ以上は望まない。過去も未来も消えてしまえばいい。
静かな虫の声。
二人の歩調が一緒になる。
松山の髪に月の光がきらめいている。
「松山」
「うん?」
「・・・・・」
ああ、やっぱり言葉はみつからない。
愛してるの最上級はなんなんだろう。
日向はありたっけの思いを持て余す。
「・・・・空いてるといいな」
日向の気持ちは、松山が笑顔で答える。
大丈夫。ちゃんと幸せだ。
月はこぼれ落ちそうに輝いている。
誰の上にも。
ちりん、とどこかで風鈴がなった。
大丈夫。ちゃんと愛している。