病院へいこう(3)

 
 


<若島津健の理由>

 全日本合宿の解散の日、翌日飲み会が行われることが決定した。
 俺や日向さんなんかは、東京に住んでるからいつでも構わないけど、地方組は一度地元に戻ったら、なかなかこっちに出て来れないだろうってことで。
 反町が幹事を命ぜられ、ヤツの指定した時間と場所にばらばらと人が集まりはじめた。
 三杉とか翼って、あんまり飲み会ってキャラじゃないように思うのだけど、こうやって同じ年代の仲間達とざっくばらんに笑っているのを見ると、ちょっとホッとする。
 ほとんどのメンバーが揃ったにも関わらず、目立つあの人達がまだきていない。

「日向さんと松山は?」
「どうしたんだろ?連絡ないよー」
「珍しいね」

 日向さんはともかく、松山は時間をきっちり守る方だ。
 その松山と一緒にくるんだから、日向さんも最近は遅れたりすることはない。
 とはいえ、二人がくるのを待っていても仕方ないと、飲み会は始まった。
 わいわいと盛り上がってはいるものの、空いてしまっている二人分の座席がどうしても目に入ってしまう。
 反町も気になるみたいで、俺のそばにやってきた。

「ねえねえ、電話してみても大丈夫かなー」
「うーん。あの二人も久しぶりに家戻ってるからな・・・」
「邪魔しないほうがいいってことっすか!!」
「いや、電話してみろ」

 反町が松山の携帯に電話をかけた。しかし受話器を耳にあてたままで話し出す気配はない。

「電源はいってませんとかいってる〜〜〜」

 俺も日向さんの携帯に電話をかけてみる。しかし結果は同じだった。
 一応念のため、家のほうにもかけてみるが、留守電になったまま当人達が出てくる様子はなかった。

「どっかいってるのかなー」
「まあ、コドモじゃねえんだから。留守電、いれといたから聞いたら電話くれるだろ」
「そうかなー」

 結局、飲み会がお開きになる時間になっても、二人はあらわれなかった。
 新田がアルコールのせいで気持ちが大きくなっているのか、松山さんちに行きましょう!!と騒いでいる。
 松山んち・・・っていうのは日向さんちなんだぞ。お前、最近松山にひっつきすぎて、日向さんに睨まれて怖がってたくせに。
 でも、確かにちょっと気になる。もう一度電話してみようかな。
 携帯ではなく、家に電話をかけてみると、5コール目くらいに日向さんが出た。

「なんだ、やっぱりいたんじゃないですか」
「え?若島津?なんだよ・・・・、あ、やべ」
「やべ・・・って、アンタ約束あるの忘れてたでしょう。松山となにしてたんですか?」

 気がつくと、俺の周りにみんなが集まって電話の会話に耳をそばだてていた。

「日向君と松山君、ウチにいたらしいよ?なーんだ」
「ひどいー、松なんでこなかったんやー」
「今からでも来るべきだね」

 外野がわいわいと騒ぎはじめる。
 俺はそれを手で制すると、日向さんに問いかけた。

「ほんと連絡くらいしてくださいよー。これから2次会には来れるでしょう?みんなも待ってますよ」
「悪い、いけねえ」
「何ですかー。いいじゃないですか。そうだ松山にもかわって下さいよ。アイツなんて言ってます?」

 松山だったら、絶対ここまで誘われれば来るはずと思って、かわってもらうように言うと、帰ってきた返事は意外なものだった。

「松山、いねえから」
「え?いない?」
「ちょっと・・・今日手術して入院したんだ」
「手術?入院?松山が?」

 その言葉に、周りがざわざわとどよめく。
 いったい何があったんだろう。

「手術って・・・どうしたんです!!」
「盲腸だったんだけどよ。無事終わったから心配すんな。じゃあな」
「ちょっと!じゃあなじゃなくて!あっ―――」

 電話は無情にも日向さんから切られてしまった。この人は・・・。
 だいたい考えていることはわからないでもない。たぶん、松山の見舞いに俺達をこさせたくないんだろう。
 でも、そんなの調べればすぐに分かるんだってこと、気付いてないな。たぶん。

「松山君、盲腸だって?」
「そうだって。日向さん、それだけ言って切っちまった」
「ふうん。僕達に見舞い行かせないつもりだね」

 ほら、三杉だってお見通しだ。
 三杉は携帯を出すと、どこかへ電話をかけた。

「○○中央病院だって。307号の特別室にいるってさ。面会時間は10時半からだそうだよ」

 さすが・・・。
 慌てて皆が手帳や携帯にメモをとっていた。松山、愛されてるなあ・・・。
 明日、きっと大挙して押し寄せるコイツらに日向さんも驚くだろう。俺もいくが。
 盲腸だったら、手術翌日でも見舞って大丈夫だろう。


 2次会は、勢い松山の話題でもちきりだった。
 いやはや日向さんがいなくてよかった。



<反町一樹の理由>

 松山が盲腸だって!
 そりゃあ飲み会こられないよね。日向さんも一言連絡してくれればいいのになー。
 若島津曰く、連絡したら大変なことになるから、日向さんの選択も間違いではない、とか言ってたけど。
 確かに、二次会の時の皆の騒ぎっぷりを考えたら、手術終わった後の松山のトコに押し掛けてしまいそうな勢いではあったけど。
 三杉が入院先を調べてくれたので、それぞれ都合のいいときにお見舞いにいくことになった。
 都合のいい時・・・って多分、今日みんな集まっちゃうと思う・・・。
 きっと慣れない入院生活で、松山も腐って行くだろうと、差し入れに漫画を持って行くことにした。じゃーん、反ちゃんお勧めの「どらえもん」傑作選。
 若島津と最寄り駅で待ち合わせて、病院へ向かった。
 ほんとに日向さんと松山のウチの近所だ。最近はお宅にも訪問させてもらってないので、この駅に来るのもひさしぶり。
 
「松山ー。お見舞いきたよー」
「反町?若島津?」

 病室に入ると、松山がちょうどよろよろとベッドからおりるところだった。そして、腕には点滴の針が刺さったままなので、点滴がぶらさがったハンガーみたいなのを押しながら、よろよろこちらへ向かってくる。
 やっぱり切ったところが痛いみたいで、無意識に前屈みになってるのが病人っぽい。って盲腸ってこんなに早く回復するもんなのか〜?
 それに、きている寝巻きの裾が寝ている間にはだけたのか、ほとんど足がみえてるんだよ〜。そのままどこにいくんだ!!

「ちょ、ちょっと!松山どこ行くの?」
「ん、トイレ」

 若島津が、きょろきょろと病室を見回して、気がついたように訊ねる。

「日向さんは?」
「買い物いってるからすぐ戻るぜ。悪い、ちょっとそのへん座っててくれよ」

 のろのろとした歩みで、松山はトイレに入っていった。特別室でよかったね、松山。トイレ部屋についてて。
 応接セットみたいのまでついてる。
 俺達は、お言葉に甘えてソファーに腰掛けることにした。
 すぐに日向さんが帰ってきた。俺と若島津の姿を見て、一瞬驚いた顔をする。えへへーきちゃいましたよーだ。

「おまえら・・・」
「おかえりなさい日向さん。ダメですよー、ちゃんと連絡してくれないと」
「そうそう。あ、俺ら一番乗りですか?これから皆、どんどん来ますよ、多分」
「何?」

 ちっ、と日向さんは舌打ちをすると、ふいにベッドに松山の姿がないのに気付いたらしい。
 慌てふためいて、ベッドを見回す。下とか覗いちゃって。落ちてるわけないじゃん。
 もう、おかしい〜〜〜。日向さんのこんな姿なかなか見られないよね。

「おい!松山がいねえ!!」
「うっせーな、何騒いでるんだよ」

 用を終えたらしい松山が、またカラカラと点滴を押しながらよろよろベッドに戻った。
 日向さんがほっとしたように、松山がベッドに横たわるのを手伝う。まあ、甲斐甲斐しいことっ。
 松山が、うれしそうに俺達をみて笑う。

「なに?見舞いきてくれたのか?サンキュー。日向連絡してくれたのか?」

 日向さんが気まずそうに顔を背ける。若島津がにやっと日向さんをみて笑っていた。
 まーねー、と二人で一応相槌を松山にうっておいてあげることにした。

「ねえねえ、盲腸ってきいたけど、ずっと痛かったの?」
「ちょっとな・・・。でも我慢できないほどじゃなかったし。ココに来てからの方が痛いことばっかだったぜ」
「合宿中痛かったってことだよね?!」

 うへー。それであんな動きされてちゃかなわないよな。
 松山といい、翼といい、若島津といい・・・この人たちちょっとおかしい。
 しばらく松山と話をしていたけれど、点滴のせいか、眠いみたいで生欠伸をしだした松山に気付いて、俺達は早々に退散することにした。またこの後見舞い攻撃すごいだろうしね。
 日向さんの目が早く帰れと言ってるし。

「じゃあ、松山、また来るから。なんか欲しいもんあったら持ってくるけど?」
「ん、大丈夫。どうもありがとうな」
「お大事に。日向さんも気をつけて」
「ん」

 松山が目をつぶったのを視界の端に捕らえながら、部屋をでていくと日向さんもついてきた。
 廊下にでると、やっぱり聞いてきた。
 
「若島津、反町。あと誰がココ知ってんだ?」
「昨日の飲み会にいた連中全員」

 日向さんの頭ががくり、と下がる。

「いや・・・見舞いきてくれて構わねえんだけど」
「騒ぐな、ってことでしょ。松山もつきあって興奮しちゃうから。みんな分かってると思いますよそれくらいは」
「ああ・・・そうだけどよ・・・」
「今みたいに、アンタが睨みきかせてれば大丈夫ですよ」

 若島津がいけしゃあしゃあと言う。
 しょうがないじゃん、みんな松山が好きなんだから、と俺も言いかけてやめた。日向さんもわかってるから困ってるんだろうし。
 いいなぁ松山・・・。俺が入院したら、どれくらいの人が来てくれるんだろう?なんて思いながら病院を後にした。