日向が俺の中から出ていく。
繋がっていた箇所から、受け止めきれなかった日向の精液が流れ出て、尻の下を湿らす。全身は汗びっしょりになっていた。
よくもまあこんな狭い場所でできたもんだというのを、日向が持ち上げていた俺の両足をそうっと伸ばさせると、自分は床に膝立ちして俺を覗き込んできたことで気が付いた。安物のソファーの上で繋がっていたのだ。
俺は、全身をソファーの上に投げ出す。カラダの端々が重い。大きく息を吸うと、俺を見下ろしている日向の顔をぼんやり眺めた。
さっきまでの余裕のない獣のような表情とは打って変わって、汗で額に張り付いた前髪を無造作にかきあげる男前は、優しい目で俺を見つめている。
その優しい目が近付いてきたと思ったら、軽く唇に触れるだけのキスをしてきた。なんだか滅茶苦茶それが甘く感じてこそばゆい。
なんだかその甘さに浸ってしまいそうになるのが恥ずかしくて、みつめる日向から目を逸らす。
日向はそんな俺の態度に焦ったように、問いかけてきた。
「松山・・・、大丈夫か?」
「・・・ああ」
「・・・後悔して―――?」
「してねえよ」
俺の言葉にほっとしたように日向が息を吐いた。
そう、後悔はしてない。ただ恥ずかしいだけだ。それを日向には悟られたくない。なんだか女の子みたいに気遣われるのも嫌だから、わざとなんでもない振りをする。
「悪い、ソファー汚しちまった」
合皮のソファーは俺の汗と、二人の精液で湿っている。そういえば、背中が気持ち悪い。
俺はのろのろと上半身を起こすと、手を伸ばした。
頭の上に投げ捨ててあった自分のTシャツを掴むと、それで水滴のついた箇所を乱暴に拭った。どうせ洗濯するんだ。これで構いやしない。
そして座っている場所をずらし尻のあった場所を拭こうとして、全裸の自分の下半身を目で確認してしまうと、気持ちが急速に現実に引き戻された。
いまはすっかり萎えた自分のモノと、座面に溜まった白濁した液体。
日向のモノが俺の中に入っていたんだなぁ―――。
受け入れていた場所は、まだなにか挟まったような感じでちょっと変な感じだった。入り口は少しぴりぴりする。当分こんな感じなのかもしれない。
Tシャツを握ったまま、少し放心していたらしい。
気が付くと日向が、自分の脱ぎ捨てた下着で俺の脚の間を拭いていた。そしてはっと気付いたように手を止めて俺に言う。
「あ、やべえ。コレ使っちまった―――」
「どうせこのシャツ洗濯するしお前のも一緒に洗っちまえば、明日には乾いてるだろ」
とてつもなく長い時間がたっていたような気がしたが、言いながら時計を確認するとまだ日付けが変わったばかりだった。
日向もそう思ったらしい。
「なんか・・・、まだこんな時間なんだな」
「なあ」
俺は立ち上がり、ソファーをざっと拭き終わると汚れたTシャツと他の脱ぎ捨てた服を拾い集めた。ついでに日向のシャツも。
日向の手にあるヤツの下着も受け取ろうとしたら、日向も立ち上がったのでそのまま風呂場の前にある洗濯機に向かった。日向もそのままついてくる。
深夜、フリチンの男が二人洗濯はじめようとしてるんだ。なんだか可笑しい。
俺は喉の奥で日向に気付かれないように笑いながら、洗濯物を放り込んだ。
「そうだ、日向オマエ、先シャワー浴びちまえよ」
すぐそこにあるユニットバスのドアをあけて、指し示す。
「お湯の切り替えココだから。温度は自分で調整してくれ」
そして、作り付けになっている脱衣場の棚からタオルをとり日向に押し付ける。
「おまえは?」
「俺?後でいい。お前の着るものさがしとくから」
「松山こそ先に浴びろよ。汗びっしょりだし、それに・・・」
「うっせえな。ここは俺んちだ。俺の言うことに従え」
「・・・じゃあ、一緒に入ってくれよ」
「はあ?」
「一緒にシャワー浴びよう」
何阿呆なこと言ってんだ。ウチの風呂場は狭いんだぞ。男二人で入れるかっていうの。
黙って日向を押し込むと、俺はドアを閉じようとした。
それを日向の太い腕が許さない。
「なんだよ」
「じゃあ俺の好き勝手してもいいのか」
「何それ」
「俺が先に入って松山が風呂入ってる間に、お前の下着とか盗むかもしんねえぞ。俺にすればズリネタだからな」
「・・・おまえなぁ。っていうかどうやって帰るんだよ、お前の服、今洗ってんだろうが」
「・・・そうだったけか」
なんだか日向が妙に子供っぽくなったような気がする。子供っぽいというか、なんというか。
いや、前からか。そういやウチに呼べ呼べいってたのも子供みたいなもんだもんな。理由はどうにせよ。
「わかったよ、はいりゃいいんだろ!」
「そういう言い方はねえだろ!」
「・・・日向オマエなぁ・・・」
俺がすこし不機嫌そうに見上げると、日向が慌てて口を噤んだ。
これが前だったら殴り合いになってるんだよな。
それにしてもやっぱり狭い。立っているだけでもぎゅうぎゅうだ。シャワーヘッドを掴もうとして日向の胸板に腕が当たる。
とっとと洗い流して出ようと、コックを捻りお湯を出した。少しぬるめだがこんなもんでいいだろう。
ざあっと全身を先に流すと日向にシャワーを渡し、俺はボディソープをカラダに塗りたくった。
ふいに、日向の手が俺の尻を撫でる。
「おい!」
「だってよ・・・」
ぎっと睨み付けると、それ以上日向は俺に手を出すのをやめて、大人しく自分もカラダを洗いはじめた。
並んでみると目立つ色の違い、体格の違い。
俺だって、そこらへんの男よりはサッカーやってる分、鍛えられているカラダだ。筋肉だってついてるし。でも日向に比べると持って生まれた体格の違いというのをまざまざと実感させられる。
浅黒い肌。骨太で、広い肩幅、厚みのある胸、割れた腹部。男らしいカラダっていうのはこういうのを言うんだろうな。
それに引き換え、俺の白い肌。こればっかりは生まれつきなんでしょうがないが結構気にしている。細すぎるわけではないけど、もう少し腰回りがあってもいいよな。あと、日向くらい背があればよかったのにと、止まってしまた身長を恨めしく思う。
だけど絶対、女っぽいとかいうカラダではない。どうして日向はこんな俺の体に欲情するんだろうか。
コトが済んでしまった後ですら、謎だ。そしてそれを受け入れてしまった俺も謎だ。
頭も洗って、ずぶ濡れのまま先に風呂場を出る。バスタオルでざっと体を拭き、頭からバスタオルをかぶったまま、部屋のタンスの前で日向に着せる服を漁る。
どれもこれも日向には小さいかもしれない。下着はしょうがねえから洗濯物が乾くまでナシでいさせよう。
そういえば、自分にはちょっと大きすぎて着てなかったもらい物のジャージがあるのを思い出して、それを引っ張り出した。
俺も新しい下着と短パンを身につけて、部屋をでると既に日向もあがったようで、リビングのソファーに腰掛けて待っていた。バスタオルを腰巻いた姿だ。
「コレ着ろよ」
「・・・別に構わん。このままで」
「それだと風邪ひくだろ。それに、そんな姿でうろうろされちゃ気になる」
「松山こそ着替えちまったのな。そのままで良かったのに」
「阿呆」
手渡したジャージに日向が着替える。やはりすこしきつそうだが、まあいいだろう。
「そういえばよ、日向、ウチとかきてて大丈夫なのか?」
「え?」
「蒸し返すようでアレだけど、お前ってマネージメントしてもらってる人とかクラブとか・・・」
「ああ。とりあえず暫く反省のために隠れてますって言ってきたら、その間にどうにかしておくって言われた」
「・・・そーゆーもんなのか?」
「結局はしてない、ってことがでかいみてえだけどな」
「でもさ、お前のイメージとかそういうの、かなり崩れたんじゃねえ?」
「イメージなんて・・・、勝手に周りが作り上げたもんだろ。俺は俺だ。松山を好きな俺が本当の俺だ」
また、熱っぽく日向に見つめられ、俺はどぎまぎしてしてしまう。
さっきは思わず口にしてしまった日向に対する俺の『好き』だったが、やっぱりまだ迷いが生じている。戸惑っている。
もし、日向以外のヤツに「お前でしか勃たねえ」とか言われても、同じような結果にはならないだろう。多分、そいつを殴って終わりだ。冗談じゃない。もしそれが友達だったら、そこで終わりだ。
だけど、日向とはできた。日向だからできた。
日向を好きだから?好きなやつだからできた?
俺は、テレビのリモコンに手を伸ばし、別にみたくもないけど電源を入れる。
通販の番組とか、古い映画とか、チャンネルをいろいろ切り替える。部屋の中に、雑音が溢れる。
それらの音に混じって、洗濯機が終了の電子音を鳴らした。
俺より早く、日向が立ち上がる。そして立ち上がろうとする俺を制する。
「松山、疲れたろ。座ってろ」
日向はきれいになった洗濯物をかごにいれて戻ってくると、ベランダにすたすた向かう。
正直、すっかり俺は面度臭くなっていたので、丁寧に皺なんか伸ばしながら、物干ハンガーに服を下げていく背中を座ったまま眺めていた。
実に甲斐甲斐しい。こんな嫁さんいたらいいよな、とか頭のなかでちらりと思う。でもその後浮かんだ新婚生活風景に俺といるのは日向の姿で。どんどん、日向に感化されてきている気がする・・・。
「おい、松山コレすげえな」
洗濯物を干し終わった日向が、ベランダの隅にあったサボテンの鉢を手に部屋に戻ってきた。
勝手にウチの中にいれんなよ、と言いかけて日向の手の中にあるそれをみて、息を飲む。
みると、サボテンからそそり立つ緑色の―――。
「うわ・・・」
俺がこのまえ見た時は、まだ親指の先くらいだったサボテンから生えてきていた新たな芽のようなもの。
今目の前にあるそれは、ほんの数日のうちに姿をすっかり変えていた。
長さも大きくなり、天をさすように伸びて。
「なんか、エロい」
日向の言葉通りだ。俺の感想もその通りだ。まさにその姿はエレクトした男性器のようだった。サボテンの一部でありながら、異質な光景に俺も驚く。
一体これなんなんだろう。
「これ、蕾じゃねえかな」
「え?つぼみって」
「サボテンの」
「サボテンって花咲くの?だって今までそんなのみたことねえ」
「いや、俺も実際にはみたことねえけど、なんか咲くのもあるんだろ。ほら月下美人とか、よく年に一度しかさかないとかってニュースでやったりとか」
「・・・そうなんだ」
言われて、もう一度じっくりとそれを眺めても、全然蕾らしくない。花の面影なんかどこにもない。
先っぽまでとげに覆われて、単にそれはサボテンの子供という感じなのだが。
それにしても。
「なんでわざわざ持ってくんだよ」
「いや・・・」
日向は鉢を窓の隅に置くと、俺の前に座り込みじっと俺をみつめる。
「なんか・・・アレ見てたらまた―――」
そいうと日向は俺をフローリングの床の上に押し倒そうとする。
俺はその手をやんわりと押しとどめながらも、答えた。
「ここじゃなくて、あっち・・・ベッドで―――」
日向は黙って、俺を立たせた。
つづく