周り中、ひと、ひと、ひと。
どっからこんなに溢れて来てるのかと言うぐらいの人込みのまん中に、ひとり、時計を気にしながら松山が立っていた。
深めにニット帽を被り、ぐるぐる巻きにしたマフラーからは表情が見えないけれど、寒さで桃色になった頬が覗いている。
そういう姿もまた可愛くて、暫く眺めていたけれど、あまり待たせると本当に怒るので、ようやく俺は近付いた。
「待たせたな」
「っとに。てめえの方から呼びつけておいて、遅れるたぁどいいう了見だ・・・。早く来い早く。っていうか俺よりちゃんと先に来てろよバカ!」
うーん、本当は松山よりは先にきてたんだけどな。
「悪ぃ、悪ぃ。今日の晩飯は俺が奢るから」
「ったりめーだろ!もう・・・・。それよりよ・・・。オマエどうしていつもこーゆー人の多いところで待ち合わせしたがるんだよ」
新宿のサザンテラスの植え込み前で、ぼそぼそと松山が文句を言う。
どうしても小声になるのは、ほんとに人が多いからだ。
ましてやクリスマスで、イルミネーションが有名なココには遠方からも見物客が押し寄せているようだ。
確かにわざわざ足を伸ばす価値があるくらい、きれいな夜景が広がっていて・・・・。
「ただでさえ、目立つんだから・・・。こんなところで見つかったら大変なのによぉ・・・・」
俺だってそれは承知している。だからこそこのサングラスに黒のロングコートなんだけど・・・。
「おまえの場合、変装が変装になってねーんだよ・・・。ほら・・・。だんだん人が集まってきてねえか・・・?」
言われて周りを見回すと、カップルとかがちらちらと俺達のほうを見ている。
女子高生やオバサンにいたってはあからさまに『あれ、日向小次郎じゃ無い?』という声もきこえる。
「ま、気にすんな」
松山の背を押して、デッキを歩き始める。
植え込みや、オブジェにつけられた電飾が光の洪水になって目の前に広がる。
対岸のタカシマヤのほうのイルミネーションと、その間に行き交うJRの車両の灯りらが一体になって、一大夜景スポットだ。
ぶつぶついっていた松山も、その光景には感動しているようだ。
「すげえ・・・」
少し顔をあげて、松山が呟く。
その瞳に色とりどりの光がうつってとても綺麗だ。
人の多いのは俺自身も本当は勘弁なんだけど、この松山の顔がみたくて、ついついこーゆーところに連れてきたくなる。
「クリスマスデートにはぴったりだろ?」
「・・・あほ・・・」
松山が顔を赤くして、また帽子を深く被ってしまう。
全くいちいち反応がなぁ・・・。
くっくっくと笑うと、踵を蹴られた。痛いっつーの。
まわりのカップルはべったりくっ付いて、幸せそうだ。たぶん付き合い初めらしいカップルも繋いだ手が暖かそうだ。
流石に俺達が、この場でそういうことしたらヤバいんだろうなぁ・・・。
俺は全然気にしないけど、無理矢理にでもやったら松山きっと暫く口きいてくれなくなりそうだし・・・。
でも手ぐらい繋ぎたいよな。
なんってったってクリスマスだし。ここにいるどんなカップルよりも、ほんとはラブラブなんだってみせつけてやりたい気もする・・・・。
「なあ、松山。手つないでもいい?」
「なにゆってんだよ」
「だめか?」
「あたりまえじゃんか」
つまんねえな・・・。でも絶対やりてえ・・・.
相変わらず、松山は夜景を眺めながら俺の横を歩いている。
少し離れるようにして、まわりのカップルやら、女性グループとかが俺達のほうを気にしながらついてきているのは、なんとなく感じていた。
よし。
「ちょ、ちょっと!!」
俺は、自分のサングラスをはずし、松山の帽子を剥ぎ取った。
まわりから『やっぱり!!!』『松山くんもいる〜〜〜』『日向小次郎だ!!』という声がざわざわと上がる。
松山が慌てたように、俺の袖をひっぱった。
「松山!!」
大きな声で松山を呼ぶ。
まわりからはとうと『きゃ〜〜〜〜〜〜っ!!』という悲鳴にもにた歓声があがった。
「走るぞ」
一言いうと、左手を松山に差し出す。
条件反射で松山の手が俺の手を握りかえしたのを確認すると、俺達は全力疾走で人込みを駆け抜けた。
背後から、そして通り抜ける側から歓声が聞こえては流れていく。
途中、ほどけそうになった手のひらを、お互いにしっかりと握り直した。
だんだんと喧噪が遠くなる。
聞こえるのは自分の吐く息の音と、同じように松山の吐く息の音だけ。
まるで今、ここには二人だけしかいないようなそんな感覚に包まれる。
変なハナシ、俺は恍惚感に包まれていた。楽しくて仕方が無い。そんな感じ。
なんだ心配になって、振り向き松山を確認する。
松山も俺をみて、ニヤリと笑った。
どれくらい走ったろう。
流石に息もあがり、足を止める。
すっかり代々木の街の中だ。どこにいるのかもわからない。
つないだ手は汗でびっしょりになってるけど、俺達はなんとなくまだ繋いだままお互いの顔を見合わせて大笑いした。
「最高!!っていうか日向馬鹿すぎ!!」
「わはははははは!!みんな吃驚してたな」
「きっとなんかの撮影とかだろうって思うんだろうな」
松山と一緒にいると、感情を押さえる事ができなくなる。
ついつい赴くままに行動してしまうのだが、松山も結局は同調してくれる。
松山と一緒にいると、無垢な子供の心が顔を出す。
俺に自分の輝くような笑顔を惜しみ無く分け与えてくれるから。
松山と一緒にいると、伝えたい事で心がいっぱいになる。
松山と一緒にいると。
まだ笑いこけている松山の唇にそっと、自分の唇を重ねる。
松山が驚いたように、一瞬目をしばたいた。
そうして、今度は松山のほうから、ちゅっと、軽く口付けされる。
照れたようにようやく手を振りほどくと、スタスタと先に歩いていってしまう。
「おい、松山〜〜〜」
「早く来いよ!!飯、おごってくれんだろ?ちゃんと予約してあるんだろうな。今日は何処も混んでるぜ?」
「当たり前だろ。日向小次郎に抜かりはねえ」
「じゃ、早く行こうぜ」
俺が予約してあったのは、さっきのサザンテラスを真下に見下ろす場所で。
てっきりメシ屋だとおもってたらしい松山は、ちょっぴりいやそうな顔をしたのを俺は見のがさなかった。
「おまえな〜、そーゆー顔すんなよな。今日は俺につき合うって約束だろ?」
「っていうかぁ・・・・。これってマジにクリスマスデートコースじゃん・・・」
「また衆人監視の中でメシ食うのやだろ?ココなら二人っきりだしいいじゃねえか。ほれ、好きなモン頼んでイイからよ」
ルームサービスのメニューを松山に手渡す。
じいーっとそれとにらめっこしながら、松山がじゃあ、コレと指差したものを電話で注文する。
「日向小次郎がさぁ・・・クリスマスイブに部屋予約ってさぁ・・・ぜってえ、ココで噂になってるぜ・・・」
「いいじゃねえか。別に。どーしてお前はすぐにそうやって世間体を気にすんだよ。俺のコト本当はスキじゃ無いんだろ?」
「そうじゃないけど!!・・・・なんか、はずかしいじゃん・・・・こーゆーのってさぁ・・・・」
「・・・・じゃあ、帰るか?だが、メシはねえぞ」
「メシ・・・食う」
「よし。じゃあ、大人しく待ってろ」
松山は居心地悪そうにもぞもぞとベッドの上で、膝をかかえぶつぶついっている。
俺がスケベ、だとか、いつもこうやってどうの、とか文句をいってるのだが、こーゆー姿が、俺を煽る、ってのがコイツはわかってねえんだよな。
全く。
このまま押し倒したい気分だが、コトの最中にボーイのノックに遮られるのも不粋なので、今はぐっと我慢する。
部屋のカーテンを全開にしてやると、真下には新宿の夜景、遠くには東京タワー、お台場まで海のように東京の夜景が広がる。
冬の空気の中、きらきらと輝いている。
松山がそろそろとベッドを降り、窓の前に立つ。
子供のように窓に張り付くと歓声を上げた。
「うわ〜〜〜!!超キレイじゃん!!」
「だろ?」
「だろ・・・ってオマエ、来た事あんのかよ」
「はじめてにきまってんだろ?お前と以外に誰とくんだよこんなとこ」
「まあいいけどさ。あ、アレってレインボーブリッジ?」
わいわい騒いでいると、食事も届き、ようやくお腹を空かせた松山も大人しくなった。
「これ、うまいぜ?ほら?」
松山が、フォークを突き刺した肉を俺の前に差し出すのを、ぱくり、と食べる。
もぐもぐと咀嚼する俺をにこにこしながら松山が、感想を待っている。
やっぱりレストランとかじゃなくて、こうやって二人だけで食える方が正解だったなぁ、と松山の食う姿を見ながら俺は満足げにうなずいた。
食事も終わり、一応、お伺いを立ててみる。
すっかり松山も和んで、ベッドの上でごろごろしているけれど。
「で、どうすんだ?」
「ナニが〜?」
「えっち」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「まあ、ただメシ食って帰るなんてことはないよね、光くん」
「・・・もぅ、いつもそーやってよぉ/////」
そういいながらも松山は、バスルームに入っていく。
まあココまで来て今さらっていうのもあるだろうけどな。
にやにや笑いながら、俺も松山のあとを追ってバスルームに入った。
「わ!!なんでおまえはいってくんの?」
バスタブに浸かっていた松山が慌てて身を起こす。
「いいじゃん、たまには♪」
「ゆっくり夜景見てたのに〜〜〜〜〜〜〜」
確かに、ここからも夜景がよく見える。
文句をいいつつも、松山が俺の入るスペースを作ってくれる。
とはいえ、大人二人が入るには広いとはいいがたい。
自然、向かい合って足が絡まるような形になる。
「すげえ、えっちっぽい・・・・・・」
「何をいいまさら。これからもっとやらしいことすんだろう?」
ガラスに二人の姿がうつる。
星屑を捲いたような夜景の海に浮かんでいるようだ。
思わずうっとりと、それを眺めてしまう。
「つくづく俺達って・・・」
「なんだよ」
「いやなんでもない」
松山の表情がぐっと色っぽくなる。
そして俺の耳元で囁いた。
俺はうなづくと、そのはにかんだ口元に吸い寄せられるように顔を寄せた。
「メリークリスマス、日向。クリスマスプレゼントはやっぱ・・・俺だろ?」